音楽グループ「AAA」のリーダー・浦田直也さんが4月20日、都内のコンビニで面識のない女性を殴ったとして、暴行の疑いで逮捕された。釈放後の21日、都内で記者会見を開いた浦田さんは、当時泥酔しており「どうしてこんな事態になっているんだろうっていう状態でした」と謝罪した。

サンケイスポーツ4月22日)の謝罪会見全文によると、浦田さんは泥酔した翌日朝、警察から事情を聞かれ、「正直、記憶にありません」「酔っていたので分かりません」と話したそうだ。

会見でも「本当に正直、何も覚えていないので、何があったのかは、何をしゃべったのか、何をしてしまったのかは、自分の記憶には残っていない状態です」と覚えていないと繰り返した。

「酔っていて覚えていない」という事情は、罪の重さに影響するのだろうか。德永博久弁護士に聞いた。

●責任能力があったのかがポイント

ーー「酔っていたので分かりません」と話していますが、犯罪は成立しますか。

今回の事案では、犯罪不成立(刑法第39条第1項)または刑の減軽(刑法第39条第2項)といった結論にはなりにくいのではないかと思います。以下、説明していきます。

ーー浦田さんは「記憶には残っていない」と話しています。

刑法上、責任能力の2つの要素である「自分の行為の良し悪しを理解する能力(事理弁識能力)」と「自分の意思に従って行動を律することができる能力(行動制御能力)」をそろえていない行為については、刑が軽くされたり、犯罪不成立とされたりすることがあります。

ーーその2つの能力がそろっていたかは、どのように判断するのですか。

通常の飲酒量や、その人が酩酊状態に陥る限度量と犯行当日の飲酒量を比較することなどで判断されます。

今回の場合、「犯行当時は2つの能力を有していたが、単に覚えていない(=忘れただけ)」ということなら、問題なく犯罪は成立します。しかし、「酔っていて自分の行為を理解していなかった」場合は、その程度に応じて犯罪不成立(刑法39条1項)または刑の減軽(刑法39条2項)となります。

実際、この条文を根拠として、鬱状態に飲酒による酩酊が加わった状態で行われた傷害行為が無罪とされた裁判例などもあります。

●飲酒による「粗暴癖」を認識していたか

ーー酒を飲んで泥酔して事件を起こしたら、無罪になるのですか。

この基準だけで判断すると、飲酒により物事の判断がつかなくなる人について、「酒を飲めば飲むほど刑が軽くなり、さらには犯罪が成立しなくなる」といった不都合な結果が生じます。

そのため、自分が引き起こした責任無能力状態に乗じて犯罪に及ぶような行為を「原因において自由な行為」といいますが、過去の裁判例や学説では、こうした場合でも行為の責任を認めるという理論により、不都合の回避を図る場合があります。

ーーどのような理論なのか、詳しく教えてください。

犯行当時に判断能力等を欠いていたとしても、自分が大量に飲酒した場合、他人に危害を加えるおそれがあると認識していれば、刑事責任を負わせることができるという理論です。

飲酒による粗暴癖がある人だけでなく、薬物による幻覚妄想状態(粗暴癖)がある人などの裁判例でも採用されており、無罪または刑の減軽となる裁判例よりも圧倒的に多数となっています。

●浦田さんの場合は?

ーーでは、浦田さんの場合はどうなるのでしょうか。会見で、お酒を飲んで暴れたりしたことはなかったものの、「記憶をなくしたことはいっぱいあった」と話しています。

まず、浦田さんの場合には、日頃の飲酒時において粗暴癖がなかったことから、自分が飲酒すると暴力を振るってしまうという習性を悪用する目的でことさらに泥酔状態を作りだそうとする意図はなく、「原因において自由な行為」理論の適用は難しいと思われます。

そのため、実際に暴行行為を行った時点において、先述の「事理弁識能力」と「行動制御能力」が備わっていたのか否かという点が犯罪の成否を決めることになります。

その際、実際に犯罪が成立するかしないかを判断する場合には、浦田さんの通常の飲酒量や過去に酩酊状態に陥った際のお酒の限度量を、犯行当日の飲酒量と比較した上で検討する必要があります。

ーー浦田さんの場合は、どのように判断されますか。

現時点までに判明している事実関係のみを前提として検討します。

過去に飲酒して記憶をなくした際に特段不可解な行動をとったことがないのであれば、今回も記憶には残っていないものの、物事の正常な判断自体は行うことが出来ていた可能性が高くなります。

そうなると、「自分の行為を理解していなかった」のではなく「単に覚えていなかった」ものとして、事理弁識能力と行動制御能力のいずれもそろっていたと評価される可能性が高くなると思われます。

●ポイントは「防犯カメラの映像」

ーー日刊スポーツ4月20日)によると、コンビニ店内の防犯カメラに暴行の様子が撮影されていたそうです。

その映像中に、浦田さんがコンビニに来店して女性に声をかけたり、買物をしようとしていたりといった行動が正常な範囲で行われていたのであれば、少なくとも「自分の行為を理解していなかった」という程度までの酩酊状態にはなかったものと評価されます。

(弁護士ドットコムニュース)

【取材協力弁護士】
德永 博久(とくなが・ひろひさ)弁護士
第一東京弁護士会所属 東京大学法学部卒業後、金融機関、東京地検検事等を経て弁護士登録し、現事務所のパートナー弁護士に至る。職業能力開発総合大学講師(知的財産権法、労働法)、公益財団法人日本防犯安全振興財団監事を現任。訴訟や企業の不正調査などを中心に、幅広く相談・依頼を受けている。
事務所名:小笠原六川国際総合法律事務所
事務所URL:http://www.ogaso.com/

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