Photo credit: Babszi on Visual hunt / CC BY-NC-SA
Point
■脳細胞は酸素の供給が絶たれると、すぐに死んで元に戻らないと考えられていた
■屠殺された豚の脳を、4時間後に特別な培養液を流したところ、細胞死が抑えられた上に、シナプスの活性の回復も見つかった
■脳波の測定から、意識や感覚は復活していないため、細胞は生きているが死んだ状態であるといえる

死の定義とは一体…?

イェール大学の研究者が、屠殺後4時間たった豚の脳を部分的によみがえらせることに成功しました。この研究によって、生と死の境目における議論が巻き起こることになりそうです。

かしこの豚、果たして意識はあったのでしょうか?

研究は、「Nature」で発表されています。

死んでいなかった脳細胞。しかし意識は…

研究者たちは屠殺場から32個の豚の脳を収集し、4時間後にこれらの脳を装置につなぎました。

装置は、心拍を模したリズムで脳に特殊な溶液を送り込みむもの。この溶液には酸素を供給できる人工血液や、脳細胞の死を遅めたり、回復させたりする薬剤が含まれています。

この溶液を6時間あたえ続けた結果、細胞死の減少や血管の再生、そして一種の脳活動と、さらに機能しているシナプスをもが発見されました。

脳は薬剤に対して生存時と同じ反応を示し、供給されている酸素も同程度消費していました。しかも、こういった現象が観察されたのは屠殺されてから10時間後のことなのです。

Credit: Stefano G. Daniele and Zvonimir Vrselja, Sestan Laboratory, Yale School of Medicine

しかし脳波計による脳全体の電気活性には何ら反応がなく、意識や感覚が戻ってはいないようでした。つまり、基本的にはこの脳は死んでいるも同然なのです。

今までの常識では、酸素供給が絶たれた脳細胞は、速やかに不可逆的な死を迎えると考えられていました。しかし、どうやら脳細胞の死はもっと長いスパンで起こっているようです。細胞死は引き伸ばすことができ、場合によっては復活させることもできる可能性があります

倫理的に問題になる可能性

死んだ脳が復活するとなると、倫理的な問題が生じる可能性があります。それを防ぐために、脳細胞の活動を抑える薬剤を処方し、常に活動状態がモニターされています。

もし問題が起きた場合には、麻酔が施されてすぐに実験が中断される手はずとなっていました。倫理学者は、この新しい実験には、新しいガイドラインが必要となってくるといいます。というのも、実験に使われた脳の生死はグレーゾーンにあるからです。

培養液で脳だけが生きるSFの世界がやってくる?

将来的に、死んだ人の脳を復活させることができるようになったとすると、死の概念も変わってくるでしょう。死後に脳だけが培養液の中で生きているという、SFの中の話が現実になるかもしれません。

また、実用的な展望も望めます。アルツハイマー病のような神経疾患の治療法の研究に新たな手法をもたらす可能性があるのです。

他にも、死後の解剖後の脳を使って反応を調べるといった実験や、酸素欠乏によって脳細胞に損傷が起きた患者の神経を復活させることもできるかもしれません。

 

「復活した脳細胞はどれだけもつのか?」「死後のもっと早い時期に処置を行ったらどうなるのか?」「脳の活性をおさえる薬剤を使わなかったら意識は回復するのか?」など様々な疑問が浮かんできますが、研究が進むことで明らかになっていくでしょう。

身体から離した豚の脳を36時間「生かす」実験が成功する。意識はあるの?

reference: BBC / written by SENPAI
生と死の境目はどこ? 死後4時間たった豚の脳細胞が復活する