大ヒット公開中の『劇場版 響け!ユーフォニアム〜誓いのフィナーレ〜』
2年生になった主人公の黄前久美子ら北宇治高校吹奏楽のメンバーが「全国大会金賞」を目標に、時に衝突しながらも成長し、絆を深めていく姿が描かれている。

ネタバレ全開でお届けするエキレビ!の石原立也監督インタビュー後編では、久美子と後輩の久石奏がお互いの思いをぶつけ合うクライマックスシーンや、久美子たちが挑んだコンクールの結果についての感想なども語ってもらった。
(前編はこちら

僕の気持ちも混ぜておかないと、セリフに説得力が無いと思った
──コンクールメンバーのオーディションでわざと下手な演奏をした奏に対して、3年生の中川夏紀は激高し、オーディションを中止させます。その後、久美子と奏が本音をぶつけ合うシーンについて、どのように描くのかというイメージは早くから固まっていたのですか?

石原 あのシーンは、僕としては一番苦労したところです。まずは、画的にもカッコ良くなくてはいけないですしね。

──原作では、シンプルに向かい合った状態で会話が進みますが、アニメでは途中、久美子が逃げる奏を追いかけながら語りかけるなど、動きのあるシーンになっています。台詞も原作のままではありませんね。

石原 コンテを描いている時、どう言えば、お客さんに伝わるのかなということをすごく考えました。でも、後で見返して思ったのですが、あのシーン、若干、久美子の言ってることがよく分からないんですよ(笑)。

──気持ちと勢いで押し切っているところもある感じでしょうか?

石原 ええ、そういうシーンになっているかなと思います。僕の言いたかったことを一生懸命、久美子に言ってもらっているというか……。若干、理屈が通っていないようでもありますが、僕の気持ちも混ぜておかないと、キャラクターのセリフに説得力が無いと思ったので。そういった思いも混ぜつつ、勢いで描いたところもあるコンテですね。

──久美子役の黒沢ともよさんと、奏役の雨宮天さんの好演も印象深いシーンでした。重要な新キャラクターである奏に、雨宮天さんをキャスティングしたポイントを教えてください。

石原 それは本当に感覚的なものですね。何か決定的に「これだ!」という理由はなかったのですが、直感的に「この方かな」という感じで意見を言わせていただいて、決まった形です。雨宮さんは、最近だと(『 この素晴らしい世界に祝福を!』の)アクア様の印象が強くて、ギャグキャラもけっこうやっているんですけれど。元々、『1週間フレンズ』の(ヒロイン藤宮香織の)ようなおとなしいキャラクターもされていますから。奏には、久美子を誘惑するような小悪魔的なところもありますが、そういったところがとってもよく出ていると思います。

──奏のセリフの中で、特に「雨宮さんがピタリとハマったな」と思ったセリフがあれば教えてください。

石原 久美子と奏が雨の中、言い合うところの「いっしょですよ!」ですね。あの言い方がすごく良かったです(笑)。

華のあるさつきも、ちょっと怒られがちなキャラクター
──ここまで語っていただいたキャラクター以外で、実際に作品の中で描いてみて、印象に変化があったり、さらに魅力を感じたキャラクターがいれば教えてください。

石原 新キャラクターの中だと、(鈴木)美玲や(鈴木)さつき、(月永)求は、奏に比べると登場シーン的には少ないんですけれど……。さつきは存在感がちょっと面白いというか。ああいった可愛らしいマスコット的なキャラクターにしては、他のアニメーションとは使われ方が違ったかもしれません。本来は、ああいう華のあるキャラクターが出てくると場は和むのですが、『ユーフォニアム』って全体的に殺伐としがちなので(笑)。さつきも、ちょっと怒られがちなキャラクターなんですよ。

──さつきが可愛い行動をすると、美玲がキレたりします(笑)。

石原 わりと厳しい世界なので、さつきみたいな子でも、けっこう攻撃対象になるというか、むしろ、ハラハラしてしまう(笑)。そういった意味では、ちょっと変わったキャラクターになった気がします。

──個人的に、3年生で指導係の加部友恵、通称「加部ちゃん先輩」も印象深いです。顎関節症で演奏者を諦めて、マネージャーに転向するという展開が可哀想ですが健気で。

石原 今回の久美子って、いろいろな出来事を体験して、いろいろなことを考えつつ、いろいろなことを学んでいくキャラクターだったと思うのですが、加部ちゃんとのことも、その一つですね。僕も、加部ちゃんは(この物語にとって)どういった存在なのだろうと考えたのですが。例えば、奏は、自分が上手く吹くと夏紀先輩がA組(コンクール出場メンバー)になれないかもしれないから、自分が身を引こうとするキャラクター。つまり、上に行こうとすれば行けるのに遠慮をするキャラクターじゃないですか。それに対して、加部ちゃんは上に行きたくても行けない。(顎関節症で)諦めざるを得ないというか、オーディションにすら参加できないキャラクター。そういった意味で、奏と対比になっている存在なのかなと思います。あと、加部ちゃんのもうひとつの役割として、オーディションに参加せず、コンクールでも一歩引いた立場なので、お客さんに一番近いキャラクターなんですよね。計算していたわけではないのですが、そういう点でも、いてくれるとありがたいキャラクターになりました。

主人公が勇者になったところを見せて、この物語は終わる
──久美子の二度目の関西大会は、金賞ですが全国大会には進めない「ダメ金」という結果に終わりました。「全国大会金賞」を目標にしながら、全国大会にも進めないという展開は原作と同じですが、最初にその展開を知った時の率直な感想を教えてください。

石原 まあ、そんな簡単にはいかないだろうなと思いました(笑)。去年、ポンと全国大会に行きましたけど、関西には他にも強い学校はたくさんいるので。そんな簡単に全国には行けないということだろうなって。そこに、リアリティがあると感じましたね。

──北宇治高校吹奏楽のメンバーは、「自分たちの最高の演奏をしたけれど、全国には届かなかった」と思っているようなのですが。石原監督の中では、「北宇治はなぜダメ金だったのか」ということについて、どのような解釈をされているのでしょうか?

石原 はっきりとした理由などは決めていませんが、原作の中でも、お客さんの反応はとても良かったと書かれているので、演奏としては悪くなかったはず。それにも関わらず、全国に行けなかったのは、純粋に他にもっと強いところがあったからだと思っています。だから、(関西大会の)演奏シーンに関しても、「全国に行けなかったから、ちょっと劣った演奏にしよう」みたいなことはまったく考えていなかったです。

──関西大会からの帰り道、バスの中で奏が久美子に「悔しくて、死にそうです」と叫びます。このセリフは中学最後の大会で麗奈が久美子に言ったのと同じセリフですし、本作の原作小説『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章』の中では、関西大会の後、麗奈が再び同じセリフを言うという形で描かれています。その麗奈のセリフを、あえて奏に言わせた狙いを教えてください。

石原 あれは脚本の花田(十輝)さんのアイデアであり、素晴らしいところですよね。花田さんは、それまでの物語の流れや蓄積をすごく大事にされる方なんです。テレビシリーズ(第1話)の一番最初、中学時代の麗奈が言った「悔しくて、死にそう」という言葉を、久美子が教えたわけでもないのに、奏が言うんですよね。麗奈って、あの台詞を言った後、すごく強くなったじゃないですか。だから、奏もこれからすごく強くなるのだろう、ということを暗示しつつ物語が終わるんです。今回、すごく気をつけたのは、コンクールには負けたけれど、勝負には勝ったという形にすることでした。これも、花田さんがいつも言ってることなのですが、物語の中で主人公が何を得たかということが、とても大事なんですよ。このお話で、久美子はコンクールには負けたのですが、その結果、奏という、とても大事で強力な武器を手にしたんです。

──私も、脚本を最初に読んだ時、ラストシーンの久美子が、最強の装備を手に入れてラスボスとの闘いに挑もうとする主人公のようだなと思いました。

石原 そんな風に思っていただけたのは、本当に嬉しいですね。

──では、エンディングの後、奏が久美子を「部長」と呼んで終わるのは、武器を手にしただけで無く、最強の地位にランクアップしたことも示すためですか?

石原 ええ。最後は、主人公が勇者になったところを皆さんにお見せして、この物語は終わるんです(笑)。
(丸本大輔)

≪作品紹介≫
『劇場版 響け!ユーフォニアム〜誓いのフィナーレ〜』
2019年4月19日(金)から公開中

【スタッフ】
原作:武田綾乃
宝島社文庫『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章』
監督:石原立也
脚本:花田十輝
キャラクターデザイン:池田晶子
美術監督:篠原睦雄
色彩設計:武田明代
楽器設定:高橋博行 ※「高」は「はしごだか」
撮影監督:高尾一也 ※「高」は「はしごだか」
音響監督:鶴岡陽太
音楽:松田彬人
音楽制作:ランティス、ハートカンパニー
音楽制作協力:洗足学園音楽大学
演奏協力:フレッシュマン・ウインド・オーケストラ
音楽監修:大和田雅洋
アニメーション制作:京都アニメーション
製作:『響け!』製作委員会
配給:松竹

【キャスト】
黄前久美子黒沢ともよ
加藤葉月朝井彩加
川島緑輝豊田萌絵
高坂麗奈安済知佳
塚本秀一石谷春貴
中川夏紀:藤村鼓乃美
吉川優子山岡ゆり
後藤卓也:津田健次郎
長瀬梨子:小堀 幸
久石奏:雨宮 天
鈴木美玲:七瀬彩夏
鈴木さつき久野美咲
月永求:土屋神葉
田中あすか寿美菜子
滝昇:櫻井孝宏

(C)武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

第1弾キービジュアルに描かれたのは、主人公の久美子と、同じ低音パートに加わった新1年生の4人。明るく人懐こい鈴木さつき以外の3人は、ひと癖ある新人ばかりで、指導係の久美子は頭を悩ますことになった