先日、亡父の1周忌で帰省した折に、母と「お金」の話をしました。具体的には、いまもらっている年金の額と生活費のことです。わたしの家は昔から放任主義というか、親子互いに「好きなことを好きなようにやればいい」という考え方です。お金の話なんかしたことがありません。父が亡くなって1年、ようやくそんな時期がきたということなのでしょう。

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月15万円の年金だけで老後生活が送れるか

 もらっている年金は月額にして15万円ほどとのことでした。それを聞いて思い出したのは、あの金額です。公益財団法人生命保険文化センターが公表している「生活保障に関する意識調査」(https://www.jili.or.jp/research/report/chousa10th.html)。同調査によると、夫婦2人で老後生活を送るうえで必要と考える日常生活費(最低限必要な生活費)は月額平均22万円。、ゆとりある生活のためには同12.8万円を上乗せしたいとしています。月にして約35万円になります。

「多少の蓄えがあるとしても“最低”といわれる金額より7万円も少なくて暮らしていけるのか?」。そう思って母に聞いたところ「贅沢はできないけど何とか」ということでした。ちなみに、母の年齢は70代前半、地方都市で持ち家に一人暮らし。わたしを含む男兄弟2人の子どもは東京在住です。趣味のダンスを長年続けており、友人は少なくない方だと思います。

 母いわく「家はあるし借金はない。お金がかかるのは純粋に自分の生活だけ。お父さんがいたころは年2回くらい一緒に海外を含めた旅行に行けたけど、それが難しくなったくらい。ダンスは続けられるし何とかやれそう」。まとめるとこんな感じでした。

「最低限必要な生活費22万円」は本当か?

 いわれてみれば、母はそうお金のかかる暮らしはしていません。とくに我慢していることもなさそうに見えます。旅行のことは、わたしたち子どもが何とかしてやることができます。彼女が本当に満足するかどうかはさておき、確かに「贅沢はできないけれど最低限並み、もしくはそれより多少は楽しく」暮らすことはできそうです。

 そう考えると、先の「最低限必要な生活費22万円」「ゆとりある暮らしなら35万円」という金額をどうとらえればよいのでしょうか。

 最初に考えたのは「生命保険文化センターの金額はあくまで意識調査であって、実態とかけ離れているのではないか」ということ。そこで、実態に近そうな別の調査を調べてみました。見つかったのは総務省統計局がまとめた「家計調査年報(家計収支編)平成29年(2017年)」(https://www.stat.go.jp/data/kakei/2017np/gaikyo/)です。

 それによると、高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯)の平均実収入は20万9198円(うち公的年金などの社会保障給付19万1880円)、消費支出は23万5477円となっています。消費支出は前述の22万円(生命保険文化センターによる最低限必要な生活費)と近く、そうかけ離れた調査結果とはいえなさそうです。

平均の数字や他人との比較だけでは答えは出ない

 では、支出の内訳はどうなのでしょうか。「家計調査年報」では多い順に、食料(6万4444円)、その他の消費支出(5万4028円)、交通・通信(2万7576円)、教養娯楽(2万5077円)、光熱・水道(1万9267円)と続いています。さらに、税金や社会保険料などの非消費支出(2万8240円)が加算されることになります。

 その他の消費支出(5万4028円)には交際費(2万7388円)が含まれており、食料関連と遊興・交際費用関連で10万円以上。消費支出の4割を超えます。収支改善を考えるなら、このあたりがターゲットになりそうです。これは老後生活のみならず、われわれ現役世代でも同じことが言えるのではないでしょうか。

 もし仮に食費と遊興・交際費で支出をコントロールするなら、住んでいる地域(都市部か郊外か)や趣味・趣向といったライフスタイルによって、大きく変わってくる可能性があります。

 前述の2つの調査では、ほとんどが持ち家という前提です。持ち家なのか賃貸なのかで住居費の割合は大きく変わるでしょう。ほかにも、自分の年齢と子どもの年齢はどうか、その子どもが同居しているのか、どのくらい収入があるのか。孫・子への経済的サポートをどう考えているのか、友人・趣味は多いのか、グルメや旅行への興味がどのくらいあるのか、などなど――。

「最低限必要な生活費」や「ゆとりある生活費」の金額は、これらの要素によってかなり変わるはずです。そう考えると、生活費に関するさまざまな調査データは参考になるとはいえ、そこから自分の趣味・趣向に合わせて調整することが不可欠です。お金や趣味・趣向の評価に相対的な視点は大事ですが、平均や他人との比較だけで答えを出すのは無理があります。

「老後資金1億円」では他人事だが

 もちろん現役世代のいまから、老後のライフスタイルや将来必要になる生活費を正しく導き出すのは難しいかもしれません。しかし、ある程度の予想のうえで、見聞きした金額よりも多いのか少ないのか、少ないならどの程度少ないのかという大枠での把握は意味があります。

 たとえば「家計調査年報」では、平均実収入が20万9198円で、支出(消費支出+非消費支出)が26万3717円なので、毎月の赤字が5万4519円という計算になります。この家計収支が自分のライフスタイルに合っていると仮定すると、毎月の赤字にどう対処していくかが老後資金のための資産運用の具体的な目標になります。

 収入も支出もライフスタイルも、ざっくりまとめて「ゆとりある老後生活のために1億円」などといわれると他人事のような気がしますが、細かく詰めて「月々5万円強を何とかする準備を」と考えると、少しは気が楽になってリアリティが高まりませんか? 少なくともわたしはそう感じます。

定年以降も稼いだり増やしたり

 老後資金は使って減っていくお金なので定年までに全額貯めておかなければならないと考えがちですが、それはちょっと早計です。65歳で定年を迎えたとしても、そこから20年以上暮らしていくことが前提になります。それだけの時間があれば、お金を使いながら稼いだり増やしたりすることができるのです。

 できるだけ長く働くことは老後資金の準備の基本中の基本です。定年後に自分のキャリアや特技を活かした仕事に就くことは、ぜひとも考えましょう。月数万円で十分と思うと、働き口の条件は広がるのではないでしょうか。さらに月数万円分の収益でよいのなら、ある程度まとまった金額を元本割れリスクが低い商品で運用を続けることも効率的です。

 お金はわたしたちが何をしていようが、わたしたちの時間を拘束しません。わたしたちが働いたり楽しんでいたりする間にも、お金が別に働いてくれることになります。老後資金の準備をストックとフローの両面で考えると資産運用のゴールが身近に感じられ、余計な不安が取り除かれるかもしれません。

 わたしが「月15万円でも何とか大丈夫といってはいるけど、年1回ぐらいは旅行に行かせたいよなぁ・・・」などと思っていたら、母がひとこと「余計な心配はしないでいい。それよりあなたたちは自分の心配をしなさい」。わたしたち兄弟は2人とも独身。それこそ余計な心配だと思いましたが、いくつになっても子どもは子ども。神妙に話を聞いたふりをして、東京へ戻ってきました。

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