東京・池袋で死者2人・負傷者8人を出した自動車暴走事故について、インターネット上では運転手の飯塚幸三氏(87)を「上級国民」と呼んで怒りをぶつける風潮が収束しない。

2019年4月19日の事故直後から「上級国民だから逮捕されない」という根拠不明の憶測が流れており、その後ツイッターでは「#上級国民」とハッシュタグでの投稿が相次ぐなどしている。過熱する「上級国民」バッシングについてITジャーナリストは「条件的にそろってしまった」と指摘する。

「それでも『上級国民』ネタが鎮火しないのはなぜか?」

通商産業省(現在の経済産業省)工業技術院院長で各種団体・企業の重役を歴任した飯塚氏。事故後には負傷で入院し、警視庁は回復を待って自動運転処罰法違反(過失致死傷)容疑で任意の事情聴取を行うことになったため、現行犯逮捕されなかった。報道では「容疑者」ではなく「さん」「元院長」などの呼称が使われた。こうした事実が疑問を招き、一般国民よりも優遇された「上級国民」なのではないか、との憶測が広がるにつれ、

「あんだけの事件起こして置いて上級国民やから逮捕されないだと?」
「容疑者って名前に付けろよ いつまで元上級国民官僚だからって『さん』付けしてるの?」
上級国民だからって忖度されまくりですか」

などと怒りの声が噴出した。

逮捕や報道の扱いについての考察はJ-CASTニュースが22日「池袋暴走『逮捕されない』本当の理由とは 弁護士が指摘する『あえてしない』可能性」の見出しで報じた通りだが、ツイッターでは「それでも『上級国民』ネタが鎮火しないのはなぜか?」「そんなこと分かった上で不公平を感じる人が多いから『上級国民』と言う言葉が出てくるのでは?」といった声が相次いだ。

参考までにGoogleでのキーワード検索頻度が分かる「Googleトレンド」で「上級国民」を調べると、検索頻度は19日21時から急増している。その後アップダウンを繰り返しながら4日後の23日夕現在まで検索され続けており、最も高い数値となったのは事故3日後の22日18時。勢いはなかなか衰えない。

エリート、世代の違い、悲しい現実...攻撃の条件がそろった

ネットカルチャーに詳しいITジャーナリスト・井上トシユキ氏は23日、J-CASTニュースの取材に、「上級国民」への怒りが噴出する理由について次のように見解を示す。

「『権力者』に対して嫌味や皮肉を言うことで、溜飲を下げたいのだと思います。鬱屈した気持ちがあって、嫌味のひとつも言っておきたいのではないでしょうか。本気で言っているというより、ネットの流れに乗って憂さ晴らしに利用しているような形です。

いくら憲法上、平等が保障されていると言っても、現実はそうでもないことが多くて、ネットで言う『上級国民』には『何か楽に暮らしているな』という負の印象が持たれやすいです。飯塚氏をめぐっては『元高級官僚』『重役を歴任』といった肩書がクローズアップされています。人物像について限られた情報しかないため、それだけを材料にして皮肉を言っている状態です。もっと情報が出てくると議論の内容も変わってくるかもしれませんが、今の少ない情報では嫌味を言いやすいのでしょう」

ネットスラングとしての「上級国民」は、2015年東京五輪エンブレム盗作疑惑問題を機に広く使われるようになったとされる。五輪組織委員会は当時、疑惑が浮上した佐野研二郎デザインのエンブレムを取り下げる決定をしたが、会見で組織委側は「佐野さんの説明は専門家には分かり合えるが、一般国民には残念ながら分かりにくい」などと発言。世間から「上から目線だ」と批判を浴び、「一般国民」との対比で、主にエリート中のエリートを揶揄する「上級国民」の語が広がった。

井上氏は「あの騒動で、グループとしての『上級国民』が生まれ、『上級国民』同士で仕事や利権を回しているという印象が残りました」とした上で、飯塚氏についてこう分析する。

「池袋の事故は久々にネットユーザーが『上級国民』と呼べるネタだったことに加え、飯塚氏が80代という高齢であるため世代間格差問題もあわさって怒りが増幅したと見られます。さらに若い母子の命が失われるという悲しみに包まれました。エリート、世代の違い、悲しい現実――ネットで言う『一般国民』の複雑な感情のやり場として、『上級国民』というのはピッタリの攻撃対象であり、格好の『ネタ』だったんです。条件的にそろってしまったんですね」

「上級国民」バッシングは続くのか?

事故発生から4日。今後も「上級国民」バッシングは続くのか。井上氏は次のように見通しを語った。

「罪に問われることが決まるとか、ご本人が誠意をもって謝罪するとか、家財道具一切を売り払って遺族に慰謝料を払うといった、これまでの印象を覆すようなことになれば収束に向かうでしょう。しかし、たとえば高齢や心神耗弱などを理由に罪に問われないとなったら炎上は止まりません。捜査機関の次の動きが分かれ目になりますね」

ネットでの情報発信におけるリスクマネジメントなどを手がけるコンサルティング会社「MiTERU(ミテル)」の代表取締役おおつねまさふみ氏は23日、取材に「ネットユーザーからすると身柄拘束や逮捕は『事件や事故をやらかした人物への制裁』と捉えられてしまっている側面があります」と指摘。事故から4日経ってもバッシングが続いている理由について、「被疑者に対する『制裁』が行われてない状態に見えてしまうと、ネットユーザーからすると憤りの拳を振り下ろす先が無い状態になってしまいます」と見解を示した。

J-CASTニュース編集部 青木正典)

東京・池袋の事故現場には現在、人々が花束などを供え、被害者を悼んでいる(2019年4月23日撮影)