前年度、全日本吹奏楽コンクールに出場を果たしたものの銅賞に終わった北宇治高校吹楽部は、「全国大会金賞」を目標に再始動。2年生に進級した黄前久美子は、4月に入学した1年生の指導係となった。
久美子と同じユーフォニアムを担当する1年生の久石奏は、演奏技術が高い上に人当たりも良く、一見、優等生なのだが……。

武田綾乃の小説を原作に、高校生たちの繊細かつ複雑な人間ドラマを描いてきたアニメ『響け!ユーフォニアム』シリーズ。2015年に放送されたテレビシリーズ第1期と2016年放送の第2期に加えて、2本の劇場版も制作。昨年4月には、スピンオフの劇場版『リズと青い鳥』も公開された

そして、ファン待望の最新作『劇場版 響け!ユーフォニアム〜誓いのフィナーレ〜』が本日4月19日(金)から公開。本作では、小説『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章』(以下、第二楽章)を原作に、2年生となった久美子を中心とした物語が描かれている。

エキレビ!では、TVシリーズと劇場版(劇場版第2作では総監督)に続き、本作でも監督を勤めた京都アニメーション石原立也にインタビュー。前編では、物語の内容にも触れながら、久美子や、幼なじみ塚本秀一について語ってもらった。

本作を未見でネタバレが苦手な人は、劇場で鑑賞後に読んで欲しい。

学校の中で、どのように自分の居場所を見つけていくのかが青春
──本作『誓いのフィナーレ』と、山田尚子監督の『リズと青い鳥』は、同じ小説『第二楽章』が原作となっています。1冊の原作小説から2本の映画を作るアイデアは、早い段階から固まっていたのでしょうか?

石原 最初はいろいろと考えました。原作に沿って、(『リズと青い鳥』の主人公の鎧塚)みぞれと(傘木)希美のことも描こうかと考えたりもしてみましたが、やっぱり分量的に多いんですよ。そうやって考えていく中、みぞれと希美のお話と、久美子が直接的に関わってくるお話の2本に分ける形にしようというアイデアが出まして。「それは良いですね」ということになり、この『誓いのフィナーレ』の方では、ひたすら久美子を追いかけていく構成とすることになりました。とはいえ、原作のすべての要素は入らなかったのですが。例えば、新1年生小日向夢に関するお話は、ごっそり削ることになりました。あと、釜屋つばめのエピソードも今回は拾えませんでした。

──トランペット担当の夢や、パーカッション担当のつばめは、ユーフォニアム担当で低音パートの久美子とは関わり合いが少ないため、あまり描けなかったのですね。

石原 この映画で一番大事なのは何かという取捨選択の中で、そういう形になりました。いいエピソードではあったのですが……。

──久美子を中心とした物語となることが決まった後、本作をどのような作品にしたいと考えたのでしょうか?

石原 山田(尚子)が監督を務めた『リズと青い鳥』は、山田テイストの濃い作品になることは分かっていたので(笑)。こちらは今までのシリーズを踏襲した雰囲気の作品に自然となるだろうと思っていたし、むしろ、そうしたいと考えていました。

──具体的には、どのような方向性ということですか?

石原 やや語弊のある言い方になるかもしれませんが……。『響け!ユーフォニアム』は吹奏楽部の話ではありますが、吹奏楽について描く作品というよりも、吹奏楽部を舞台にした青春ものである、という意識はずっとあります。もちろん、この作品を作るため、僕自身もスタッフも、吹奏楽のことをいろいろと勉強したりはしていますが。

──主人公である久美子については、シリーズを通して、どのような印象や変化を感じてきましたか?

石原 最初、北宇治高校の吹奏楽部に入った時は、ずっとやってきたユーフォニアムにも特にこだわりがなくて、トロンボーンに変えようと思っていたり、ややふわっとした女の子だったと思うんです。でも、シリーズを重ねていく中、(高坂)麗奈と親しくなったり、(田中)あすか先輩に出会ったりして、自分というものが固まってきたのかなと。それって、久美子だけの話ではなくて、子供の頃はたいていの人がどこかふわっとしていると思うんですよね。そのままいきなり社会に放り出されないように、予行演習のための小さな社会として学校がある。その中で、どのように自分の居場所を見つけていくのかが青春であり、アイデンティティーを確立するということなのかなと。この取材の前に、今回、何を描きたかったのか改めて考えたのですが、結局のところ、そういうことを描きたかったのだと思います。

特に意識して、秀一の前での久美子の可愛さを描くようにした
──2年生になった久美子に関しては、どのような一面や魅力を描きたいと考えたのでしょうか?

石原 今回、今までと違うのは、(塚本)秀一との関わり方です。こういった(女子がメインキャラの)アニメで、男の子を出すのは嫌いな方もいらっしゃいますけれど(笑)。僕としては、アニメで女の子が可愛く見えるのは、男の子に恋をした瞬間や、その相手の前にいるところだと思うんですよ。だから、今まではあまり描かなかったのですが、今回の映画では特に意識して、秀一の前での久美子の可愛さを描くようにしました。

──本作の冒頭で秀一が久美子に告白し、二人は幼なじみの部活仲間というだけでなく、恋人にもなりました。

石原 もちろん、麗奈やあすかの前での久美子も可愛いのですが、久美子の別の一面、女の子としての可愛らしさをより見せるために、秀一との関わり方は大事にしたいと思いました。また、「なぜ久美子は秀一のことを好きなのか」という理由も大事なことだと思っています。単に優しいからとか、カッコ良いからではないんですよ。例えば、作品の中でも描いていますが、1年生の(月永)求とコミュニケーションを取れていることについて、久美子は「秀一はすごいな」と感じたと思うんですね。

──コントラバス担当の求は、久美子と同じ低音パートの一員ですが、師匠と慕う川島緑輝以外にはあまり心を開いてないですね。

石原 だから、そういう時に「秀一はすごいな。ちゃんと先輩をしているんだな」と感じたはず。実は、秀一も彼なりにいろいろと考えているので(笑)。きっと久美子は、秀一のそういうところを尊敬しているだろうし、秀一という存在から学ぶこともあると思うんです。

──久美子と特に親しい同級生の麗奈、(加藤)葉月、緑輝に関しても、本作で新たな一面を見せたいと思ったことはありますか?

石原 2年生組に関しては、今回、そんなに大きく変わったキャラクターはいないのですが、やはり麗奈の存在は久美子にとって大きいかなと思っていいます。先ほど「青春とは自分の居場所を見つけること」みたいな話をしましたが、まだそれを見つけられていない久美子と違って、麗奈は、自分がそこに行けるかどうかは分からないけれど、「そこに行きたい」というものをはっきりと見つけている。そういうところでも、久美子にとって大きな影響を与えている存在なのかなと思います。あと、緑輝に関しては、他のキャラクターとはちょっと違う見せ方をしていて。この作品では基本的に、久美子がいる場所を描いているので、キャラクターを描く時も、久美子と一緒にいるところを描くことが多いんです。でも、緑輝の場合は、久美子とまったく関係ないところで、緑輝のカットがポンと入ったりするんですよ。例えば、求との会話のシーンとか。今考えれば、そういった少し特別な見せ方をしているキャラクターだと思います。緑輝も麗奈と同じで自分というものをかなりはっきり持っている人間。というか、かなり完璧な人間だと思います。

──演奏技術は部内屈指ですし、天然なところもあるけれど、芯は非常に強そうです。一方、葉月は高校に入ってから吹奏楽を始めたこともあって、今回も悔しい立場でした。

石原 葉月は、今回、可哀想な役回りなんですけれど……。僕としてはかなり葉月に感情移入できるんです。人生においては、こういうことも多々ありますからね。個人的には(来年こそ)頑張って欲しいです。

偏った考え方の奏も、好きになってもらえるように
──本作に登場する1年生の中でも特に出番が多いのは、久美子と同じユーフォニアム担当の奏です。

石原 久美子との関わりが一番多いですからね。それに、あえての言い方をしますと、久美子にとって、今回の攻略対象なわけです(笑)。

──優等生に見えて、実は屈折した思いを抱いている、難易度高めのヒロインですね(笑)。奏を描く際、特に意識されたことを教えてください。

石原 奏は、けっこう偏ったものの見方をしている子です。でも、観ている人が、その考え方に賛同できるかどうかは別として、「気持ちは分からなくもないな」と思ってもらえるくらいには理解してもらえるようにしたいと思っていました。「過去に辛いことがあったから、今回こういう行動をしてしまったんだな」と観ていて納得できるような描き方をしないと、物語に都合が良いだけのキャラクターになってしまうので。一人の人としての存在感があるキャラクターにしたいとは考えていたんです。それに、この作品の見どころの一つでもあるキャラクターなので、お客さんに嫌われると困るんですよね(笑)。偏った考え方をしているけれど、好きになってもらえるキャラクターになるように気を付けました。

──器用に立ち回る子かと思っていたら、実はすごく不器用な子でしたね。

石原 3年生の(中川)夏紀とひと悶着あった時も、もっと上手く立ち回る方法はあったと思うんですよ。上手くごまかす、とか。でも、あそこで嘘を突き通せず、本音を言ってしまうところが意外と正直ですよね(笑)。おっしゃるとおり、生き方が不器用な子なのかなと思います。
(丸本大輔)

後編に続く

≪作品紹介≫
『劇場版 響け!ユーフォニアム〜誓いのフィナーレ〜』
2019年4月19日(金)公開

【スタッフ】
原作:武田綾乃
宝島社文庫『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章』)
監督:石原立也
脚本:花田十輝
キャラクターデザイン:池田晶子
美術監督:篠原睦雄
色彩設計:武田明代
楽器設定:高橋博行
撮影監督:高尾一也
音響監督:鶴岡陽太
音楽:松田彬人
音楽制作:ランティス、ハートカンパニー
音楽制作協力:洗足学園音楽大学
演奏協力:フレッシュマン・ウインド・オーケストラ
音楽監修:大和田雅洋
アニメーション制作:京都アニメーション
製作:『響け!』製作委員会
配給:松竹

【キャスト】
黄前久美子黒沢ともよ
加藤葉月朝井彩加
川島緑輝豊田萌絵
高坂麗奈安済知佳
塚本秀一石谷春貴
中川夏紀:藤村鼓乃美
吉川優子山岡ゆり
後藤卓也:津田健次郎
長瀬梨子:小堀 幸
久石奏:雨宮 天
鈴木美玲:七瀬彩夏
鈴木さつき久野美咲
月永求:土屋神葉
田中あすか寿美菜子
滝昇:櫻井孝宏

(C)武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

シリーズ4本目の劇場版となる『劇場版 響け!ユーフォニアム〜誓いのフィナーレ〜』。石原立也監督は全編の絵コンテも自ら手がけている。スピンオフ作品『リズと青い鳥』の山田尚子監督もチーフ演出と原画で参加