史上初めて、死んだ脳を蘇らせることに成功した。最新の蘇生装置を利用することで、死んでから4時間が経過したブタの脳の細胞機能と分子機能の一部が回復したというのだ。
1818年に発表されたメアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』以来、人は死者の復活を夢見てきた。今回の実験は、その実現へ向けた第一歩だろうか?
Angiography of the BEx perfused brain
脳は、酸素量や血流の低下に非常に弱い。万が一、酸素と血液の供給が止まってしまえば、脳細胞の活動は数秒から数分のうちに停止してしまう。
しかしである。これまでの研究者の観察からは、血流が止まってから数分で広まる脳細胞の死が絶対に避けられないものであるのかどうか、はなはだ疑問に思われてきた。
つまり「死後、脳からまだ生きている細胞を採取し、それを培養できる」と考えられたのだ。このことは、死んだ脳には蘇生できる可能性が残されていることを意味している。
保護液を送り込み、ブタ脳を蘇生する試み
アメリカ・エール大学の神経科学者のネナド・セスタン氏が考案した「BrainEx」という装置は、単離した脳に保護液を循環させることができる。
それはちょうど心臓が血液を送り込むかのように、およそ37度の正常体温での脈動血流を再現したものだ(ちなみにBrainEXのExは、「生体外」を意味する「Ex Vivo」からとられた)。
実験では、食肉用のブタ32頭から摘出した死後4時間経過した脳をBrainExに装着。6時間ほど保護液のかん流を行うと、未処理の脳と比べてはっきりとした違いが生じた。
組織と細胞の構造が維持されており、細胞死が抑制されていることが確認されたのだ。
さらにグリア細胞と血管が刺激に反応したり、代謝にあわせて自発的なシナプス活動が見られるなど、一部の分子機能と細胞機能が復活までしていたのである。
意識も回復したのか?
一方、脳が通常通りに機能するために必要となる、秩序だった全体的な活動のサインは確認されなかった。つまり、実験の結果として、ブタの意識が回復したわけではないということだ。
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この点について研究チームは、全体的な活動の蘇生が研究目的ではなく、それが確認されれば直ちに研究を中止していたことを強調している。
実際、万が一意識が生じてしまった際に、それを消すための麻酔と中止手順を用意したうえで実験は実施されていた。
脳には想像以上に強い回復力がある
今回の発見からは、脳細胞にはこれまで想像されていた以上にずっと強い回復力が備わっていることがわかる。
この特性を利用すれば、やがては脳梗塞、外傷、長期間の低酸素状態などのために脳機能が損なわれてしまっても、治療が可能になるかもしれない。
またBrainExは死んだ脳の研究に新しい手法をもたらすだろう。
これを利用すれば、たとえば、外傷が脳のダイナミクスに与える影響、あるいは特定の薬剤の作用といったことの調査、さらには生きた状態ではきわめて困難な大型哺乳類の脳のダイナミクスを探求することすらできるかもしれない。
この研究は『Nature』に掲載された。
References:popsciなど/ written by hiroching / edited by parumo
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