◆「本土」で沖縄の米軍基地を引き取ろう

 4月6日、沖縄の米軍基地をいわゆる「本土」に引き取る活動を展開する市民団体「沖縄の基地を引き取る会・首都圏ネットワーク」(以下、「引き取る・首都圏」)が、東京都で第8回公開集会を開催した。参加者は約70人。

 運動の根幹には、「沖縄に関心を寄せる人は多いが、基地問題では『沖縄がんばって』というだけの『ヒトゴト』の感覚を『ジブンゴト』として考えてもらいたい」との動機がある。

 3年ほど前までこの運動に見向きもしなかった市民は多いが、今、その意識にちょっとした変化が現れている。

◆全国の自治体が、沖縄のことを本気で考え始めた!?

「引き取る・首都圏」の飯島信事務局長

 集会では、まず主催者代表として「引き取る・首都圏」の飯島信事務局長が開会のあいさつの中で、2018年7月28日に『毎日新聞』が報じた記事を紹介した。

7月27日に、47都道府県の知事が集まった全国知事会が日米地位協定の抜本改定を求める『提言』を全会一致で採択した」との内容だ。

 その提言とは「航空法や環境法令などの国内法を原則として適用させること」「事件・事故時の自治体職員による迅速で円滑な基地立ち入りの保障」「追う音規制措置の実効性のある運用」などを盛り込んでいる。従来は、米軍基地を抱える15都道府県が地位協定の改定を日米両政府に要請したことはあったが、基地のない自治体も含んだ全会一致の採択というのが画期的だった。

 その報道を知らなかった参加者たちからは「ほう」と感心にも似た声がもれた。それだけではない。

今年3月25日岩手県知事が投稿したツイート

 今年3月25日には、岩手県達増拓也知事がツイッターで「岩手県議会では、『沖縄県民投票の結果を踏まえて辺野古埋め立て工事を中止し、沖縄県と誠意を持って協議を行うことを求める意見書』を可決。岩手県議会から日本政府に提出されます」と投稿。おそらくは県議会としては全国初の決断に4000件以上のリツイートがあり、「よくやった」などのコメントが相次いでいる。

◆市議会レベルでも沖縄に関心が寄せられている

現在、東京都小金井市在住の米須さん。たった一人で小金井市議会を動かした

 県議会だけではない。市議会レベルでも沖縄に関心を寄せる決議がなされている。集会の受付に「引き取る・首都圏」のメンバーである米須(こめす)清真さんがいた。

 米須さんは沖縄出身で、現在は東京都小金井市に住む。昨年、たった1人で「普天間飛行場の辺野古への移設計画の即時中止を」との陳情を市議会に提出し、昨年12月6日、市議会は賛成多数でその陳情を採択した。移設問題を全国で議論することなどを求める意見書を、賛成多数で可決したのだ。

 同様の動きはまだある。やはり沖縄出身で東京都小平市に住む女性が陳情を小平市議会に提出し、今年2月25日に賛成多数で可決されている。

 また市民運動に目を向けても、「沖縄の米軍基地を『本土』で引き取ろう」との市民団体も、2016年には3つくらいしかなかったのが今では9つにまで増えている。

 まだまだ層は薄いが、沖縄のことを日本の問題だと捉える議会や市民は着実に増えていると言える。

◆かつてはまったく理解されなかった「基地引き取り」論

朝日新聞』の谷津憲郎・社会部デスク。常套句の「沖縄の声を聞け」から次のステージとなる訴えを考えようと呼びかけた

 従来「本土」のマスコミが沖縄の基地問題を扱う時は、常套句のように「沖縄の声に寄り添おう」といった論調がほとんどだった。。

 この日、パネラーとして発言した『朝日新聞』社会部デスクの谷津憲郎さんは沖縄に2回赴任したことがあるが(1回目は2002年。2回目が2011年から2014年)、自身も、マスコミも変わってきたと捉えている。

 1回目の赴任では、沖縄県民の多くが基地問題に悩みながらも「こういう苦しみを県外なんかに押し付けられんさあ」との声が圧倒的多数で、「引き取って」を主張する沖縄の活動家もいたが、その声は「とんがっているな」としか感じることができなかった。

 2回目の赴任時の2012年には、沖縄に米軍基地が集中し、それがほとんどなくならないのは「本土による差別があるから」との持論をもつに至る。その持論を朝日本社は「何を言っているのか」とまったく理解されなかったという。

◆『毎日新聞』が「基地引き取り」について世論調査
 ところが近年は、全国の9か所で「引き取る」市民運動が現れ、マスコミもことあるごとにその動きを報じている。今年3月17日には、『毎日新聞』が「基地引き取り」について電話による世論調査を行った。

 世論調査の結果は、

・辺野古沿岸部の埋め立てについて、工事の続行に「反対」が52%で、「賛成」の29%を上回った。

・沖縄の米軍基地が「あなたの住む地域に移設されるとしたら」との質問には、「反対」が62%で、「賛成」の21%を大きく上回った。

というものだった。

 谷津さんはその数字よりも「かつて全国紙の世論調査の項目に『引き取り』が上がることはなかった」ので、その世論調査(をすること)自体に驚いた」という。知事会にもマスコミにも、少しずつだが「引き取り」を軽視しない姿勢が育っている。

◆「沖縄の声を聞け」という常套句ではなく、次のステージ

「引き取り」運動の火付け役の一人でもある高橋哲哉東京大学大学院教授(左)は、普天間飛行場を引き取ろうとの目的もあるが、「(その4倍の面積の)嘉手納飛行場まで睨まねばならない」と訴えた

 だが「引き取り」云々は別にしても、世間的にはまだまだ沖縄で起こっていることは「ヒトゴト」だ。

 たとえば、2015年7月の共同通信の戦後70年世論調査によると、日米安保の支持率は9割近くあった。ところが、前出の『毎日新聞』の世論調査では、辺野古埋め立てに「反対」と答えた層で、自分の地域への米軍移設にも「反対」と答えた人が84%いた。

 米軍犯罪や騒音問題などの問題がある以上、引き取りは簡単に決められることではない。だが、今のままでは「本土」の意識は「沖縄はたいへんだ。頑張って。でも、基地は置いておいて」という現状から一歩も出ることはない。米須さんはこの感覚を「差別」だと捉えている。

 谷津記者は以下のように話す。

「『朝日新聞』でも、もう20年以上も『沖縄の心に寄り添え』とか『沖縄の声を聞け』と訴えてきましたが、たとえば今『朝日デジタル』で『辺野古』という言葉を見出しに入れただけで、ページ閲覧数は下がります。もう『沖縄の声を聞け』という常套句ではなく、次のステージ゙となる問題提起を考えなくてはなりません」

 その後、質疑応答などがあったが、集会の最後に米須さんがこう締めくくったのが印象的だった。

「私たちの世代で、琉球併合から始まった(本土による)差別を終わらせます」

<取材・文・撮影/樫田秀樹>