サッカー王国ブラジルが、また眩いばかりの才能を持つ選手を生み出した。ラテンアメリカ最大の領土と人口を擁する国で生まれたその男は、ブラジルのみならず、”偉大なる”レアル・マドリードの未来も背負っている。

 全10回に分けてお送りする「リーガ・エスパニョーラヤングスター特集企画」。第1回は、初挑戦となる欧州の舞台できらめきを放っている18歳の超新星ヴィニシウス・ジュニオールを紹介する。

名前:ヴィニシウス・ジュニオール(Vinicius Junior)
誕生日:2000年7月12日
年齢:18歳
身長/体重:177cm/62kg
主なポジション:左ウイング
リーグ成績:15試合出場1ゴール2アシスト

◆■レアルでのトップチームデビュー戦は“マドリードダービー

 2000年、ヴィニシウスはリオデジャネイロサンゴンサロで生まれた。5歳からフラメンゴ系列のサッカースクールに通うようになると、5年後にはフラメンゴの下部組織に加入する。ブラジルきっての名門クラブで技を磨いたヴィニシウスは、2017年にプロ契約を締結した。

 2018年、プロデビューを果たしたフラメンゴからレアルに移籍したヴィニシウスは、当初Bチームにあたるカスティージャを主戦場としていた。だが、カスティージャの枠に収まりきらない活躍を見せたことで、トップチームのフレン・ロペテギ監督から声がかかる。

 ヴィニシウスに用意されたデビューステージは、実に華々しいものだった。2018年9月29日に行われたアトレティコ・マドリードとの“マドリードダービー”で出番が巡ってきたのだ。後半88分から出場だったため、ピッチにいたのはわずかな時間だったが、年齢的にはまだ高校生の若者が重要な一歩を踏み出した瞬間だった。

◆■“恩師”ソラーリの監督就任で状況が一変

マドリードダービー”後も度々トップチームに招集されるものの、なかなかアピールの機会がなかったヴィニシウス。だが、ライバルであるバルセロナの後塵を拝するチームが、ロペテギ監督の解任とサンティアゴ・ソラーリの指揮官就任を発表したことで、彼を取り巻く状況は大きく変わった。ソラーリは、伸び盛りの若武者をこう評価した。

「彼はまだレアルに来たばかりだが、スキルは毎日上達している。成長するのには、まだ多くの時間があるんだ。最高のチームメイトからも多くを学んでいるね。彼らはヴィニシウスに助言して面倒を見てくれる。価値あることを彼に教えているよ」

 カスティージャの監督を務めていたソラーリは、ヴィニシウスを間近で見ていた、いわば“恩師”。徐々に多くの出場時間を与えられるようになったヴィニシウスは、次第に「攻撃の頼みの綱」と言ってもいいほどの影響力を発揮するようになっていった。

◆■爆発的なスピードと“遊び心”あふれるトリックプレー

「ニュー・ネイマール」とも称されるヴィニシウスだが、圧倒的なスピードはネイマールを凌ぐ。細かいボールタッチで間合いをはかり、一瞬のスピードで相手を置き去りにする。欧州でのプレーは今季が初挑戦にもかかわらず、一対一の勝負では高い確率でディフェンスを混乱に陥れている。

 テクニックに秀でている点はネイマール譲りか。股抜きやシャペウを繰り出すことが多く、“遊び心”あるプレーは見ている者を楽しませてくれる。もちろん魅せるプレーに終始するわけではなく、対峙する相手のバランスを崩す細かいフェイントや予備動作も非常に上手い。

 ヴィニシウスに対する称賛の声は、サッカー界の至る所から聞こえてくる。レアルのOBであるフェルナンド・モリエンテス氏も、彼を高く評価する一人だ。

「一対一に強く、走ることが得意な素晴らしい選手だ。まだ彼は非常に若いし、成長するまで時間をかけて見守らねばならない。だが、今のようなプレーを続けていけば、間違いなくワールドクラスの選手になるよ」

 決定力に課題がある、時にエゴが強すぎるなどと言われることもあるが、思い出してほしい。彼はまだ“18歳”の若者なのだ。超一流選手になるための伸びしろと時間が、ヴィニシウスには多く残されている。

文=松本武水
写真=Getty Images

もはやレアルに欠かせない存在になりつつあるヴィニシウス・ジュニオール [写真]=Getty Images