【写真を見る】「放送禁止」シリーズの生みの親、長江俊和が語る恐怖のメソッドとは!?

WOWOW初のホラーミステリードラマとして、4月12日第1話が放送された「東京二十三区女」(毎週金曜24時~ 全6話)。本作は、人気のバラエティ番組「奇跡体験!アンビリバボー」や、“ストーカー被害”“隣人トラブル”“自殺”など、様々な社会問題を題材にしたフェイクドキュメンタリーとして、根強いファンを持つ「放送禁止」シリーズなどを手掛けた映像作家、長江俊和の同名小説をドラマ化した作品だ。

本作では、倉科カナ、安達祐実、桜庭ななみ、壇蜜、中山美穂、島崎遥香という豪華女優陣が1話ずつ主演を務め、渋谷区江東区豊島区、港区、板橋区品川区に実在する恐怖スポットについての伝承や、隠された歴史を浮き彫りにしていく。

今回Movie Walkerでは、これまで様々なメディアで“リアルな恐怖”を世に送りだしてきた長江監督と、都市伝説やオカルトについて詳しい若手放送作家コンビ「都市ボーイズ」の岸本誠と早瀬康広との鼎談を実施!前編では「東京二十三区女」の制作秘話について伺ったが、後編では、 “恐怖を演出すること”について、話を聞いた。

■ 「日常にある恐怖とエンタメを融合させるために、リアルな出来事を“利用している”」(長江)

岸本誠(以下、岸本)「前編では『東京二十三区女』の話を中心にお話を聞かせていただきましたが、僕らも放送作家として働いているので、後編では長江監督の “仕事のコツ”などをお伺いしたいなと思っております。これまで『放送禁止』シリーズや『アンビリバボー』などで、“日常に潜む恐怖”をエンタテインメントに落とし込んでこられたと思うのですが、それはご自身の身近にある出来事から発想されるのですか?」

長江俊和(以下、長江)「『アンビリバボー』は実際にあった出来事を紹介する番組なので、ちょっとスタンスが違いますが、『放送禁止』や今回の『東京二十三区女』についてはそうですね。僕の作品は驚愕のラストで終わるものや、荒唐無稽な話が多いので、フィクションの世界に、如何に「リアル」を取り入れるかに腐心しています。僕は筒井康隆や安部公房などの不条理などこかSF的な作品が好きで、ミステリーにしても、どこかぶっ飛んだ話が好きなんです。『放送禁止』シリーズはどれも信じがたい話や驚愕のラストを迎えるものが多いので、視聴者が身近だと感じるような演出をしました。『これ、リアルだな』『こういうことって自分の身の回りでもありそうだな』と思わせて、最後のびっくりするようなオチさえも『これって実際にあったことなのかも⁉』と感じてもらえるようにしたんです。その方法は『東京二十三区女』でも使っていますが、やはり “身近な”とか “本当にありそうな”という要素をストーリーラインに入れ込むことで、グッと視聴者を惹きつけられるんです」

岸本「今回も、そういった演出に、まんまとやられました!」

長江「『東京二十三区女』の企画立ち上げ当初は、世界の実話ホラーをテーマにしたものを作ろうという話をしていました。でも、視聴者が住んでいたり、行ったことがあったりする身近な場所をテーマにして、実はそこには怖い場所や恐ろしい歴史があった!というふうにするほうがおもしろいのではないかという話になり、本作が出来上がりました」

岸本「なるほど、そういう経緯があったんですね」

長江「そういう意味でいうと、日常にある恐怖とエンタメを融合させるために、リアルな出来事を“利用している”というのが正しいかもしれません」

■ 「墨田区は“バラバラ殺人事件”発祥の地とも言えるんです」(長江)

早瀬康広(以下、早瀬)「本作では描かれなかった別の区で、やってみたい場所や構想などあったりするんですか?」

長江「4月30日に小説『東京二十三区女』の続編が出版されるのですが、そこでは今回のドラマで描かれた豊島区に加え、墨田区葛飾区千代田区をテーマに書いています。墨田区には、永井荷風の小説『濹東綺譚(ぼくとうきたん)』の舞台になった街があるんですよ。いまは普通の商店街なんですが、そこには戦前、私娼窟(ししょうくつ)と呼ばれる、いわゆる“赤線地帯”などにいた国が認めた公娼ではなく、許可なく商売をしている娼婦たちがいる一画があったんです。その私娼窟に永井荷風が通っていて、『濹東綺譚』はそこをテーマにしているんです」

岸本「なるほど、これまた興味深いテーマですね」

長江「『濹東綺譚』が書かれたのは1937年なんですが、その5年前に同じ地域のドブの中から、人間の断片がいくつか見つかる事件が起きていて、それをはじめて朝日新聞が “バラバラ”という言葉を見出しに付けて紙面で取り上げたんです。だから、墨田区は“バラバラ殺人事件”発祥の地とも言えるんです。それら2つの要素を合体させた話を作れないかなという発想で書いた話なので、ぜひ読んでみてください」

■ 「ノリとしては『ドリフ大爆笑』の“もしもシリーズ”を作っているような感じです」(長江)

岸本「ミステリーやオカルトだけでなく、バラエティなどもこれまで数多く手掛けてこられた長江監督ですが、“笑い”の要素も人を怖がらせるものを作るときに活かされていたりしますか?」

長江「僕自身が関西出身なんでね。子どものころから吉本新喜劇やお笑い番組が、毎日のようにテレビで流れている環境で育ったので、“笑い”というものはすごく好きです。なにかおもしろいことを言った時とかに、人がワーッとウケてくれるとカタルシスを感じますね」

岸本「ウケたときのあの感覚を味わうと忘れられなくなりますよね」

長江「お客さまや読者、視聴者を怖がらせることと、笑わせることって、どこか表裏一体だなと思うんです」

岸本「そうですよね。さっきまで笑える状況だったからこそ、いざ恐い展開になったときのギャップで更に恐く感じるというか。 “緊張と緩和”、逆に“緩和からの緊張”を問答無用で人に突きつけるのがホラーみたいなところがありますもんね」

長江「例えば『放送禁止3 ストーカー地獄篇』の伏線になっている『新幹線がパパを殺した』っていう言葉を思いついた時、笑い止まらなかったです。ダジャレかよ!と思いながら(笑)」

早瀬「あの言葉で、物語の謎が解けるんですよね!それまで、ストーカー被害に悩む女性の話だと思って観ていた視聴者は“新幹線”というワードが、ある人物のことを指していると気付き、ストーカー被害の裏に隠されたもう1つの真実が浮かび上がってくる。オチとしてはゾッとしますが、たしかにあれはダジャレですね」

長江「『放送禁止』なんかは、僕自身が『こんなドキュメンタリーを見てみたい』と思うものをテーマに、『そのドキュメンタリーがこんなとんでもない展開を見せたらおもしろいだろうな』と考えるんです。フェイクドキュメンタリーだから、内容はこちらでコントロールできるので。だから、ノリとしては『ドリフ大爆笑』の“もしもシリーズ”を作っているような感じです」

岸本「なるほど!大喜利的な要素があるということですね。たしかに、視聴者が考えている『このあとこうなったら、すげーだろうな』という展開が、本当に描かれるからびっくりするんですよね」

長江「もしもシリーズって、“もしもこんなタクシー運転手がいたら”とか、そんな感じじゃないですか。『放送禁止』も“もしもこんな大家族がいたら”とか、“もしもこんな隣人がいたら”とか、そんな発想の仕方で作ってました」

早瀬「『放送禁止5 しじんの村』は、特に大喜利的な感じがしますね」

長江「そうですね(笑)『放送禁止5』は、僕が最初にプロットを書いた時は“自殺志願者たちのあいのり”だったんですよ」

早瀬「えぇーっ!?そのテーマも興味深いですね」

長江「そこから紆余曲折あって、逆のスタンスの“自殺を止める人たちの話”になったんです」

■ 「『○○禁止』はもういいんじゃないかなと」(長江)

岸本「『放送禁止』シリーズを含め、長江監督の作品で使用されている“禁止”って人を惹きつける言葉ですよね。小説も『出版禁止』『掲載禁止』『検索禁止』などあるじゃないですか。次の『〇〇禁止』というのは常に考えているものなんですか?」

長江「『放送禁止』とは違ったところで、本とか小説も書いてみたいんだけどね。『○○禁止』はもういいんじゃないかなと。なんでも“禁止”がつくじゃん!と思われちゃうんで」

岸本「僕たちファンは楽しみにしちゃいますね。それこそ、僕らも大喜利じゃないですけど、次はなにを禁止にすんだろう?とか、やっぱ考えちゃいます。長江監督といえば!みたいになっちゃってるところもありますよね」

長江「なんでも“禁止”とつけちゃうのは良くないと思うので、今回の『東京二十三区女』は僕の作品だけど、ちょっとテイストが違います。『放送禁止』や『出版禁止』なんかは、作品内に無数の伏線を張ってあって、“驚くべきオチ”は用意されているけど、ラストでも全てのタネを明かされない。それが『○○禁止』シリーズかなと思っています。だから、『東京二十三区女』はそういうふうに作ってはいないんですけど、前編で話したように、品川区編に登場するタクシーの会社名なんかに少し、遊びとしてその要素はちりばめています」

早瀬「小説版『東京二十三区女』の板橋区編では、“縁切り榎”に奉納された主人公の夫が書いた絵馬の“かなし”という言葉の意味が明かされていないですよね。でも、ドラマ版では“かなし”の意味が映像で説明される。だから、小説のファンはドラマを観て答え合わせができるので、楽しいのではないかと思いました」

長江「小説を読んでくれた方もわからなかった人が多いみたいです。小説の担当をしてくれた女性も、出版するタイミングになって『長江さん、実は私いまだにあの謎の答えがわからないです』って言ってきたくらいで。どおりで打ち合わせの時に話が噛み合わないことがあったわけだと納得しました(笑)」

■ いま1番の自信作は、この『東京二十三区女』全6話です(長江)

岸本「今回の『東京二十三区女』の中で、お気に入りのエピソードはありますか?」

長江「『東京二十三区女』に関しては、全てお気に入りですね!『放送禁止』シリーズは、今後も続けていくつもりなんですけど、最近小説ばっかり書いていたから、久々にがっつりドラマ作品を素晴らしいキャストとスタッフの力で作り上げていくというのは、小説を書いてる時とはまた違った醍醐味がありましたね。だから、いま1番の自信作は、この『東京二十三区女』全6話です。多くの人に観てもらいたいなって思いますね」

岸本「そうですよね」

早瀬「僕たちは関係ないですけど、本当に観てもらいたいと思います。すごく面白かったので」

岸本「ここで鼎談をさせてもらっている時点で関係なくはないけどね(笑)」

長江「関係なくはないですね(笑)」

岸本「さきほど、ポロッと仰ってましたけど、『放送禁止』シリーズも続けていただけると聞けて本当に良かったなと思います」

長江「そうですね。嬉しいことに『また「放送禁止」が観たい!』と言ってくれる人が多いので、僕も機会あればやりたいなとは思っています」

岸本「次の『放送禁止』も楽しみにしています。今回は貴重なお話をありがとうございました」

早瀬「ありがとうございました。本当に楽しかったです」

長江「とんでもない。僕も楽しかったです!」(Movie Walker・文/編集部)

第2話放送が迫る!東京に潜む恐怖を描くドラマ「東京二十三区女」