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Point
■少なくとも話し言葉においては、感情に関係する語彙選択をもとにその人が実際に抱いている感情を測ることはできないことが判明
■一方で、イントネーションや声の大きさといった非言語シグナルは実際の感情と一致
心理学研究においては「計測していると思っているものを本当に計測しているか?」を問うことが重要

もしかして仲間…?

以前SNSの発言について、「夜になるにつれてネガティブな発言が増える」という研究があった。

こうした調査の背景には「どういう言葉を選ぶかはその人の心の状態を表す」という前提が存在するが、ある研究チームがこの考え方に一石を投じている。

彼らによると、少なくとも話し言葉においては、感情に関係する語彙選択をもとにその人が実際に抱いている感情を測ることはできないとのこと。Facebookでキラキラしてるあいつも、Twitterでお金バラまいてるあの人も、実は心中穏やかじゃないかもしれないのだ。

PsyArxiv」に査読前の論文が掲載されています。

The Language of Well-Being: Tracking Fluctuations in Emotion Experience through Everyday Speech
https://psyarxiv.com/8fpjn/

感情に関する語彙選択は実際の感情とは無関係!?

研究チームは米国の大学生185名を対象に、1週間にわたって録音装置を身に着けさせ、9分30秒毎に30秒間の音声クリップを記録した。また被験者は、過去1時間で感じたポジティブまたはネガティブな感情を計測するためのアンケートに、1日4回回答する。

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研究チームは、収集した15万件の音声クリップを2年がかりで文字に書き起こし、発話をほとんど含まない音声クリップを排除。その後、ポジティブまたはネガティブな感情に関する語彙(たとえば、”sweet(優しい)”や”hurt(傷つける)”など)をどれくらい含むかによって、それらをスコア化した。

そのうえで、アンケート回答前後の3時間分の音声クリップのスコアを平均化し、最終的に1,579件の言語ベースの感情測定結果を得ました。研究チームはこれらの測定結果を、被験者自身がアンケートで回答した感情と、直接比較した。

その結果、ポジティブまたはネガティブな感情に関係する語彙が、被験者がその時実際に抱いていた感情とは結びついていないことが明らかになったのだ。

つまり、少なくとも話し言葉においては「感情に関わる語彙の用い方が内的感情を代弁する」という仮定は成り立たないということだ。

「言葉にならないサイン」の重要性

一方、音声クリップに入っていた声のイントネーションや声の大きさといった非言語シグナルは、被験者が実際に感じていた感情と一致していた。

実は、研究チームはこの実験を行う以前に「感情に関連しない語彙が、被験者の気分を表すことがあるか?」を調べるため、ある予備分析を行っていた。

その結果、”you”や”we”といった社会性に関係する語彙の使用はポジティブな感情に、”minus”や”number”といった数字に関係する語彙の使用はネガティブな感情に、それぞれ結びついていることが分かったが、その結びつきはいずれも弱く感情を測るツールとしては脆弱だった。

さらに研究チームは自己申告のアンケートでは把握できない、つまりは被験者自身も気付いていない感情を、語彙選択が表している可能性も指摘している。

また”pretty”のように、辞書的にはポジティブな意味(「綺麗な」)を表す語彙が、文脈によってはネガティブな意味になる場合(”pretty terrible”「とても酷い」)もある。

こうした制限があるとはいえ、この研究は心理学研究に用いるツールの有効性を確かめ「計測していると思っているものを本当に計測しているか?」を問い続けることの重要性を示している。

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対面を伴わないコミュニケーションや音声以外でのコミュニケーションが増えつつある今、相手の発話に含まれる言外の意味を汲み取り、相手の気持ちを推し量るスキルはますます洗練される必要があるのかも。

同時にそうしたコミュニケーションにおいて、非言語シグナルの伝達をサポートする仕組みがあれば便利そうだ。

コトバとはウラハラな感情を抱きがちな私たち…。とても面倒くさくて厄介だが、その複雑さこそが人間を人間たらしめているのかもしれない。

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reference: digest.bps / translated & text by まりえってぃ
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