2017年に放送され、大きな話題を呼んだドラマ『やすらぎの郷』の続編『やすらぎの刻~道』テレビ朝日系・月~金11時30分~)がいよいよ放送開始された。

あれから老人ホームの面々がどうなったのか、あの登場人物は再登場するのか? ……と気になる以上に、清野菜名風間俊介の夫婦がどんな感じで登場してくるのかワクワクしながら待っていたのだが、第1週目では脳内ドラマである『道』パートはまだはじまらず。

1年間続く帯ドラマとはいえ、相変わらずスローペースなストーリー展開だ。

第1週のあらすじ
前作から2年。

かつて売れっ子脚本家だった菊村栄(石坂浩二)は、資料の中から古い脚本を見つけ、ずっとそのことが頭を占めていた。

10年前、白川冴子(浅丘ルリ子)から聞いた、戦時中の「満蒙開拓団」の話から着想し、湾岸テレビのプロデューサー・財前茂(柳葉敏郎)に促されて執筆した『機(はた)の音』というドラマの脚本だ。

国策に翻弄され、数奇な運命をたどった姉妹を描いたその脚本は、姉妹を演じる予定だった白川冴子、水谷マヤ(加賀まりこ)からも、財前たち湾岸テレビのスタッフたちからも絶賛されていたのだが、突然、財前からの連絡が途絶える。

実は『機の音』の企画はボツになっており、すでに別の企画が動き出していたのだった。


こう見ると、やはりあんまり話が進んでいない! ただ、ゆっくりと場面を描いているがゆえに、見応えのある第1週目だった。

倉本聰の脚本執筆過程がそのまんまドラマ化?
戦時中、国策に従って当時の満州国内モンゴル地区を開拓するために移住していった「満蒙開拓団」の人々。その実態は、現地の人が耕した土地を強引に奪って、日本人の土地にしてしまうというものだった。

敗戦後、日本軍に見捨てられた開拓団は、攻め込んできたソ連軍によって、略奪や暴行など悲惨な運命をたどっていく。

興味深かったのが、この「満蒙開拓団」をモチーフとしたドラマ『機の音』の脚本執筆過程が細かく説明されていたところ。

カメラや録音機を持たずにシナリオハンティングをし、長~い巻物のような年表を使って登場人物の履歴書を作成。ドラマの舞台となる村の絵を描いて、ドラマのワンシーンを脳内で妄想する。

これはそのまま倉本聰の脚本執筆方法なのだろう。

戦争の悲惨さを伝えるドラマではあるが、その悲惨さをどの程度生々しく描くべきか、脳内ドラマでシミュレーションして取捨選択していく。

執筆中の倉本の脳内をのぞいているようで、ドラマとメイキングを同時に見ているような感覚だった。

「こういう生々しいシーンはやはりやめようと思った、それは視聴者が想像すればいい」

「戦時下のドラマを書くということは人の傷口をのぞくことだった。かさぶたを剥いで再生した皮膚をもう一度むしり、その奥から肉を出すことだった」

前作でも菊村に「物書きは人を傷付けてはいけない」と語らせていたが、この辺りは視聴率優先で刺激過多になっている最近のドラマへの苦言だろうか。

結果的に、テレビ局から「人を傷付けない」菊村の脚本は「暗い」と判断され、さらには若者受けしない白川冴子、水谷マヤでは「視聴率が取れない」ということで、『機の音』の企画はボツになってしまうのだが。

まだフジテレビを許してなかったんだ……
『機の音』をボツにしたテレビ局が「湾岸テレビ」だというのも見逃せない。

もともと『やすらぎの郷』は、「シニア世代が楽しめるドラマ枠を」と考えた倉本が『北の国から』などで縁の深いフジテレビに持ち込んでいた企画。事前に構想を浅丘ルリ子と加賀まり子に相談したところ、大乗気になっていたそうだ。

しかし『やすらぎの郷』の企画はフジテレビからけんもほろろに断られ、結果的にテレビ朝日に持ち込まれ、ヒットにつながった。

具体的な経緯は明かされていないが、フジテレビから「浅丘ルリ子と加賀まりこじゃ数字が取れない!」とか「テレビの視聴率は若者が占めています!」なんて言われていたのかも知れない。

菊村が湾岸テレビのスタッフたちに訴えていた、

「若者は今やテレビ離れを次第に起こしています。高年齢の視聴者層は見るものがなくてウンザリしています」

というセリフは、そのまんまこの「帯ドラマ劇場」の企画意図であり、倉本聰の心の叫びだろう。

この時の恨みを晴らすためか(!?)、前作でも「ここ(湾岸テレビ)の月九枠はさんざん」というセリフが登場するなど、ちょいちょいフジテレビ・ディスがぶっ込んでいたが、まだ許していなかったのか……。

今後、「ドラマの脚本を書く」過程そのものが描かれていくと思われる本作。

倉本は『やすらぎの郷』終了後に『ドラマへの遺言』(新潮新書)という本を上梓しているが、
『やすらぎの刻~道』は、テレビ局や若い作り手たちに向けた、倉本聰の「ドラマへの遺言」となっていきそうだ(何だかんだでさらに続編を書くような予感もしているが)。

ところで、『機の音』がボツになったことを言い出せずにいたポンコツ・プロデューサーの財前茂だが、前作でバー・カサブランカバーテンダーをやっていたハッピーちゃん(松岡茉優)の本名も財前ゆかりだった。「財前」なんて珍しい名字、関係者としか思えないが……?
(イラストと文/北村ヂン

【配信サイト】
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『やすらぎの刻~道』テレビ朝日
作: 倉本聰
演出:藤田明二、阿部雄一、池添博、唐木希浩
主題歌: 中島みゆき「進化樹」「離郷の歌」「慕情」
音楽:島健
チーフプロデューサー:五十嵐文郎(テレビ朝日
プロデューサー:中込卓也(テレビ朝日)、服部宣之(テレビ朝日)、山形亮介(角川大映スタジオ)
制作協力:角川大映スタジオ
制作著作:テレビ朝日

イラストと文/北村ヂン