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◆与党の審議拒否がニュースになった
 2019年4月12日衆院と参院の予算委員会に所属する野党議員は、予算委員会の開会を要求しました。それは、立憲民主党国民民主党日本共産党日本維新の会、無所属を含む、文字通り一致しての要求でした。立憲民主党国会情報ツイッターによると、次のように書かれています。

”予算委員会開会要求
 安倍政権内において、不適切な発言と辞任が相次いでいる。塚田一郎元国土交通副大臣は、安倍総理と麻生副総理の地元を結ぶ道路整備をめぐって「私が忖度した」などと発言。櫻田義孝前五輪担当大臣は、安倍内閣が最重要課題に掲げている東日本大震災からの復興以上に、衆議院議員が大事であると発言。いずれも事実上の更迭であり、安倍内閣の驕りと緩みから生じたものと言わざるを得ない。このような事態を招いた安倍総理の責任は重大であり、改めて、安倍内閣の政治姿勢について問いたださなければならない。よって、緊急に予算委員会の開会を要求する。
 以上についての回答を4月16日正午までに求める。”

 これに対し、回答期限の16日、野田聖子衆院予算委員長(自民)と金子原二郎参院予算委員長(自民)は、与党の開催合意が得られないとして、事実上の開会拒否を回答しました。立憲民主党蓮舫参院幹事長の会見によると、仮に委員長の職権で予算委員会を開いたとしても自民党が出席をしない姿勢を示したためとのことです。

 この出来事について、野党からは「与党による審議拒否」との声が上がり、次のように報じられました。

〈不祥事巡る予算委、与党が開催拒否 野党「審議拒否だ」〉「朝日新聞」19年4月16日
〈集中審議 与党が開催拒否…桜田氏辞任 首相追及へ野党要求〉「読売新聞」19年4月16日
〈衆院予算委開催、与党が拒否 五輪相辞任受け野党要求〉「毎日新聞」19年4月16日

 昨年(18年)の通常国会で、野党が審議拒否したときには「国会サボり」などと、厳しい批判が浴びせられました。必ずしも「サボり」でないとの筆者の解説記事〈野党の「審議拒否」は「サボり」なのか?〉に対しても、多くの批判が寄せられました。

 そこで、今回の与党による「審議拒否」について、国会の制度や規定から解説します。

◆国会法・衆参規則では矛盾が生じうる
 今回の野党による予算委員会の開会要求は、次の衆院規則と参院規則に基づきます

衆院規則第67条2項 委員の3分の1以上から要求があつたときは、委員長は、委員会を開かなければならない。
参院規則第38条2項 委員の3分の1以上から要求があつたときは、委員長は、委員会を開かなければならない。

 一方、今回の与党の審議拒否は、国会法に基づきます

国会法第49条 委員会は、その委員の半数以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない。

 つまり、衆参規則に基づき、野党(国会少数派)が委員会開会を要求し、委員長が開会しても、与党(国会多数派)の欠席により、半数以上の出席がないため、委員会が流会(中止)になってしまうのです。それが明白なために、委員長は開会を実質的に拒否したわけです。

 これは、それぞれ別の根拠に基づき、法が優越し、規則が劣後するという単純な問題でありません。衆参の規則は、国会法第48条「委員長は、委員会の議事を整理し、秩序を保持する」の細則で、国会法の第48条と第49条のせめぎ合いだからです。

 この要因は、国会法や衆参規則がこうした矛盾を想定していないことにあります。委員長が48条に基づき委員会の日時を決めた場合、少なくとも与党(国会多数派)の意思と矛盾しないと想定されているわけです。

 一方、衆参規則で野党(国会少数派)の開会要求があった場合、委員長の権威でもって与党議員を従わせ、与党も委員長の決定に従うことを想定しています。

 要するに、衆参規則に基づく開会要求があれば、委員長は開会を前提に与党理事と日程調整し、与党議員を出席させることが、国会法や衆参規則の求める委員長のあり方なのです。

 ならば、なぜそれを国会法や衆参規則に規定しないのでしょうか。実は、議決(決定)のときはさておき、議事(審議)のときの定足数については、もっと緩和できないか、これまでも議論になっています。ただ、与党と野党それぞれ、緩和によるマイナス面があるため、これまで実現していません。与党とすれば、野党による内閣批判の機会を増やすことになってしまいますし、野党とすれば、与党による強引な議案審議を可能にしてしまうからです。

 それを解決するには、内閣・議案のチェックという国会の最大の役割の発揮について、与野党双方が共通認識とし、それにふさわしい行動を取ることが大前提になります。国会法や衆参規則は、国民の代表たる国会議員が、与野党を超えて国会の役割を尊重する前提でつくられています。

 そうすれば、今回のような矛盾は生じません。国会制度の想定外というわけです。

 ちなみに、与党の審議拒否(委員会の開会拒否)をめぐっては、かつても悶着があったと記録されています。1961年10月18日衆議院議院運営委員会小委員会の議事録には、柳田秀一衆議院議員日本社会党)の発言として、次のようにあります。

”一人の委員長が雲隠れをしたら、委員会が開けない。野党ばかり責められますけれども、自民党も同じことをやっております。決算委員会の委員長もずっと雲隠れして―自分に都合の悪いことを野党が議題に上せたときに、決算委員長は、理事と打ち合わせて、はるかに熱海まで行っておったというようなことがあるんです。”(衆議院事務局編『逐条国会法第3巻』463頁)

◆口頭質問制度の不在が問題を複雑化
 今回の予算委員会の開会要求は、櫻田オリンピック大臣や塚田国土交通副大臣の辞任を受けてのものです。いずれも、個人的事情による辞任でなく、大臣の資質や政策決定過程への疑念がつのった結果の辞任です。安倍晋三首相は、二人の辞任について、責任が自らにあることを表明しています。つまり、内閣としての問題です。

 内閣の問題をチェックするのは、国会の重要な役割です。大臣・副大臣の発言の原因を解明し、安倍首相の任命責任を問うことがなければ、再発防止はかないませんし、内閣の国民に対する説明責任も果たされません

 ただ、このことに同意する人々であっても、なぜそれを「予算委員会」で行うのかについては、疑問に思う人も多いでしょう。実際、他の議院内閣制の国々では、このようなときに予算委員会を開きません。

 それでは、他国の議会はどうするのでしょうか。ほとんどの場合、日本のように、与野党の合意で委員会を開催する必要がありません。もちろん、同様の問題が起きれば、日本以上に厳しくチェックされます。

 実は、首相を含む各大臣に対して「口頭質問」の機会が、政局と無関係に定期的に開催され、そこで行われます。例えば、イギリス議会では、開会中の月~木曜日、決まった時間に本会議場で「口頭質問」を実施しています。大臣が日替わりで登場し、議員の質問に答弁します。毎週水曜日は、首相答弁の日で、慣例で野党党首が質問に立ちます。フランスドイツは週1回、開催しています。

 残念ながら、口頭質問制度は、日本の国会では廃れてしまいました。国会法と衆参規則では、口頭質問の規定がまだ残されているため、与党(国会多数派)さえやる気になれば、明日にでも可能です。けれども、実際のところは、口頭質問制度を知っている国会議員はいませんし、与党が実施する気になるかは疑問です。その気になるくらいならば、今回の予算委員会も開会に応じているはずだからです。

 口頭質問が廃れてしまった国会では、衆参の予算委員会が実質的な代わりを担っています。野党が予算審議を「人質」に取り、開会を要求してきた経緯があります。予算委員会は、首相を含めて全大臣を出席要求することも可能です。

 予算委員会の最大の問題は、定期的な開会が約束されず、与党の同意が必要なことです。それでは、与党を基盤に成立している内閣のチェックという国会の役割を果たすことが十分にできません。

 それでは、今回、衆参の予算委員長はどうすべきだったのでしょうか。

◆与党は国会軽視の行動をやめろ
 予算委員長は、衆参規則を無視せずに、予算委員会の開会日程を決めるべきでした。開会当日、与党委員が委員会室に現れなければ、定足数を満たさないため、そこで流会(中止)となります。結果としては同じに思えますが、誰も衆参規則に反することになりません。

 なぜ、委員長は規則に基づいて開会し、結果として流会させず、規則を無視して開会を拒否したのでしょうか。それは、与党の審議拒否を「可視化」させないためだったと考えられます。野党の審議拒否が「諸刃の剣」となり得るリスクある行為であると同様に、与党の審議拒否もリスクがあります。ただ、野党の審議拒否は自ずと「可視化」されるのに対し、与党の審議拒否はあらかじめ委員会を開会しないことで「可視化」しにくいのです。委員長が衆参規則を踏みにじってまでも、それを避けたかったということです。それは、国会を軽視する行動に他なりません。

 それでは、野党にはどのような対抗手段があるのでしょうか。

 一つは、衆院決算行政監視委員会の開会について、同じ規則に基づいて開会要求することです。委員長は野党なので、委員長の職権で開会期日を決めることが可能です。もちろん、開会しても定足数に満たないため、委員会は流会となります。けれども、与党による審議拒否を「可視化」することは可能です。委員会室がガラガラの状態で、開会を待つシーンは、審議拒否をするときの野党にとってキツイ場面です。それが与党の責任になるのです。

 もう一つは、野党合同ヒアリングを開催し、櫻田大臣や塚田副大臣に随行した官僚、部下の官僚からヒアリングすることです。直接的ではありませんが、問題の解明にはつながります。以前、筆者の解説「野党は国会を見据えて行動を。野党もできる実のある国会改革」で論じたように、野党合同ヒアリングは、国会改革の可能性を秘めています。

 繰り返しますが、野党の「審議拒否」が多くの有権者の目に見えやすいのに対し、与党の「審議拒否」は有権者の目から見えにくい状態にあります。与党も、様々なかたちで「審議拒否」していることが多くの有権者に伝わり、それが国会の役割を損なう問題であると知られることは「熟議の国会」をつくる最初の一歩になります。

<文/田中信一郎>
たなかしんいちろう●千葉商科大学特別客員准教授、博士(政治学)。著書に『国会質問制度の研究~質問主意書1890-2007』(日本出版ネットワーク)。また、『緊急出版! 枝野幸男、魂の3時間大演説 「安倍政権が不信任に足る7つの理由」』(扶桑社)では法政大の上西充子教授とともに解説を寄せている。国会・行政に関する解説をわかりやすい言葉でツイートしている。Twitter ID/@TanakaShinsyu

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