韓流ブームが第2ステージを迎えている。その中心といえるのが「K-Beauty」だ。

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 日本の女子中学生や高校生の一部では「オルチャンメイク」という韓国風のメイクが流行りだという。

 オルチャンとは韓国語で「美少女」のこと。

 美への追求が半端ではない韓国の女子たちは、化粧品に対してこだわりが強い。そのため、韓国ではコスメブランドが百花繚乱、いま化粧品戦国時代を迎えている。

 今回紹介する化粧品会社は、ちょっと変わった経歴の持ち主が立ち上げたコスメブランドである。いまや日本でも大人気のクリオ(CLIO)だ。

 クリオのCEO(最高経営責任者)であるハン・ヒョノクさんは、延世大学・社会学科を卒業し、同大学院で社会学の修士を取得した才媛。

 韓国科学技術院の研究院を経て法律事務所とリサーチ研究所に勤務した。学者肌で将来が嘱望されていたものの、勤めていた会社が倒産してしまった。

 突然、身に降りかかった不幸。こうした時に人生は岐路を迎える。不幸を嘆き続けつまらない人生を歩むか、一念発起、新しい挑戦を始めるか――。

 ハンさんが選んだのは後者だった。倒産した会社がリサーチしていた化粧品事業を自分でやってみることにしたのだ。

 結果は大成功。いまや韓国の化粧品業界では、CEOとして最も在籍年数が長くなり、韓国化粧品業界の「顔」とまで言われる存在になった。

 人生万事塞翁が馬。ハン・ヒョノクさんは、倒産したリサーチ会社に勤めていた経験を生かし、市場のトレンドを正確に把握することでヒット商品を次々と世に送り出してきた。

 クリオは、創業当初から高品質のメイクアップコスメ市場に集中特化し、ブランドアイデンティティを明確化させて市場を先取りした。

 彼女が創業した1990年代はまだまだ韓国ブランドの化粧品は韓国の女性にとって憧れの的と言えるような状況ではなく、海外の化粧品に人気が集まっていた時代である。

 当時、韓国の中小コスメ企業は、外国の有名ブランドのOEM(相手先ブランドによる生産)が中心だった。

 そんな時代に、彼女は逆の発想を持ち込んだ。

 イタリアフランスの中小コスメ企業に生産を委託、クリオの商標をつけて売り出したのだ。

 1993年、従業員わずか1人という寂しいスタートだったが、品質の良い韓国ブランドの登場ということで人気急上昇。狙いはぴたりと当った。

 その後は年平均の成長率55%という快進撃を続けた。

 さらに節目となるのは、2015年である。

 この年、当時クリオのモデルだった女優コン・ヒョジンが主演したドラマ「プロデューサ」が中国で大ヒット。このドラマで使われたクリオの製品も人気を呼んだ。

 中国での人気のおかげで2015年は、売上高1070億7701万ウォン(約107億円)を達成した。さらに凄いのは利益率で、20%を超えた。営業利益は225億4947万ウォン(約22億5000万円)。

 そして、2016年5月にはLVMHグループの私募ファンド会社である‘L Capital Asiaから5000万ドルの投資を受けることになる。

 LVMHグループは世界最大のHB(ヘルス&ビューティ)ショップであるセフォラ(Sephora)を展開しており、投資によってグローバル化粧品の流通網を活用できるチャンスも得た。

 2016年5月、中国広州の複合ショッピングモールにクラブクリオ(CLUB CLIO)第1号店をオープンした。クラブクリオは、クリオのブランドショップである。

 中国の1号店は、中国政府の衛生許可問題で韓国で取り扱う物量の3分の1だけで営業を始めたものの、オープン後1か月で1億ウォンの売上高を記録した。

 韓国でも明洞(ミョンドン)店を除くと、これだけの売り上げを稼ぐ店舗はないという。

 中国での成功が追い風になり、2016年11月にはKOSDAQ市場に株式を上場した。

 ところが好事魔多し。翌年の2017年からクリオの収益は急降下し始め、快進撃を続けてきたクリオに陰りが見え始める。

 THAAD(終末高高度防衛ミサイル)問題の勃発である。

 前の朴槿恵政権が推進したTHAADは、中国の強い反発を受けて韓国の経済に多大な悪影響を及ぼし、特に化粧品業界を直撃した。

 中国人のおかげで売り上げを伸ばし、今度は中国人によって売り上げを落とす憂き目に遭った。2018年の実績は売上高1873億ウォン、営業利益は8億ウォンの赤字に転落した。

 時価総額もたった1年で4000億ウォンも蒸発してしまった。

 赤字が続いたことでLVMHも投資を引き上げることになり、海外進出もままならなくなった。株価も低迷し、韓国のメークアップコスメの代表格という名声も色あせてきた。

 しかし、逆境に強いのは創業時の経験があるからなのだろう。次の手をきちんと用意していたのだ。

 中国がダメならばと、さっさと中国の店舗から撤退し、ネット販売に力を入れ始めたのである。

 クリオの顧客層はネットに強い20代や30代が中心なので、ネット販売に集中すれば市場を掘り起こせるとにらんだのだ。

 特に、中国のSNSで人気のある「網絡紅人(インターネットセレブリティ)」を中心に攻略する戦略を立てている。

 ネット販売だけでなく、テレビショッピングにも進出した。グローバル市場としては、ベトナムに店舗を展開し、東南アジア市場を開拓し、米国にも輸出している。

 話は逸れるが、2018年株式富豪100人の中でハン・ヒョノク代表は70位で、女性の中では11位である。

 しかも、女性富豪の場合、上位の10位までが全員財閥の親族なのに対し、ハン代表だけが裸一貫でのし上がってきた富豪である。

 ちなみに、女性1位は、サムスン電子の会長夫人であるホン・ラヒ女史で、2位と3位は、サムスン電子会長の娘たちである。

 ハン代表は自分が子育てしながら仕事をしてきただけに、クリオは女性が働きやすい会社としても有名だ。

 また、クリオでは従業員に自己啓発費を別途支給している。120万ウォン(12万円)は、外部での講習など、教育を受ける費用で、100万ウォン(約10万円)は、感性支援費として文化生活に使えるようにしている。

 クリオは最近、メイクアップ製品だけでなく、スキンケアにも力を入れ始めており、コスメ全般の製品を売り出すようになっている。

 メイクアップ製品のブランドは、ペリペラ(Peripera)、スキンケア製品はグーダル(Goodal)である。

 ペリペラは、ティントやマスカラが有名で、売れ行きも上々のようだ。

 最後に筆者の意見。

 筆者がオリーブヤングという韓国の人気ドラッグストアでカバー力の高いお勧めクッションファンデーションは何かと聞いたところ、「Kill Cover」というクリオクッションファンデーションを勧められた。

 実際使ってみたところ、確かにカバー力がよく今では筆者のお気に入りである。

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