Credit: Shogo HamadaCredit: Shogo Hamada / Cornell University
Point
■人工的な代謝系を組み込むことで、構造の生成と分解が自律的に制御されるDNA材料が開発された
■このDNA材料をマイクロ流体装置に組み込むことで、自発的に生成して移動し、競争さえするロボットができた
■人工代謝で動く分子ロボットの開発は初期段階だが、洗練された行動を生んだことの意義は大きい

生物と非生物の境界線とは一体何だろうか?

コーネル大学で分子ロボティクスを研究する講師の浜田 省吾氏らが、生物としての特性を備えた人工物の開発に成功。特殊なDNA材料から、生物が持つ3つの重要な特性である「代謝・自己集合・組織化」を行うロボットを作り出した。

まるで「人間とは」「意識とは」と問いかけられているようだ。

DNA-based Assembly and Synthesis of Hierarchical”、略してDASHと呼ばれるこのプロセスは、代謝を行うDNA材料を人工的に作る技術だ。代謝とは、食糧を生命維持に必要なエネルギーに変換する一連の化学処理を指す。

浜田氏らが目指したのは、生物そのものを作り出すことではなく、生物のような特性を持つ機械を作ることだった。こちらが、その紹介動画だ。

生体材料の自律的な代謝を促す「DASH」

鍵となったのは、代謝のプログラム化と、DNAコード化だ。DNAに代謝と自律的再生の指示を与えることで、自発的成長を促したというわけだ。

浜田氏らは代謝を、統制され、かつ階層的な生物学的処理を通じて、生体材料が自律的に合成・集合・消散・分解されるシステムとして捉えた。生物は生きていくために、新しい細胞を再生するだけでなく、古い細胞や不要な物質を捨てる能力を備えている必要がある。このプロセスを再現したのがDASHだ。

まず、ナノスケールブロックから自律的に生まれるDNA材料を開発した。この物質は、次々と自発的に配列を変えることができる。

DNA材料に含まれるDNA分子は何百・何千回と複製を繰り返し、やがて長さ数ミリメートルDNAの鎖になる。その溶液を特殊なマイクロ流体装置に組み込み、生合成を促すのだ。

すると、DNAは自律的に合成しはじめる。ロボットの頭が成長し、尻尾が劣化するといった現象が起きると、移動運動さえ可能になる。ロボットスライムのように這う様子は圧巻だ。

ロボット同士で競争も!? 自己進化だって夢じゃないかも

さらに、2体のロボット同士に競争させる実験も行ったところ、DNA材料がさまざまなルートを通って移動するというダイナミックな振る舞いが観察された。

Credit: Hamada Shogo / Cornell University

浜田氏は、人工代謝で動く分子ロボットの開発はまだ初期段階で、設計はまだ未熟だと説明する。だが、競争というある種洗練された行動を作り出せたことの意義は大きい。「人工代謝は、ロボット工学の新しいフロンティアを切り開く可能性を秘めている」と、浜田氏は語っている。

今回の調査では、マシーンは合成と劣化を2サイクル繰り返したが、この寿命はさらに伸ばせるかもしれない。そうすれば、「次の世代、そしてまたその次の世代…」というように、次々と自己再生を行うマシーンが生まれる可能性もある。さらには、自己進化する能力さえ持たせることだって夢じゃない。

研究チームは現在、この物質に刺激に反応させる方法や、光や食糧を自分で探させる方法、さらには有害な刺激物を避けさせる方法を調べているところだ。

 

将来的には、薬剤を必要な組織に届けたり、体内に入って病気を診断したり…と、たくさんの活躍の場を持つことになりそうな分子ロボット。そのニョロニョロとした動きが、なんともいえない「生っぽさ」を湛えている。

自分の存在を「知っている」ロボットが開発される。「意識」とはいったい何なのか?

ロボット「生きてますが何か?」 ついに自発的に代謝・生成するロボットが開発される