わたしたち社会が生み出している「引きこもりの人」をどのように捉え、改善していくのかが、今後の議論になるであろうが、内閣府主導で「成功事例」として模倣しそうなのが、自殺対策である。

これも「バブル崩壊」により経済状況が悪化して、一気に年間自殺者1997年の約2万4千人から98年に約3万3千人となり、3万人以上の時代が続いたことを懸念した政府が内閣府主導で対策に本腰を入れたのである。

その結果、2012年に2万人台となり、以後2万人台を下降している。同年に政府は自殺総合対策大綱を制定し、毎年国会に内閣府自殺対策白書を提出している。首相に近い内閣府の仕事を毎年国会に報告するからには成果が求められる

そうすると、自殺対策を実施する機関も関係省庁も「忖度」が生まれそうで、実際減ったとされる自殺者の数は、最近の統計不正の問題もあり、実数とは微妙に違うのではないか、という疑念も沸いてしまうが、それは今回触れない。全体としては減っているはず、である。

大事なのは、内閣府主導でやることで、「忖度」も含め周囲は成果に向けて動く、という政策実行の習性である。

私自身、支援の現場で自治体の担当者と話をする時に、政府が重視しているワードやトレンドを口にすると先方が敏感に反応し、俊敏な動きを見せくれることがある。それは「自死」であり、最近では「虐待」「DV」にも敏感な反応を見せる。

引きこもりも調査を受けてガイドラインを示せば、何らかの行動は可能であろう。しかし、その中身が重要だ。約5割が7年以上引きこもっており、暮らし向きは上・中・下のうちの選択で聞いたところ3人に1人が下であった。

引きこもりの方の中には幸せに生きている方もいらっしゃるとの認識を持ちつつ、「不幸な状態にある」引きこもりの方を表に出すために、おそらく何らかの「社会」と結びつき、小さなコミュニティの一員として迎えるところから始めるかもしれないが、即座に「福祉」「就労」等の既存の領域に入れるとの発想からは離れたい。この新しい問題には新しい皮袋が必要だと考えている。

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特別支援教育が必要な方への学びの場である「法定外シャローム大学」や就労移行支援事業所を舞台にしながら、社会にケアの概念を広めるメディアの再定義を目指す思いで、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを模索します。

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