大型商業施設に入るOL服などを販売するアパレルの店長の竹山幸雄さん(仮名・35歳)は、18歳の新人女子が入社すると分かって少しウキウキしていた。「若い女の子がいるだけで、店はぱっと華やかになるし、女性客も増えるだろう」と見込んだからだ。



 ところが入社した新人にあ然。華うんぬんの前に、常識がなかったからだ。



◆初日に遅刻した理由が…



「初日、その子が30分も遅刻してきたんです。遅刻の理由が『間違えて違う店舗で働こうとした』からだそうです。うちの店の下の階にある別の店に入り、ロッカーで制服が届くのを待っていたとのこと。その店の店長から指摘され、店を間違ったことに気づいたそうで」



 そもそも、自分が働く店舗の名前も覚えていないという、なかなかぶっ飛んだ新人女子。



ショックでした。彼女が間違えた店舗はウチと系統がまるで違う。勤務する店くらい把握しといて欲しかった。でも、すごく焦った感じで来たし、しっかりと謝罪していた。だから大丈夫かと思ったけど…」



 だがその新人と話をすると、「地方の高校を卒業して上京してきたばかり」という。それで、徐々に不安が広がっていった竹山さん



「自分が東京で就職した時は、1か月前に上京して、部屋を探して引越しをして、半月ぐらい新しいアパートで暮らしながら、東京を知りたいと新宿、渋谷はもちろん、職場近辺にも出かけて、他のアパレル店を覗いたり、美味しい店で食事を楽しんだりしました。



 今はネットの時代だから、スマホで簡単に情報を知ることができるけど、お店を利用してくれるお客さんとの会話のきっかけになるのがエリア情報。街を肌で感じることによって、お客さんとの会話のきっかけはもちろん、美味しいお店情報なんかを共有できるわけですからね」



 竹山さんの頃とは時代が違うし、仕方ないのでは…と思わなくもないが、彼の不安は的中した。初日なので、まずは簡単に接客をやってみようと指示したのだが、お客に対し馴れ馴れしくタメ口で話す、お客が試着室に入って数秒で「どうですか?」と声をかけるなど、初日から危うい言動が見られたからだ。



 とはいえ新人を教育することは店長である竹山さんの仕事。彼女に対し、ある指令を命じた。



「まず、初日からの遅刻は良くなかった。だから明日は朝は30分早く出社して、開店前の掃除を徹底的にやること。平日の午前中は比較的暇なので、ブランド品の名前を覚えること。そして、お客様の様子をよく観察し、絶対に敬語を使うこと。1週間後に試験をやるから、徹底的に覚えることを命じました」



何かが違うから辞める



 初日のこともあり、2日目は先輩と一緒に接客することに。先輩が客に話しかけているのを良く観察し、お客様が試着するときは丁寧に案内することを徹底させた。「習うより慣れろ」。竹山さんが新人だった頃の訓練を、新人女子にも教え込もうとしたのだ。



「ところが、入社3日目の朝に出社してこなかったので、心配していたら電話があって『辞めたい』と言うんです。理由は『何かが違う』。何かって何だと聞いても『わからない』。仕方がないなと諦めて、2日間お疲れさまと言ったら『辞めるにあたって2日分の給料はもちろんだけど、30分前に掃除したんだから、その分の賃金もください』と要求していたんです。驚きましたよ。



社会人として、その要求はおかしいよ』と諭そうとしましたが、『はあ』と言ったきり。そして『アパレルって、もっと華やかでキラキラしているかと期待していましたが、まったく違っていたので、私も残念です。というか、30分も多く働くのは就業規約違反だと思うので、払わないと訴えます』って」



 竹山さんはその場で答えを出さず、「本部に連絡してみるから」といったん電話を切ってから、本部に問い合わせたそうです。本部は辞めた新人女子に2日分、30分の残業を含めて支払うことになったとか。



「人手は欲しいけど、当分の間、新人はいいやというのが僕ら店の人間の正直な気持ですね」



 どのような理由があろうと、労働者は働いた分の賃金を貰う権利がある。新人の彼女の主張は正当と言えるだろう。だが「何かが違う」「私も残念です」という言い分は、なんだか違う気もする。最近の若者を指導する、上の人間の悩みは尽きない。<取材・文/夏目かをる>



― シリーズ・モンスター新入社員録 ―

【夏目かをる】
コラムニスト、作家。2万人のワーキングウーマン取材をもとに恋愛&婚活&結婚をテーマに執筆。難病克服後に医療ライターとしても活動。ブログ恋するブログ☆~恋、のような気分で♪