4月10日に報道されたブラックホール観測のニュースで国際社会は沸いており、私も「イベントホライズン・テレスコープ」などの話題を記したいと思うのですが、JBpressにはその道のプロ、宇宙物理の小谷太郎氏が筆者として寄稿していますので、そちらにお譲りして、私はドラッグの話題の、続きをお届けします。

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 前回、アムステルダムからマリファナの話題(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/56030)をお送りしたところ、様々な反響をいただきました。ありがとうございます。

 なかでも、オランダの大麻事情に詳しい方から「あのように書いているが、それは違う、実際はこうだ」といった指摘をいただいたのは、大変興味深く、参考になりました。

 ただ、私自身はアムステルダムで「コーヒーショップ」と呼ばれるマリファナスタンドに入ったこともなければ、大麻を吸ったこともないので、言ってみれば酒を飲んだ経験がない筆者が、酒文化を語っているのに等しいものだと自覚しています。

 長年、現地で大麻を吸い慣れた方から見ると、隔靴掻痒だったかもしれません。

 しかし、本コラムを読む日本の読者ほぼドラッグ経験などない人だと思いますので、主としてビジネスライクに私が聞いてきた内容あたりで、ちょうどよいのではないかと思っています。

 今回は、オランダが「大麻を吸うことが解禁されている」だけではない点を指摘しておきたいと思います。

 大麻の栽培もでき、大麻の品種改良も盛んで、さらには分子細胞学を駆使した遺伝子操作で、様々なカンナビスを創り出し、一大産業を形成しています。

 これに伴う問題などを記してみたいと思います。

ベランダで手軽に大麻栽培

 まず最初に、4月初め、アムステルダムで友人の家に呼ばれた際、夕食時の話題で聞いた話をご紹介しましょう。

 今は還暦を過ぎた私の友人がまだ20代、1970年代の時、彼の知人の一人がカンナビスの種をもらって、育ててみたのだそうです。

 もっともその当時、本当にどの程度、大麻の栽培が合法だったのかは、よく分からなかったのですが、現代日本のようなことはなく、相当おおらかだったのは間違いありません。

 当時その人が住んでいた部屋には小さなベランダがあり、プランターで小さく芽を出したカンナビスが、日当たりがよく、またその人も甲斐甲斐しく水を遣ったりしたので、すくすく成長したそうです。

 ところが、ここから先が問題でした。すくすく伸びすぎていつの間にか背丈が1メートルを超すほどになり、プランターでは手狭になってしまった。

 そこで、その人は意を決し、天塩にかけて育てた可愛いカンナビスをもっと大きな鉢に植え替え、ベランダではなく集合住宅の屋上に移して育てることにした。

 これが良かったのか、悪かったのか分かりませんが、おひさまの光をいっぱいに受け、また時に驟雨や霧にも包まれるアムステルダムの気候が適してしまったのでしょうか・・・。

 育ってしまったそうです。背丈は優に2メートルを超え、背の高いオランダ人よりよほどで大きくなってしまった。

 茎は、人間の手首か足首のような太さになり、ほとんど「木」という状態。実に逞しく「青葉茂れる」状態のマリファナの木が、元気よく育ってしまった。

 マリファナが地下流通している国では、密造農園としてアパートの部屋を24時間照明で照らして、効果的に大麻が収穫できるようなプラントが工夫されているらしいですが、そういう人から見ると羨ましい限りでしょう。

 実に伸び伸びとおおらかに育てられた大麻が、すっかり成熟して、さあ、収穫してみよう、ということになったのだそうです。

 そして「大麻君」を、いよいよ吸ってみた。ところが・・・。

 何ともなかったのだそうです。全然弱くて、およそ売り物になるような大麻ではなかった。

 素人が野放図に育てても、葉っぱばっかり大きくなる割に、商品として価値の出るようなものは、およそ育てることができなかった・・・。

 何とお粗末な・・・で終わればよかったのですが、この続きがあるのです。

弱くても大麻は大麻

 当時は大学院生だった知人の学生が普通に下宿のベランダや屋上で大麻を育てて笑い話になるんですから、オランダというのは器の大きな国だと思います。

 さて、その知人の友達で、化学だか薬学だかを専攻している人がいたのだそうです。

 「いや~、うちの屋上でマリファナ育ててみたんだけどさ~、吸ってみても何ともなくて、アホみたいだった」

 みたいな話を聞いて、「でも、カンナビスなら大麻であるはずだ。有効成分がないわけがない」という科学的、知的好奇心に燃えて、ある実験に取り組んだそうです。

 大麻の有効成分は「テトラヒドロカンナビノール(THC)」と呼ばれる物質で、やはり大麻に含まれる「カンナビジオールCBD)」などと共に分留することができる。

 「ではそれをやってみよう」と思い立ったんだそうです。台車に1台分くらいの、大量の「自家製天然無農薬カンナビス」が、化学院生の研究室(?)だかに運び込まれ、かなりの手間暇をかけて、掌に乗るアンプル1本分くらいの「THCオイル」にまで濃縮することができた。

 「これはすごいぞ」と思ったその友人は、まず出来上がったオイルを、小指の先につけてみたそうです。

 皮膚から吸収することで、多幸感を得られるのではないか・・・そういう研究をしていたらしいんですね。塗り薬とか、そういったものの基礎を調べていたのでしょう。

 ところが、何ともない。皮膚吸収は素人が思うよりも効果的であることを知っていたこの大学院生君は、ちょっと余計な知識があり過ぎたのでしょう。それと、若かった。

 「もしかしたら、葉っぱ同様、このオイルも成分が有効ではないのかもしれない」

 葉っぱで吸ってダメだった、という前例の先入観が悪かったのでしょう。あろうことか、彼はカンナビスオイルを塗った指先をなめてみた。

 そのまま意識を失い、救急車で緊急搬送、4日間寝たきりだったそうで、後々、先生などからコンコンと諭されたそうです。

 信頼できる大学教員の友人から、1970年代のアムステルダムで実際にあった出来事として聞いた通りを記してみました。

もはやグラム数規制は有効でない
バイオテクノロジーが生み出したスーパー大麻

 45年くらい前、大学院生が自分の興味で抽出しても、凄まじくエゲツないマリファナ・エキスが自作できたオランダです。

 その後、1990年代に進んだヒトゲノム計画などが示すように、急速に進歩した分子生物学は、45年前ののどかな化学研究室、リービヒ冷却管などを使ってTHCを分留するような牧歌的な方法ではない、現代的な戦略で麻薬を強化しています。

 現在オランダで市販されている最も強烈な大麻は、遺伝子操作で強化され、従来の15倍のTHC効果を持つ製品が出回っているそうです。

 こうなると、「量」の問題が「質」に転化してしまう。

 大麻は「麻薬」そのもので、習慣性があります。アルコールで考えると分かりやすいでしょう。

 最初は4%でのビールでも真っ赤だったのに、やがて13~14%くらいの赤白ワインや日本酒、25%の焼酎もいける口になり、40%のシングルモルトや泡盛古酒、ウオッカの類も大丈夫、そのうち中国のマオタイみたいな54%とか60%とかいう白酒(ぱいちゅう)までようになり、果ては75%のラムもストレートでぐいぐい・・・。

 ちなみに、これは私自身の若い頃の飲酒遍歴をそのまま書いたもので、今は全然飲まなくなりましたが、要するに強いものが出てくると、そっちに引っ張られるというわけです。

 オランダカンナビス産業は10兆円オーダーとも言われる巨大産業で、各社は先端的なバイオテクノロジーを駆使して製品のクオリティを高める熾烈な競争を戦っている。

 そんな中で、従来の5倍10倍、いまや15倍といったTHC濃度の「葉っぱ」が作られるようになって、3つの影響が出ているそうです。

 第1は、従来はグラム数でコントロールしていた法的な規制が、すでに有効ではないのではないか、という議論。

 第2は、その身体への影響の強さで、このまま50倍100倍、いや1000倍といった、どこかの激辛カレー屋メニューのような強烈なマリファナが生まれる可能性だって否定はできず、本当にこれでいいのか、という議論。

 そして第3は、中学高校生向けに「マリファナはやめときなさい」という教育が盛んになりつつある、という変化。

 このあたりは、日本で「タバコ」を考えると近いでしょう。法的には禁じられていません。農家もあれば産業もあり、バイオの応用もある。

 でも、およそ健康のためには若年層に推奨できる代物でないのは、誰の目にも明らかです。当たり前のことと言えばそれまでですが、そういう変化が、2010年代末のオランダでは、まさに現実のものとなっている。

 単に「マリファナ解禁」というだけでなく、いま初期的な盛り上がりを見せつつあるコロラドやカナダメーン州とは全然状況の違う「伝統的大麻大国」オランダだからこその課題が、まだまだ山積しているとのことでした。

(つづく)

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