バレンシア州で生まれ、バレンシアの下部組織に入団し、バレンシアのトップチームでプレーする――。19歳のフェラン・トーレス生え抜きプレーヤーが夢見る道を、今まさに歩んでいる。コウモリがあしらわれたクラブエンブレムは、彼の左胸でひときわ輝いている。

名前:フェラン・トーレス(Ferran Torres)
誕生日:2000年2月29日
年齢:19歳
身長/体重:184cm/77kg
主なポジション:右ウイング
リーグ成績:20試合出場2ゴール1アシスト

◆■レアルバルサリヴァプールらが関心も…バレンシアは違約金を1億ユーロに設定

 2000年にバレンシア県のフォイオスで産声を上げたフェランは、6歳の時にバレンシアの門を叩いた。下部組織で順調にステップアップを果たすと、2017-18シーズンの途中からはトップチームにも度々呼ばれるようになる。そして2017年11月30日、ついにデビューの瞬間が訪れた。コパ・デル・レイのサラゴサ戦で、ナチョ・ヒルに代わり71分から途中出場を果たしたのだ。

 フェランは、そのサラゴサ戦でいきなりルベン・ヴェゾのゴールをアシスト。ファンの信頼をつかみ取ることに成功すると、日増しにトップチームでの存在感を強めていった。チームにはゴンサロ・グエデスやデニス・チェリシェフ、カルロス・ソレールら優秀なサイドプレーヤーが在籍しているものの、今季リーガ・エスパニョーラでは主に4-4-2の中盤右サイドを任されており、20試合の出場で2ゴール1アシストを記録している。

 当然他クラブが放っておくはずもなく、レアル・マドリードバルセロナリヴァプールなどの強豪クラブがフェラン獲得の可能性を模索した。だが、バレンシアとてクラブの未来を担う宝石を易々と手渡したりはしなかった。2018年4月に契約を2021年まで延長した際には違約金を1億ユーロに設定して、引き抜き阻止をはかっている。

◆■ドリブルスキルの高さにはフットサルの経験が活きている?

 184cmと長身の部類に入るフェランだが、プレーから「大柄」「重たい」といった印象を受けることはない。彼の長所として挙げられるのは、小気味のいいドリブルと良質なクロスボール、絶妙なタイミングでディフェンスライン裏に通されるスルーパスだ。

 特に、足元のテクニックを駆使したドリブルは目を見張るものがある。そのプレーの源流には、幼少期に経験したフットサルがあるだろう。軽やかなタッチでボールを何度もつつくようなスタイルは、小さなスペースで多くボールを触るフットサルならではの特長だ。

 ボールタッチが非常に細かいため、ディフェンダーは迂闊に飛び込むことができない。かといって、そのままずるずるとディレイすれば、フェランに危険なエリアへの侵入を許してしまう。相手からすれば何ともやっかいなプレースタイルを、フェランは幼い頃から身につけていたのだ。

◆■課題はシュート精度と「引き出しの少なさ」

 バレンシアの試合を見れば、右サイドに位置するフェランの“上手さ”に心を奪われることだろう。トップスピードに乗った状態で繰り出されるクロスボールの質は試合に出るごとに精度が高まっているし、中央に切れ込んでからのラストパス、もしくは左足でのシュートも怖さを増している。近年のバレンシアサイドアタックを担っていたのはグエデスだったが、今季は右サイドのフェランから度々決定的なチャンスが生まれている。

 トップレベルの選手になるための課題は、カットインした後のシュート精度や、「引き出しの少なさ」ゆえに右サイドでの起用に限られてしまうところか。しかし、19歳にして“コウモリ軍団”の主力を担っているフェランがこれらの課題を克服するのに、そう時間はかからないように思える。

文=松本武水
写真=Getty Images

フェラン・トーレスは、バレンシアの期待の星だ [写真]=Getty Images