「これは楽しみな勝負だわ」そんな風に私が頷いていたのは日曜日、コリセウム・アルフォンソ・ペレス近くのバル(スペイン喫茶店兼バー)で遅い昼食をとりながら、時間の余裕がなくて行けなかったサンティアゴ・ベルナベウでのレアル・マドリー戦を見終えた時のことでした。いやあ、ミッドウィーク節のあるこの木曜、午後9時30分(日本時間翌午前4時30分)からの兄弟分ダービーで激突する両者はこの日、どちらも3-0で勝利。それぞれ、ケチをつけようと思えばいくらでもつけられますが、先週末の33節10試合中、唯一、完勝と言えるスコアを残した2チームの対戦となれば絶対、見応えのある展開が期待できるはずだったから。

まあ話は順々にしていくことにして、マドリッド勢の先鋒を務めたのはエイバル(スペイン北部)を訪れたアトレティコ。戦前から、グリーズマンが累積警告で出られないため、得点面での懸念はあったんですが、いやホントに前半はコレアがGKドミトロビッチとの1対1を失敗するわ、モラタもシュート直前にカットされてしまうわと、せっかくのチャンスをモノにできず。後半になると得意の「3回のパスも続かない」状態まで発現していたため、0-0のまま、25分にエスタディオ・バジェカスへ行こうとお店を出た時にはほぼ勝利を諦めていたんですが、いえいえ、彼らを侮ってはいけません。

メトロポルタスゴ駅に着いてスマホを見てみたところ、何と0-1で勝っていたから、ビックリしたの何のって。ええ、この日は交代策が功を奏し、39分にはモラタの落としたボールをシメオネ監督がアリアスを引っ込め、トマスを右SBに回して入れたFWカリニッチが繋ぎ、エリア内に走り込んだコケがラストパス。反対サイドに詰めた、こちらもコレアに代わって出場していたレマルがゴール前から今季リーガ2点目を決め、虎の子の1点を奪っているのですから、もしやクラブ史上最多となる移籍金7000万ユーロ(約88億円)の投資がようやく報われた?

いえ、イプルアでは12試合戦って1勝もしていないエイバルですし、メンディリバル監督の「Nos gana bien siempre. Hoy ha sido 0-1, pero jugando bien/ノス・ガナ・ビエン・シエンプレ。オイ・ア・シードー・セロ・ウノ、ペロ・フガンドー・ビエン(いつもウチに勝つ。今日は0-1だったが、いいプレーをしていた)」というのはほぼ、目標である残留を達成しているチームならではの余裕から出たお世辞だと思いますけどね。ただ終盤の決勝点で気分の上がってしまったのは私もアトレティコの選手たちも同じだったよう。

Nosotros jugamos hasta el ultimo suspiro por ganar la Liga/ノソトロス・フガモス・アスタ・エル・ウルティモ・ススピロ・ポル・ガナールラ・リーガ(ウチはリーガ優勝するため、最後の一呼吸までプレーする)」というシメオネ監督を始め、コケなど「チャンスがある限り、ボクらは戦うよ。El futbol es muy bonito y a veces ocurren milagros/エル・フトボル・エス・ムイ・ボニートー・イ・ア・ベセス・オクレン・ミラグロス(サッカーはとても美しくて、時に奇跡だって起きる)」と急に元気になっていましたが、あれ、そんな状況でしたっけ?その時は弟分ラージョのウエスカとの最下位決戦が始まったため、私もあまり深くは考えていなかったんですが…。

いやあ、どちらのチームも勝たない限り、残留の可能性がほとんどなくなる大事な試合だったせいでしょうか。膠着状態が続いた後、ホームチームは後半8分、ポソのパスからラウール・デ・トマスのゴールが決まり、スタンド中が歓喜に沸いたんですが、お祝いのアナウンスが流れた後、VAR(ビデオ審判)によりオフサイドで取り消されてしまってはたまりません。残り10分近くになると、両者共、捨て身の攻撃を試みたものの、結局、スコアは0-0のまま動かず。ラージョも残り5試合で17位との勝ち点差6を詰めるという非常に苦しい事態になってしまいましたが、何と災難はそれだけじゃないんですよ。

というのもこのウエスカ戦でチームのエース、ラウール・デ・トマスが累積警告となる5枚目のイエローカードをもらい、木曜のセビージャ戦で出場停止になってしまったから。おまけに彼はマドリーからレンタル移籍の身分のため、日曜に兄貴分をバジェカスに迎える試合にも契約条項で出られないとなれば、どうしていいものやら。パコ・ヘメス監督は「Vamos a gestionar con el Real Madrid/バモス・ア・ヘスティオナール・コン・エル・レアル・マドリッド(レアル・マドリーと調整してみる)」と言っていましたが、実際、違約金を払って出場させるのだって、あまり前例があることじゃありませんからね。

もうこうなったら、来週以降の3試合を全勝して、あとは運を天に任せるしかない気がしますが、さて。そうそう、この日はスタンドからいつも聞こえる「No te abandoné, En segunda B, Allá donde estés, Yo te seguiré/ノー・テ・アバンドネー、エン・セグンダ・ベー、アジャー・ドンデ・エステス、ジョー・テ・セギレ(2部Bにいてもボクは君たちを見捨てたりはしなかった。どこにいてもサポートし続けるよ)」という応援歌がなかったのって、やっぱりラージョファンが空気を読んだからだったんでしょうか。

そしてガッカリして家に戻った私を待ち受けていたのは氷のように冷たい現実で、土曜最後の試合で戦ったバルサレアル・ソシエダに2-1で勝利。ええ、2位との勝ち点差9のままだったため、この火曜のアラベス戦、土曜のレバンテ戦に彼らが勝てば、アトレティコが連勝してもリバプールとのCL準決勝が始まる前にリーガ優勝が確定するんですよ。それどころか、彼らが火曜に勝って、アトレティコが水曜午後7時30分(日本時間翌午前2時30分)から、ワンダメトロポリターノにバレンシアを迎える一戦に負ければ、週末を待たずして王者が決まることに。

うーん、出場停止でエイバル遠征には行かず、ニューヨークまでNBAプレーオフのネッツvsセブンティシクサーズ戦を見に弾丸ツアーを敢行していたグリーズマンは日曜午前中にはちゃんと戻り、練習していたんですけどね。実は土曜の試合ではフル出場したものの、前半にヒメネスが右足の第2肢を骨折。丁度、ケガから復活してきたサビッチと入れ替わりで休場とCBコンビの綱渡り状態も変わらず、日曜にはベティスを破り、再びヘタフェに勝ち点差2と追い上げてきたバレンシアを倒して、弟分への援護射撃をしてあげられるかどうかも不安なんですが、こればっかりはねえ。

もうヘタフェには自力で何とか、マドリーに勝ってもらうしかありませんが、先走りせず、日曜のセビージャ戦がどうだったか、お話しすると。折しも前日もコリセウムを訪ね、ボルダラス監督の記者会見を聞いた後、帰り際に丁度、駐車場から出てきた柴崎岳選手がファンにサインをしてあげているところにバッタリ出くわした私でしたが、その日スタジアムで待っていたのは彼が先発に抜擢されたという朗報。今季はなかなか出場機会に恵まれず、127日ぶりにヘタフェのユニを着てピッチを踏んだことになりますが、最初は右サイド、途中からはトップ下に回ってプレーした柴崎選手の見せ場が回ってきたのは後半になってからのことでしたっけ。

そう、前半は勢いに乗るセビージャに押されていた感じもしたヘタフェだったんですが、35分には一旦はスルーされたプレーにVAR判定が入り、CKの時に"ムード"・バスケスの手にボールが当たっていたことが発覚したんですよ!これでもらったPKをマタが決めると、ヘタフェはロスタイムにも同様の幸運を手に入れて、今度はエスクデーロのハンドでPKをゲット。マタに代わってキッカーを担当したホルヘ・モリーナが2点目を挙げただけでなく、エスクデーロが2枚目のイエローカードで退場って、いやあ、前節のバジャドリー戦終了間際の同点PKゴールといい、最近の彼らはVARに好かれている?

後半に入ってもヘタフェは2点のリードにおごらず、8分には柴崎選手が右サイド奥に出したパスをマタが受け、ゴール前に詰めたホルヘ・モリーナへ。月曜には37才のバースデーを迎えるベテランはケアが邪魔するのも何のその、ボールをネットに押し込むともう、場内はお祭り騒ぎ。柴崎選手が16分でポルティージョと代わり、29分にはジェネがヘスス・ナバスへのスパイクを立てたタックル、これもVARで見咎められてしまったため、レッドカードを受けた時は少々、水を差されましたけど、大丈夫ですよ。ファンがola/オラ(ウェーブ)を何度も繰り返す中、敵に一矢も報わせなかった彼らはそのまま3-0で勝利。前節、奪われた4位の座を直接対決で取り戻し、クラブ史上かつてないCL出場への意気込みを示してくれたから、嬉しかったの何のって。

この勝利のおかげで、前日の記者会見では来季はセビージャを率いることになっているというAS(スポーツ紙)の報道を「Es rotundamente falsa/エス・ロトゥンダメンテファルサ(断固として否定する)」と言っていたボルダラス監督を信じることができましたしね。ちなみにその日、久々のプレーで勝利に貢献した柴崎選手のことは「Gaku entrena bien siempre/ガク・エントレナ・ビエン・シエンプレ(ガクはいつもいい練習をする)。プレー時間不足が影響することはないと確信していたよ。ピッチでは素晴らしかったからね」と褒めてくれていましたが、残り5試合、また出番をもらって、チームが歴史的偉業を達成するのに力を貸せるといいですよね。

そして続いてマドリーの試合が始まったんですが、どうやら私が見られなかった前半は大したことは何もなかったよう。ところが後半は一転して、再開直後の2分にはアセンシオのクロスをベンゼマが頭で捉え、先制点が入ることに。おまけに最近、1人でマドリーのゴールを挙げ続けているFWは31分にも今度はモドリッチのCKをヘッドして2点目をゲット。いえ、ロスタイムの3点目は完全にエリアを飛び出してきたGKエレリンのミスで、途中出場したベイルがよこしたボールを空のゴールにvaselina(バセリーナ/ループシュート)するだけでしたけどね。ハットトリック達成でとうとう、チームのここ8得点を独占しているって、もう感心するしかない?

いやあ、わかりますよ、グリーズマンがCLユベントス戦2ndレグやバルサ戦でゴールを挙げてくれなかったのを嘆くアトレティコファンとしては、どうしてこれだけの決定力をベンゼマがCLアヤックス戦2ndレグやコパ・デル・レイ準決勝とリーガクラシコ祭りで発揮してくれなかったのかとマドリーサポーターが恨めしく思う気持ちは。とはいえ、クリスアーノロナウドが戻って来る訳でもなし、来季もベンゼマのゴールに頼っていくことになるジダン監督としては、彼の得点能力の発露は心強かったかと。おかげでベルナベウのスタンドからも交代してピッチに入った瞬間から標的にされたベイル以外、pito(ピト/ブーイング)を受けた選手はいませんでしたしね。セマナ・サンタ(イースター週間)のバケーション最後の日を3-0の勝利でファンが祝えたのは良かったのでは?

そんな調子で2位アトレティコとの差を勝ち点4に保ったマドリーでしたが、アスレティック戦でもバジェホやブライムといった、ほとんど出場機会のなかった選手にチャンスが与えられたように、ヘタフェ戦でもこの流れは続きそう。ええ、負傷していたGKクルトワ、マリアーノも月曜には全体練習に戻っていましたしね。ビニシウスもそろそろ復帰するかもしれませんが、セルヒオ・ラモスはまだリハビリ中。ヘタフェもダミアンとオリベイラは戻って来るものの、ジェネが入れ替わりで出場停止とあって、絶好調ベンゼマジダン監督の下で輝きを取り戻してきたアセンシオを止めるのには苦労するかもしれませんね。

え、それでベルナベウで15年間白星なしという黒歴史を更新しながら、「Esta derrota no nos desvía del camino europeo y vamos a ir a por ella/エスタ・デロータ・ノー・ノス・デスビア・デル・カミーノ・エウロペオ・イ・バモス・ア・イル・ア・ポル・エジャ(この敗戦でヨーロッパへの道が逸れることはない。ボクらはそれを取りに行くよ)」とムニアインが語っていたアスレティックと、火曜に対戦するレガネスはどうだったのかって?いやあ、前節はブタルケに兄貴分のマドリーを迎え、見事に1-1の引き分けを掴んだ彼らでしたが、どうやらそれでほぼ残留が決まってしまったのが裏目に出たよう。

日曜ビジャレアル戦ではスコアレスドローでも十分という気持ちが見え透いて、後半にバッカとエカンビにゴールを喰らい、終了間際にエル・ザールのPKで2-1にするのがやっととなれば、ペジェグリーノ監督が怒っていたのもムリはなかったかと。うーん、先週末でEL出場圏の6位とは勝ち点差11ついてしまいましたし、1部に昇格してからの2年間、17位とギリギリのところで残留を果たしていたため、12位という位置にいるだけでもう彼らのシーズンは大成功なんですけどね。おかげでビジャレアルは残留争いから頭1つ抜けて、ラージョがますます苦しくなってしまったため、せめてこのミッドウィークはお隣りさんのよしみで、CL出場権を争っているヘタフェの後押しをしてほしいんですが…再び勝ち点6が動く今週、4位から下のotra liga/オトラ・リーガ(もう1つのリーガ)ではどんな波乱があるのでしょうか。


【マドリッド通信員】 原ゆみこ 南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。
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