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Point
■新しいスキルを効率よく習得するには、練習中に「小休憩を取る」ことが効果的であると判明
■実験では、長い休憩(睡眠学習)よりも、短い休憩中に起こるスキル向上度の方が高かった
■記憶の定着にかかわる「ベータ波」は、練習中ではなく休憩中にのみ発生することが明らかに

練習してちょっと休憩、これを繰り返すのが上達のコツみたいですよ!

スキルを習得するときの「猛特訓あるのみ」との思い込みはどうやら間違いのようです。実は、スキルの進歩や記憶の定着は短い休憩の最中で起こっているらしいのです。

アメリカ国立衛生研究所(NIH)は「スキル習得には、学習中こまめに小休憩を挟むことが重要な役割を果たす」ことを明らかにしました。研究の詳細は、3月28日付けで「Current Biology」に掲載されています。

スキルの向上は「休憩中」に起こる?

NIH研究チームのMarlene Bönstrup氏は当初「スキルや記憶の定着には睡眠学習のように長い間をもうけることが効果的」だと考えていたそう。ところが被験者にある実験を行い、その際に生じた脳波の変化を測定したところ、当初の考えとは異なる結論に至ったといいます。

具体的な実験として、心身ともに健康な「右利き」の被験者を集めてテストを行い、「脳磁図(MEG)」測定法を使って脳波の変化を記録しました。被験者はコンピュータスクリーンに映し出される一連の数字を「左手」で10秒間タイピングするよう指示されます。終わったら10秒間の休憩をはさみ、また繰り返し10秒間のタイピング。これを35セット行いました。

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するとタイピングの正確性やスピードは最初の数回の中で急激に向上し、11セットを越えるあたりから記録は横ばいになっていきました。その際の脳波の変化を見てみると、実に興味深いことが見つかったのです。

nstrup氏は「被験者の脳波変化は、タイピング中よりも小休憩の間により大きく変化していることに気づいた」と指摘します。この事実から、「脳内でスキル学習が行われるのは、練習中ではなく小休憩しているときなのではないか」との考えにたどり着いたのです。

休憩中だけ生じる「ベータ波」

また実験結果を詳しく分析する中で、2つの重要な事実が明らかになりました。

ひとつは「被験者のパフォーマンスはタイピング中ではなく休憩中に向上している」ということです。さらに、被験者に対して翌日にも同様のテストを行いました。その結果、睡眠学習を経ているにもかかわらず、前日のスキル向上度の方が高かったことが判明したのです。これは練習後すぐの小休憩がきわめて効果的であることを証明しています。

もうひとつは「小休憩の間に、被験者が記憶を強化・定着させている脳波パターンが発見された」ということです。とくに、記憶定着に大きくかかわる「ベータ波」という脳波変化が、右脳内にある前頭葉と頭頂葉を結ぶ神経ネットワークに沿って起こっていました。しかもベータ波は小休憩中にのみ発生していたのです。

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この結果を受け、研究主任のLeonardo Cohen氏は「小休憩を取り入れることで、失ったスキルを取り戻そうとする患者のリハビリ治療、あるいは健全な方でもピアノ技術などの向上に効果が見られるかもしれない」と期待を寄せています。

「練習してちょっと休憩」を繰り返すこの方法は実生活でもおおいに役立ちそうです。私たちの記憶は、適度なクールダウンを繰り返すことで、スポンジのような吸収力を発揮するのかもしれません。

脳波から「夢の種類」を特定することに成功

reference: medicalxpress / written & text by くらのすけ
新しいスキルを効率よく習得するには「数秒」の休憩が効果的