
■中国の科学研究チームは、人間の遺伝子をサルの脳に移植することに成功したと発表
■遺伝子移植によって、サルの認知機能や短期記憶の能力が向上したと報告
■倫理に反する科学研究に、国外から多くの非難が寄せられている
『猿の惑星』を実現させてしまうのは中国なのでしょうか?
中国南西部にある「昆明動物研究所」は先日、人間の脳の発達に寄与したとされる遺伝子を、サルの脳に移植することで認知機能を向上させることに成功したと発表しました。
この実験に対して「倫理に反する」と世界中から非難の声が挙がっています。中国は「遺伝子操作ベビー」で物議をかもしたばかりですが、まだ同様の研究は続きそうです。
研究の詳細は、3月27日付けで「National Science Review」に掲載されています。
https://academic.oup.com/nsr/advance-article/doi/10.1093/nsr/nwz043/5420749
人間の脳の発達に関わる「遺伝子」を移植
昆明動物研究所の研究チームは、マカクザルの脳内に遺伝子を運ぶことのできるウイルスを通して、人間の遺伝子「MCPH1」のコピーを移植しました。この遺伝子は、人間の脳発達の要因であると考えられています。
実験では計11匹のマカクザルへの移植に成功していますが、その中で生き残ったのはおよそ半分の5匹。この生き残ったサルたちに認知テストを行なった結果、短期記憶にかかわるタスクにおいて、移植していないサルを大きく上回るパフォーマンスを見せたとのこと。同じく、反応時間や認知機能も向上していたようです。

研究の目的は、「人間が現在のように高度な知能を獲得するに至った進化のプロセスを調査するため」とのこと。
将来的には、脳の異常発達に伴って生じる病ーパーキンソン病やデュシェンヌ型筋ジストロフィー、自閉症などーへの治療法改善にも役立つと主張しています。
「倫理に反する」との批判多数
この研究はこうした医療技術の発達を目指す一方で、世界中の国際科学団体から多くの批判を受けています。
その中には「サルに対する移植実験は、倫理的に許容できる範囲とできない範囲の線引きを困難にする危険な方法である」といったものや、「人間とマカクザルは多くの面で違いが見られるので、遺伝子移植によってサルの認知機能が向上したからといって私たちに利益はほとんどない」といった意見があります。
またコロラド大学・生命倫理学専門家のJacqueline Glover氏は、今回の研究と映画『猿の惑星』を比較して次のように語っています。
「サルに人間性を与えることで生まれるのは害悪のみです。人間の知能を持ってしまったサルは、一体どこで何をして暮らせば良いのでしょうか。生まれたとしても、有意義な人生を送ることができないであろう知的な存在をむやみに生み出してはならないのです」

こういった反論に対して、主任研究員のSu Bing氏は「私たちの研究は科学倫理委員会によって承認されていますし、国内外の団体が推奨する慣習にもしっかり従っている」と主張しました。
さらに研究チームは近々、人間の言語機能を統合する役割を持つと考えられる遺伝子「FOXP2」を移植する予定であると発表。それだけでなく、「SRGAP2C」という遺伝子の移植も考えているそう。この遺伝子は人間特有の知能発達を可能にしたもので、通称「人間性のスイッチ」とも言われているんだとか。
サルが高度な知能を獲得し、人類を制圧する日が来ないことを祈りましょう…

コメント