1か月ほど前のことだったと思う。テレビニュース番組で牛丼チェーンの「松屋」がモスクワで1号店を開店との報道が流れていた。

JBpressですべての写真や図表を見る

 お披露目には多くの日本の在莫メディアが駆けつけたのであろうか、ロシアニュースには珍しく、「松屋1号店開店」のニュースは多くのチャンネルで流れていた。

 ロシアにおいては対日感情が極めて良好であることは筆者の実感である。実際、アンケートの結果からも間違いない。

 日本の外務省2016年に実施した調査では「日本との関係が『友好関係にある』または『どちらかというと友好関係にある』と回答した人が78%(前回調査時 73%)」、「ロシアにとって日本との友好関係は『重要』または『どちらかというと重要』と回答した人は97%」という結果が出ている。

 またロシアにおける日本食人気が高いこともおそらく疑う余地はないだろう。

 モスクワをはじめ大都市には多くの日本食カフェレストランがあり、多くのロシア人が当たり前のように箸を使って寿司(ロールがメインだが)や麺類を食している。

 こうした状況に鑑みると、ロシアに進出した我が国の外食産業は大いに流行っているに違いないと思われるのだが、毎月のように新店舗が誕生するロシアの外食産業界においては比較劣位であることを否めない。

 数年前に華々しくモスクワに進出、モスクワを訪問した世耕弘成経産大臣も立ち寄ったうどんチェーンも当時の勢いは感じられない。

 キオスクが一掃された地下通路に設置された我が国のソフトリンク自販機の品揃えはかつての日本製から今やロシア製にとって代わられている。

 さらに昔を思い起こせば、焼き立てシュークリームの店、いわんや1990年代モスクワドトールコーヒーカフェがあったことを知る人は今や少ないのではないだろうか。

 日本の外食産業がロシアで振るわないのは外資、あるいは外国ブランドだから、という理由は当たらない。

 マクドナルドは言うまでもなく、ケンタッキーフライドチキンバーガーキングなど日本でも人気のファストフード店は、ロシアでも大人気。これらチェーン店の売上高は世界の中でもトップクラスだという。

 筆者の疑問は、なぜロシア人の親日感、和食人気はロシアでの我が国外食産業のビジネスの成功になかなか結びついていないのか、である。

 この問題を考える一つの材料を挙げてみたい。

 「オンライン・マーケティング・インテリジェンス(Online Marketing Intelligence)」というロシアの調査会社が2008年から毎年発表している「トップ20ブランド」である(http://top20brands.ru)。

 つまり、日本の新聞などでも時々実施されている「あなたの好きなブランドを挙げてください」というアンケートであり、総合部門のほか製品別のブランド調査も行われている。

 調査対象はロシア全国の18~55歳の男女 1500人、所得層は平均以上、都市別ではモスクワサンクトペテルブルグ500人ずつ、残り500人は地方主要11都市となっている。

 つまり、ロシアの国内消費を支える世代、所得層が調査対象となっている。調査はインターネットによるオンライン調査である。

 2018年の調査結果を見ると、総合1位はサムソン、2位アディダス、3位ナイキ、4位アップル、5位ソニーと世界的に有名なブランドが並んだ。しかもこの順位は昨年と変わらず、顔ぶれは一昨年から変わらない。

 そしてお気づきかと思うが2018年の総合トップ10にランキングした日本企業はただ1社、ソニーだけである。 ちなみにトップ20まで拡大しても、日本企業はランクインしていない。

 2017年トヨタ自動車が15位にランクインしていたものの2018年にはランク外となった。

 サムソン、LGの韓国2大エレクトロニクス企業の強さが目立つのだが、筆者は個人的にはドイツのボッシュ(BOSCH)、2018年に唯一ランクインしたロシアファッション企業OSTINが気になっている(詳細は後述)。

 ちなみに調査開始時、2008年総合ランキングは次の表の通りである。

 ソニーが1位、パナソニック4位、トヨタ6位と3社がランクインしている。まだ日本ブランドロシアで一定の地位を確保していたことが分かる。

 このうち3位のノキア(「ガラケー」の時代には圧倒的なシェアと人気があった)を除くとほかは日本、韓国、ドイツ企業である。

 リーマンショック前までは日韓独の3か国の企業がロシア市場で人気を競い合っていたのであろう。

 そして2008年当時においてもドイツのボッシュは10位にランクインしている。同社は全世界で従業員41万人、売上779億ユーロ(約9.7兆円)の世界的な大企業である。

 売上規模で見れば、日本の日立製作所と同規模である。しかし日本では電動工具、自動車パーツ、しかも車好きの人以外にはあまりなじみのない会社である。

 なぜロシアでは高い人気を維持しているのであろうか?

 同社のロシア向けHPを見ると、現在個人向けに取り扱っている製品はガーデニング用品(芝刈り機)、暖房・温水ヒーター(ロシアの初夏の必需品である)、家電(冷蔵庫洗濯機、キッチン家電など)、そして電動工具(ロシア人はDIY好きである)である。

 筆者も1990年代モスクワアパートでボッシュ製の洗濯機と悪戦苦闘した記憶がある。ロシア人にとっては身近なブランドなのであろう。

 ボッシュがロシア事務所を開設したのは1993年、つまりソビエト崩壊後である。日本企業に比べて特段早かったわけではない。

 しかし、その後の進出ペースは目を見張るものがある。

 1996年にはボルガ中流のサラトフ、エンゲルス(帝政時代はドイツ人が数多く入植した都市)に自動車部品、点火プラグ工場を設立し、以来、地方の中核企業として生産規模を拡大してきた。

 2008年にはサンクトペテルブルグにR&Dセンターを開設、2012年にはレニングラード州に洗濯機の組立工場を建設している。

 筆者はロシアテレビで同社のコマーシャルを目にした記憶はないのだが、こうしたB2C、B2B両面での持続的アプローチが同社のロシアにおけるブランド維持に貢献していると言えよう。

 ところで、ブランドと聞けばやはり「ファッション」である。

 ロシアに進出したファッション企業と言えば最近成長が著しい(と感じる)ユニクロである(子供向けファッションではミキハウスも2013年に進出している)。

 同社は2010年に1号店が開店してしばらくは足踏み状態が続いていたように見えたが、17年には三菱商事と資本提携、店舗数は2019年3月末現在で35店舗(うちモスクワ21、サンクトペテルブルグ7、その他地方4都市7)となった。

 最近はモスクワ地下鉄でもユニクロの買い物袋を提げた若者をよく見かける。

 ファッション部門の人気ランキングを見てみよう。

 残念ながらユニクロの人気度はまだライバルZARAH&Mにキャッチアップできていないようである。

 それ以上にこのランキングで興味深いのは、ロシアの国産ブランドが1位のOSTIN、7位 OGGI、9位にGloria Jeans、10位にzollaと4社もランクインしていることである。

 これは足元の景気低迷による消費者の購買力低下を反映していることが理由の一つであろう。

 一方、ナイキやリーバイスといった米国ブランドランキングしていることを見ると、愛国心の高まりという指摘は当たらないように思える。

 こうしたロシアブランドの人気の高まりは、筆者が思うにこれらのロシア企業がロシア人の好み、ニーズを反映した商品を、適度な価格、適切なタイミングで供給できるようになったからだと考えている。

 これらの会社のサイトを見ると、そのデザインは欧米企業と遜色はない。つまり欧米ブランドに憧れるロシア人のニーズを的確に反映していると言えよう。

 他方、価格面では2014年12月ルーブルが対ドルでほぼ半分に切り下がって以来、ロシア国内の製造コストは中国よりも割安になっている。輸入代替がうまくいっている典型例であろう。

 さて、話がすっかり本題からそれてしまった。本稿の主題は「なぜロシア人の親日感、和食人気はロシアでの我が国外食産業のビジネスの成功になかなか結びついていないのか」であった。

 最後にカフェレストラン部門のランキングを見てみよう。

 上位2社は説明する必要もないだろう。ロシアではマクドナルドケンタッキーフライドチキンは地方都市を含めて圧倒的な人気を誇っている。

 注目すべきは日本食レストラン2018年は3社(5位のTokyo City、6位のタヌキ、7位のヤキトリヤ)、2017年2016年においても各3社がランクインしていることである。

 ロシア人が日本食好きであることは間違いない。しかし、いずれの日本食レストランチェーンも経営するのはロシア人である。

 また、これらのレストランのうちモスクワを拠点とするタヌキヤキトリヤについては10年以上、特にヤキトリヤは筆者がモスクワ在住時にオープンしたので20年近く存続しているのである。

 つまりこれらの日本食レストランは幾多の景気の山谷を乗り越えて収益面でも一定のレベルを確保しているということであろう。

 とすると、ロシアにおいて我が国外食産業がうまくいかないのは、進出する日本企業側のビジネス戦略に問題があると認めざるを得ない。

 では何が問題なのか?

 実を言うと筆者はモスクワの日本食レストランにはほとんど足を運ばないので、その答えを見つけるのは難しいのである。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  欧州で最も腐敗している国、ロシアがなぜか高成長

[関連記事]

起業家精神抜群のロシア人が日本に照準

中国とロシア、矢継ぎ早に経済協力体制構築