倉本聰・脚本『やすらぎの刻~道』テレビ朝日系・月~金11時30分~)。

相変わらずストーリーはゆっくりと、なかなか進まない。

倉本聰はよく「映画に必要なのは“ドラマチック”の“ドラマ”だけど、テレビにはむしろ“チック”の方が重要」と語っている。「チック」=「雑談や余談など、細かなニュアンスを面白く書く」ということ。

本作では今のところ、その「チック」が延々と続いている感じだ。

ツイテナイ男の原風景
「お嬢」こと白川冴子(浅丘ルリ子)と水谷マヤ(加賀まりこ)主催で、「マロ」こと真野六郎(ミッキー・カーチス)の誕生パーティーが開催された。

サプライズ・プレゼントとして用意されたのは、セクシー美女が箱から飛び出してくるというザ・下世話なもの。セクシー美女に抱きつかれたマロは、刺激が強すぎてぶっ倒れてしまう。

そんな「誕生日」に苦い思い出があるのが、元・歌舞伎俳優のロクさんこと水沼六郎(橋爪功)。

一時は、誕生日にトラックでプレゼントが届くほどの人気を誇っていたが、妻の「お誕生日」を忘れていたことから事態がこじれにこじれ、遂には歌舞伎界から追放され、家族も財産も失った。

誕生日を誰も祝ってくれなくなり、花どころか葉っぱすら届かなくなる。それでもご近所への見栄のために自分自身でプレゼントを買って、自分あてに送っていたのだとか。

「ツイテナイ」

そんな言葉が口癖となったロクさんは、さらにツイテナイことに、「やすらぎの郷」に来てから前立腺肥大による頻尿に悩まされており、一日の大半を彼の原風景~山間の田舎道の写真が飾られたトイレの中で過ごしているのだ。

「やすらぎの郷」では、さらに下世話な事件が。

かつて、菊村栄(石坂浩二)が脚本を書き、お嬢とマヤ主演予定で進められていたドラマ『機の音』。しかし局の意向で、西条さゆり(永池南津子)主演の『李香蘭物語』に差し替えられてしまった。

そんな因縁ある西条ゆかりが、W不倫疑惑で釈明会見を開いていたのだ。

「一線は越えていません」

「うっそだぁ~!」

「体調が悪くなって、ベッドに少し横にならせてもらって……」

「もんでもらった? どこを~? 腰のどこら辺を~!?」

「押したのか、なでたのか、いじくったのか!? ウフフフフ……」

テレビに向かって、積年の恨みを晴らすかのごとくメチャクチャ嬉しそうにツッコミを入れるお嬢とマヤの恐ろしさよ……。

そんな姿を見て菊村は「お嬢にしたってマヤにしたって倫理に反することはコソコソやってきたのだ。西条さゆりはついていなかっただけだ」と思うのだった。

「何見せられてるんだ?」と思ったら完全に伏線だった
こんなとりとめもない日常のエピソードを延々と見せられて、「このドラマ、どこに向かってるんだ!?」と不安になるが、「ツイテナイ人」「自分から自分への誕生日プレゼント」「原風景」……こんなバラバラキーワードから、菊村の頭にひとつのアイデアが浮かんでくる。

ロクさんの部屋のトイレに飾られている「原風景」の写真を頭に浮かべ、

「あの山間の道が、戦前・戦中・戦後を通して次第に変わってくる有様。その中で翻弄されるツイテナイ男の物語を書こう」と思いつく。

「これはスポンサーや代理店の絡んだ、局に頼まれて書くシナリオじゃない。オレが自分の生きがいのために、何のあてもなく書くシナリオだ」
「締切もギャラもなく、未来のオレの誕生日に向かって自分のために贈るバースデープレゼントだ!」

何てことのない日常の断片が、ある時カチッとハマってシナリオの構想が動き出す。「チック」を積み重ねて「ドラマ」が展開したのだ。

「一体、何を見せられてるんだ……?」と不安になっていた視聴者たちは、計算された伏線&構成の上で踊らされていた形だ。

それとともに、倉本聰のシナリオ制作現場を見せられている気にもなってくる。自身も日常生活の中から、こんな風に物語のタネを拾い集めてシナリオを制作書いているのだろうか?

35歳に恋する12歳!?
さて、いよいよはじまった菊村の脳内ドラマ『道』。

昭和11年を舞台に、とにかく「ツイテナイ」根来公平(風間俊介)と、おっちょこちょいな娘・浅井しの(清野菜名)が出会い、公平は恋心を抱いていく。

こちらもまだ、ほとんどドラマが動いていない状態だが、どうしても注目してしまうのが、35歳の風間俊介が演じる13歳の根来公平。

江~姫たちの戦国~』で当時25歳の上野樹里が7歳の江を演じたり、『八代将軍吉宗』で子役(当時17歳)が疱瘡にかかって顔中包帯になり、完治して包帯を取ったらいきなり中身が西田敏行(当時48歳)に変わっていたり……。長編ドラマで「心の目で見ろ!」的なムリヤリ年齢設定はよくあることだが、風間俊介がスゴイのは、あまり無理なく13歳に見えること。

風間俊介の出世作『3年B組金八先生』第5シリーズでの役が15歳だったが、あれから20年経ち、13歳を演じても違和感ないとは……。

公平に恋心を抱いている近所の娘・荒木りん(豊嶋花)との年齢差もヤバイ

この子、どこかで見た顔だと思ったら、「帯ドラマ劇場」の2作目『トットちゃん!』で、トットちゃんの幼少期を演じていた子だ! 現在12歳。

12歳の子と並んで、違和感のない35歳、なかなかいないよ!

今のところ、老人たちの日常が描かれる『やすらぎの刻』パートと、菊村の脳内ドラマ『道』パートはキッチリと別れているが、今後、両パートがどう絡んでくるのかも気になるところ。

『やすらぎの刻』での出来事に影響され、『道』のストーリー展開が変わってくるなんてこともあるのだろうか?

ダラダラと続く老人たちの日常ドラマに、ものすごく壮大な劇中劇が挿入されるという斬新過ぎる構成の本作。まだまだ全貌は見えてこない。
(イラストと文/北村ヂン

【配信サイト】
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『やすらぎの刻~道』テレビ朝日
作: 倉本聰
演出:藤田明二、阿部雄一、池添博、唐木希浩
主題歌: 中島みゆき「進化樹」「離郷の歌」「慕情」
音楽:島健
チーフプロデューサー:五十嵐文郎(テレビ朝日
プロデューサー:中込卓也(テレビ朝日)、服部宣之(テレビ朝日)、山形亮介(角川大映スタジオ)
制作協力:角川大映スタジオ
制作著作:テレビ朝日

イラストと文/北村ヂン