― 連載「倉山満の言論ストロンスタイル」―



◆はっきり言う。安倍内閣は、おバカの見本市か?



 またしても、やらかした安倍晋三さんは、皇室の歴史に名を残した。「天皇に“キラキラネーム”を贈った首相」として。



 現行の一世一元の制では、元号はその代の天皇の名前となる。だから、元号を決めるとは天皇陛下のお名前を決めるということだ。



 最初の元号である「大化」が定められたのが、西暦で言えば645年。以後、約1400年間、元号の制定に関しては最高の学者が議論をして奏上し、天皇の改元大権により定められてきた。改元ほど時の権力者に左右された権限もない。だが、決定に際し日本国最高の学者の議論が行われてきたのも、我が国の伝統だ。



 いずれ「令和」は次の陛下のお名前となるので“キラキラネーム”と批判するのは心苦しい。しかし、言うべきことは言わねばならない。



 はっきり言う。安倍内閣は、おバカの見本市か? 大臣や側近に、体を張って止めようとする人間が一人もいなかったのか?



 元号にケチをつけると、左翼? 共産党? そんな低い次元ではない。辞書を引いて「命令の令だ!」と批判するのも、「令嬢の令でもあるではないか!」と反論するのも結構。もちろん、言葉を議論するときは辞書の定義から出発すべきだ。しかし、あくまで出発点であって、終着点ではない。辞書の知識だけで語られても困るのだ。



 言葉は、人々が使うことによって意味が加えられる。歴史を背負うのだ。国語辞書など、その時点での意味をまとめたものにすぎない。また、権威がある辞書でも、詳しい歴史までは教えてくれない。



「令和」には三つの呪いが込められている。



 一つ。そもそも、「令」とは皇太子と緊密な言葉なのだ。天皇の命令は特に、「詔」「勅」の字で表される。



「詔書」「勅語」などである。それに対し、皇太子の命令を「令旨」と呼ぶ。後世になると、「令旨」は皇太子以外も使用している。源平合戦の時の、有名な「以仁王の令旨」などだ。



 院政期、政治の実権は上皇(法皇)が握り、「今の帝は東宮の如し」と揶揄された。東宮とは、皇太子のことである(後継予定者が天皇の弟ならば皇太弟)。



 つまり、皇太子殿下は天皇に即位されても「東宮の如し」との意味が読み取れるのだ。



 二つ。「令」の字は一回だけ候補に挙がったことがある。幕末の文久4(1864)年、朝廷からの案には「令徳」があった。前近代は漢字を漢文風に読む習慣があった。当時の常識では、「徳ニ令ス」としか読めない。どう読んでも、「徳川に命令する」の意味だ。誰が? 天皇をいただく朝廷しかない。朝廷の露骨な王政復古宣言だ。挑戦状ともとれる。



 結局、「令徳」は採用されず、「元治」となった。ただ、「元」も「始」も「はじまり」を意味する。元治元年はその名の通り、池田屋事件~禁門の変~四国連合艦隊砲撃事件~長州征伐(馬関戦争)~功山寺決起と、幕末動乱から明治維新へと一気に突き進む起点の年となった。



 このような歴史を持つ「令」の字は、動乱の歴史を背負っているのだ。だから、元号においては「忌み字」として採用すべきではないとするのが、常識的見解なのだ。



 三つ。「令和」とは「和ニ令ス」の意味となる。「和国に命令する」のである。誰が?



 天皇陛下皇太子殿下ではない。



 元号の事前公表そのものが、新儀である。日本国憲法下最初の改元である「平成」でも、新帝(今上陛下)の最初のお仕事は、改元への御名御璽であった。実際は臣下である政府が決めるにしても、改元大権の伝統的形式は守っていたからだ。



 今回の事前公表で、それが破られた。内閣法制局長官横畠祐介は、



「天皇に配慮すれば、憲法違反になる」との理由で、事前公表に踏み切ったとか。



 それどころではない、聞き捨てならない報道もされている。



 安倍内閣は天皇と皇太子に事前に伝えれば憲法違反になるので、政府が決定するまで伝えなかったとの報道だ。政府が決定するや、西村康稔官房副長官が山本信一郎宮内庁長官に電話し、天皇陛下には長官が、皇太子殿下には西村泰彦次長から報告したと続く。



 これが事実なら、安倍内閣は逆賊だ。逆賊で悪ければ朝敵だ。本来ならば陛下より治罰の綸旨を賜り、武力誅罰すべき所業だ。



 さすがに安倍首相も、そこまで愚かではないと信じたい。4月1日の決定、発表の前に、首相は陛下と殿下にお会いしている。その時に候補となった6案を示し、そのいずれかになるかの勅許を得ているであろうと信じたい。



 せめてそれくらいはしていて欲しいが、今回の一連の過程でわかったことは、「令和」は「政府の元号」ということだ。



 和国、すなわち日本に命令するのは、日本政府だ。天皇陛下皇太子殿下、皇室に命令する者が、日本政府だ。



 では、この場合の日本政府とは誰か? 安倍晋三如き小物ではない。安倍内閣の面々に、この程度の教養を持ち合わせた大臣もおるまい。



 かつて、室町幕府三代将軍の足利義満が、明の元号である「洪武」を推したことがある。当時の義満は誰も逆らえない超権力者だった。その義満が中華かぶれだったからタチが悪い。しかし、さすがに日本を中国の属国にするような元号である。日本が歴代中華帝国と異なる元号を使い続けてきたのは、独立国としての気概を示すためだ。さすがに、普段は気弱な公家も猛然と反発。義満の御用学者たちは完全論破され、「洪武」が採用されることはなかった。



 現代、元号は閣議に諮られる。その際、「こんな元号には署名できない」とその場で辞表をたたきつければ、その大臣は国体護持の英雄となっただろう。もっとも、今の政府に勇気や教養を求める方が無駄か。



 安倍首相は「令和」の典拠となった『万葉集』の素晴らしさを滔々と語っていた。誰か、安倍首相の好きそうな作文を用意し、話を吹き込んだのだろう。「漢籍ではなく和書を典拠とすることで、中国への自立を宣言できます」などと。その万葉集モチーフが漢籍だったのだが……。



 決まったことは仕方ない。しかし、国民は悪意に目を光らせるべきだ。



 皇室と日本を守るために。

【倉山 満】
憲政史研究家 ’73年、香川県生まれ。’96年中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程を修了。在学中より国士舘大学日本政教研究所非常勤職員として、’15年まで同大学で日本国憲法を教える。’12年、希望日本研究所所長を務める。同年、コンテンツ配信サービス倉山塾」を開講、翌年には「チャンネルくらら」を開局し、大日本帝国憲法や日本近現代史、政治外交について積極的に言論活動を展開。ベストセラーになった『嘘だらけシリーズ』など著書多数





新元号「令和」に関して記者会見をする安倍首相。「人々が美しく心を寄せ合うなかで、文化が生まれ育つという意味が込められている」と美辞麗句で説明されたが……(写真/時事通信社)