『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、ニュージーランド銃乱射テロの背景にある、掲示板文化の中で醸成されたファシズムについて語る。

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ニュージーランドクライストチャーチのモスク3月15日に発生した銃乱射テロ。50人もの命を奪った容疑者は、白人至上主義者を自称する28歳の豪国籍の男性で、SNSに犯行予告を投稿し、銃を乱射する様子を生中継しました。

今回の犯罪の特徴は、彼が銃を乱射している最中に発する「言葉」に端的に表れていました。生中継動画には、いわゆる「8chan用語」がちりばめられていたのです。

8chan」とは、アメリカを中心に白人至上主義などヘイトな思想の温床にもなっている画像掲示板です。容疑者は事件前、テロの動機に関する"マニフェスト"を8chanにアップし、生中継動画へのリンクも投稿。この惨劇の様子は、8chanから拡散していきました。彼は生粋の"8ちゃんねらー"だったようです。

自分たちにも他人にもどこか嘲笑的で、ネタのようにヘイトを書き込む。そんなネット黎明(れいめい)期のカルチャー、日本でもかつて「2ちゃんねる」が隆盛を極めた時代に盛り上がったような空気感が、そこには残っています。

あるオピニオン記事では、今回の乱射事件の背景に"ironic online fascism"があると指摘。皮肉的で嘲笑的な閉ざされた掲示板文化の中に、白人至上主義を広める"手引き"が潜んでいる。そこで醸成されたファシズムが悲劇を生んだ――というわけです。

〈この程度のネタについてこれないバカ、ウソをウソと見抜けない初心者はお呼びでない〉

〈こんなジョークに"マジレス"するやつはサムすぎる〉

ある種の選民意識の中で、どんどん差別的な言説、すれすれの表現が肥大し、反論をも冷笑する。もはや特定の掲示板を超え、SNSも含めたネット空間に定着したサブカルチャーのようなものです。

ある意味でリテラシーの高い人たちの悪ふざけ文化ともいえるこのカルチャーが、極右的なヘイトを現実に広めていること。

そして、「ネタをネタとして見る」ことができない人が世の中にはいるということ。その当たり前のようなことを、今あらためて見つめる必要があるような気がします。

また、今回の事件でもうひとつ明らかになったのは、こうした悲劇を国家元首までもが政治的に"利用"する時代になったということです。

事件直後、トルコエルドアン大統領は地方選の選挙集会でテロ実行犯の襲撃動画を上映し、「これはトルコイスラム世界に対する攻撃だ」と支持者らをあおりました。

ひとりの精神を病んだ白人至上主義者の犯行ではなく、西洋の白人社会全体がイスラム社会を潰(つぶ)そうとする動きの一環だ――そんな陰謀論におわせたのです。とても一国の大統領がやることとは思えませんが、これもまた、極論ばかりが力を持つ現代社会のひとつの現実かもしれません。

なぜ、狂った意見がある一定の集団の中で広く共有されるのか。憎しみの花粉を遠くまで運び、広めている"ミツバチ"は、声高にヘイトを叫ぶ人たちばかりではなく、それに対する反論を冷笑し、無力化している人たちでもある。

頭がよく、分別があると自任する人たちが始めたおふざけが、世界中で取り返しのつかない分断や憎しみを生んだという現実に、真剣に向き合うべきときが来ていると思います。

モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(朝日放送)、『報道ランナー』(関西テレビ)などレギュラー多数。本連載を大幅に加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!

「頭がよく、分別があると自任する人たちが始めたおふざけが、世界中で取り返しのつかない分断や憎しみを生んだという現実に、真剣に向き合うべきときが来ている」と語るモーリー氏