(中嶋よしふみ:FP・シェアーズカフェ・オンライン編集長)

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 コンビニエンスストア最大手のセブンイレブンが揺れている。

 2019年2月、大阪にあるセブンイレブンのフランチャイズ店が24時間営業を一時停止したことが発端だ。人手不足オーナーの体調不良など様々な要因により、24時間営業が困難になったという。24時間営業が原則のコンビニで、しかも本部の意向に反した状況であるとして大きく報じられた。

(参考:セブンオーナー「過労死寸前」で時短営業…「契約解除」「1700万支払い」迫られる [弁護士ドットコム 2019/02/19])

 このお店が営業時間短縮に至るまでの経緯とその後の動きも含めて、セブンイレブンの対応は後手後手に回り、世論は一気に「反セブンイレブン」に傾いている。

コンビニ各社の株価が10%以上下落

セブンイレブンは過去に24時間営業は見直しの議論すらしていない」と社長自らインタビューで公言していた。それにも関わらず、今回の騒動を受けて実験を開始、そして4月4日には社長が実質的に引責の形で退任に至った(現在は代表権の無い会長)。報道とその反応を見ていると、もはやセブンイレブンの味方はいるのかと感じてしまうほどだ。

 セブンイレブンを傘下に収めるセブン&アイ・ホールディングスの株価は、今年最高値の5133円(1月7日)から、2月19日にトラブルが報じられて以降は急落し、執筆時点で最安値は3828円(4月12日)と2割も下落した。失われた時価総額は1兆円を超える。

 なぜセブンイレブンはここまで批判されるのか? なぜセブンイレブンはここまで嫌われるのか?

 それを考える前に指摘しておかなければならないのは、今回の「セブンイレブン騒動」はコンビニ業界のビジネスそのものが問われる事態まで発展しているということだ。

 たとえば株価の下落にしても、セブンイレブンのみならず、業界2位のファミリーマートユニーファミリーマートホールディングス)、3位のローソン、4位のミニストップまで及んでおり、年初から日経平均株価が10%上昇する一方でコンビニ各社の株価はいずれも10%以上も下落している。当然各社の業績も影響しているが、特定の業種が「平均点」を20ポイントも下回ることは、業界全体に異常事態が起きていることを示している。

 セブンイレブンのトラブルを受けて、ローソンは無人営業の実験開始とセルフレジの全店導入を公表した。2017年から時短営業に取り組んでいるファミリーマートは、電機メーカーのパナソニックと共同で無人店舗の実験店を早くもオープンさせている。

 各社とも緊急の対応を迫られているが、本音では24時間営業を辞めたくない、かといって批判も受けたくない、仕方が無いから慌てて無人化の取り組みを加速させている・・・というのが実態だろう。

 今回のトラブルをきっかけに、24時間営業の是非を始め、多数のニュースが報じられている。しかしいずれも「各論」ばかりで、「総論」であるコンビニのビジネスモデルは全くと言っていいほど論じられていない。今回の騒動を理解するためにはビジネスモデルを理解する必要がある。なぜなら批判されている仕組みは、すべてコンビニビジネスの根幹をなすものだからだ。

「ファミマ王国」日暮里

 コンビニのビジネスモデルを最も象徴しているのは「24時間営業」だが、その他にも以下のような特徴がある。

オーナーが独立した経営者として店舗を運営する「フランチャイズ制度」

・特定の地域に集中して出店をする「ドミナント出店」

・独自の計算方法で本部の取り分を決める「コンビニ会計」

・実質的に禁止されていると言われる「見切り販売(消費期限切れ前の値引き販売)」と、それによって生まれる大量の食品廃棄

 いずれも問題のある仕組みとして批判されているが、これらの各論がどのように総論であるビジネスモデルとつながっているか全く理解されていない。

 というのも、個々の特徴を繋ぎ合わせるとコンビニのビジネスモデルになるのではなく、ビジネスモデルを実現するためにこれらの仕組みがあるのだ。この辺りはメディアも含めて多くの人が「原因と結果」を取り違えているポイントだ。

 まずは実態を見ながら考えてみたい。

 筆者は山手線日暮里駅近くに事務所を構えているが、日暮里は「ファミマ王国」だ。日暮里駅周辺のコンビニはそのほとんどがファミリーマートで、駅から徒歩10分の範囲内に10店のファミリーマートがある(駅ナカ2店を含む)。典型的なドミナント出店と言える。

 他のコンビニは山手線をはさんで駅の両側にセブンイレブンが1店ずつあるだけで、一番近いローソンは駅から徒歩10分歩いてやっと見つかる。

サークルK・サンクスが示すコンビニ戦争

 ファミマ日暮里駅周辺に集中した理由はドミナント出店に加えてもう一つ理由がある。駅から一番近いコンビニだったサークルKサンクスが、合併でファミリーマート衣替えしたのだ。

 サークルKサンクス自体、名前の通りサークルKサンクスの合併で出来ており、再度の合併でファミリーマートに吸収された。ローソンスリーエフと合弁企業を立ち上げ、業界4位のミニストップは何年も前からローソンとの合併が取り沙汰されている。他にも各地域のコンビニチェーンが大手に吸収された事例は多数ある。

 企業買収や合併が海外ほど一般的ではない日本で、これだけ活発に買収・合併が行われている業界も珍しい。そしてこの話と日暮里ファミマ王国であることはドミナント出店の、そしてコンビニビジネスのキモだ。

ドミナント出店は「弾幕」である

 コンビニのビジネスモデルは「規模の利益」の追求で、売り上げが多いほど儲かるという極めて単純な原則だ。他業種の分かりやすい事例として、自動車業界が合併や提携で規模の利益を追求している。売り上げ規模が大きいほど仕入れや生産、宣伝広告、研究開発が効率的に行える。

 コンビニも一部地域に集中的に出店するほど配送の効率が上がり、知名度も上がり、それによって利益が増えると言われている。

 しかしこういったウィキペディアに書いてあるような説明でドミナント出店を正当化できるほど利益は増えるのか? この説明は必ずしも間違ってはいないと思うが、今回の騒動をきっかけに「近所に同じチェーンを出店されて売り上げが何十万円も減った」「ライバルチェーンが撤退したと思ったら跡地に自分が経営するのと同じチェーンが出店した」といった恨み節がオーナーから多数噴出している。そして各コンビニ本部は当然のことながら既存店の売り上げ減少を承知の上で、あえてすぐ近くに出店している。

 ドミナント出店の目的は、自社の売り上げを増やすことに加えて、「他社の売り上げを減らすこと」、要するにライバルの邪魔だ。そして最終的には「ライバル店が潰れて撤退してくれれば最高」ということになる。このようにあえて過剰な出店によって「弾幕(だんまく)」を張っているのだ。

「無駄に意味がある」というコンビニのビジネスモデル

 弾幕とは「多数の弾丸を一斉に発射し、弾丸の幕を張ったようにすること(デジタル大辞泉)」で、タマをたくさん撃って敵を倒し、近づけさせないことが目的だ。

 弾幕は「張る」ことに意味があるので、タマが無駄になっても良い。いや、むしろ無駄にたくさん撃つことに意味がある、という発想だ。「無駄に意味がある」というのはコンビニのビジネスモデルの根幹と言って良いだろう。

 ドミナント出店で弾幕を張るように過剰な出店を行う理由は、結果としてライバルの進出を防ぐことにある。

「深夜に客が来ないなら閉めても良いじゃないか」という話も夜間だけ店を閉めればその時間帯だけ弾幕が薄くなる。結果的に客が他のコンビニに行ってしまうスキになりかねない。したがって、無駄でも良いから店を開けておけ、ということになる。深夜は清掃や商品補充でメンテナンスの時間帯であるという話も、結果的に客が少なくてヒマだからメンテナンスの時間にあてているだけだ。

 本部側の意向で大量に発注させて品揃えを充実させることも、客が来るなら結果的に廃棄になっても良いという発想だ。これも「無駄に意味がある」という弾幕の一部だ。ただ、その結果本部の取り分が減るのはよろしくない、じゃあ廃棄の量が自社の利益に影響しない形でロイヤリティーを計算しよう・・・これが「コンビニ会計」の正体だ。

 そしてフランチャイズ制は、小売業という手間がかかる一方で儲かりにくいビジネスのリスクを本体から切り離し、24時間営業を維持するため実質的に「労働時間に制限の無い従業員」としてオーナーを利用することが目的だ。すでに超大企業になったコンビニ各社にとって、小資本でスピーディーに出店が可能といった教科書的なフランチャイズ制のメリットはゼロに等しい。

コンビニ会計もドミナント出店も「結果」である

 ここまで何度も「結果的に」を繰り返し使用してきたが、それはコンビニのビジネスモデルの特徴は、総論であるビジネスモデルから導かれているからだ。この仕組みを極限まで最適化しているのが業界最大手のセブンイレブンだ。

「無駄になっても良いから24時間営業と物量作戦で自社の売り上げを増やして、他社の出店と売り上げを妨害し、利益を最大化する。かつ、事業リスクを外部に移転するため、フランチャイズ制を採用する」

 これが綺麗ごとを全て取り払った、身も蓋も無いコンビニエンスストアのビジネスモデルの説明となる。

 ムチャクチャな説明に聞こえるかもしれないが、「経営戦略」と言われるように、ビジネスはライバルとの熾烈な戦争であり、最高の状態は敵のいない独占だ。敵を叩き潰すことを目的としたコンビニのビジネスモデルは利益追求だけを目標とするなら正しい。

 客の少ない深夜に店を開け、既存店のすぐ近くに出店して、大量の廃棄をあえて出す・・・。

 個々の特徴を見ればおかしなことばかりだが、「弾幕」の観点で見れば合理的だ。そしてフランチャイズオーナーの役割は「戦場の最前線に立つ末端の兵士」で、しかも正社員ではないので傭兵となる。表に出てこないだけで大儲けしているオーナーも多数いると思うが、大損して撤退したオーナーも多数いる。

 セブンイレブンが頑なに24時間営業、ドミナント出店を辞めない理由は根底にあるビジネスモデルを維持するためで、現在批判されている仕組みは全て「原因ではなく結果」だ。原因(ビジネスモデル)が変わらなければ、結果も変わらない。したがって、どんなに結果の部分だけを批判してもビジネスモデルが変わらない限り結果の部分も変わらない。

 いま各コンビニ各社に問われているのは、「24時間営をやめるかどうか」ではなく、「ここまで嫌われてしまったコンビニのビジネスモデルをどう立て直せばいいか?」なのである。そこについては、次回でまた触れよう。

なぜセブンイレブンの近くにセブンが出来るのか
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/56205
に続く。

※筆者はコンビニ各社について、過去のアルバイト勤務と消費者としての利用を除いて、各種取引、株の保有(過去も含めて)、把握する範囲で親族の勤務等の利害関係が無いことは明記しておく。

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