(古森 義久:産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)

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ロシア疑惑」が虚構だったとすると、この「疑惑」を捏造し拡散したのは一体誰なのか――米国の国政の場で「ロシア疑惑」を巡るうねりがこんな方向へと変わってきた。

 改めて焦点が当てられたのは、トランプ陣営とロシア政府機関のつながりを最初に伝えた、イギリス政府の元スパイによる「スティール文書」である。トランプ政権のウィリアム・バー司法長官は、同文書を含む「ロシア疑惑」の発信源についての捜査を開始する方針を言明した。

疑惑の発信源「スティール文書」が捜査の対象に

 ロバートモラー特別検察官は、「2016年米国大統領選挙でのトランプ陣営とロシア政府機関との共謀しての選挙不正の行動を裏づける事実はなかった」と最終報告書で結論付けた。バー司法長官はこれを受けて、「ロシア疑惑」がなぜ、どのように生まれたのかを捜査して解明する意向を明らかにした。

 その際、まず捜査の対象となるのが「スティール文書」であることは多くの関係者が認めている。「ロシア疑惑」がほとんど事実であるかのような報道をこの2年近く続けてきたニューヨークタイムズ4月19日付)も、「モラー報告書はスティール文書の精査を再開させる」という見出しの記事を掲載した。

 ニューヨークタイムズの同記事は、スティール文書がロシア疑惑の発端となったことを認め、ロシア疑惑が存在しないとされた今、疑惑の根拠となったスティール文書がなぜ、どう広まったのかを、米国の政府機関や議会の複数の委員会が捜査、調査することになった、と報じていた。

虚偽だった「豪華ホテルでの乱痴気騒ぎ」

 スティール文書は、イギリス政府諜報機関のMI6の元工作員ロシア事情に詳しいクリストファー・スティール氏によって、2016年米国大統領選挙中に書かれた。

 スティール氏はこの文書で、トランプ氏やトランプ陣営の幹部たちとロシア政府機関との秘密の共謀関係を具体的に伝えていた。同文書によると、トランプ氏は、ロシア政府高官らと親しく接触し、モスクワの豪華ホテルに滞在して乱交や放尿という乱痴気騒ぎをしたことをロシアの諜報機関に知られ、脅されて服従するようになったという。

 トランプ陣営の幹部であるマイケルコーエン氏が、ロシア政府諜報関係者とチェコプラハで密会し、選挙戦で民主党ヒラリー・クリントン候補を打破するための秘密協力を誓い合ったなどという記述もあった。

 ところがこの文書の大部分が虚偽だと判明した。トランプ氏やトランプ選対幹部は指摘された時期にモスクワプラハにはいなかったことが証明された。米国のCIAイギリスのMI6など政府諜報機関当局者も、同文書の内容には根拠がないと明言した。

 モラー特別検察官の報告書もスティール文書に言及し、その記述が事実ではないことを明記していた。さらに前述の4月19日ニューヨークタイムズの記事でも、スティール文書は虚偽であると認めていた。

クリントン陣営の委託で作られたスティール文書

 では、スティール文書はどのような経緯で生まれのか。実は、スティール文書はトランプ陣営の政敵だったヒラリー・クリントン陣営の委託で作られていたことが、その後、判明した。

 2016年4月に、クリントン選対と民主党全国委員会に雇われた法律事務所「パーキンス・コール」が、「フュージョンGPS」に委託して作成させたのがスティール文書だった。フュージョンGPSは、ワシントンを拠点とする調査・ロビー企業である。スティール氏はフュ-ジョンGPSからの依頼を受けて執筆したというわけだ。

 民主党は、スティール文書の内容がさも事実であるかのように取り上げて公表した。それに民主党寄りのネットニュースメディアであるバズフィーズやCNNなどが飛びつき、報道した。内容に信憑性がないことや、文書作成依頼者がクリントン陣営であることには触れなかった。

 その結果、民主党寄りの大手メディアニューヨークタイムズワシントンポストCNNなどによって、「ロシア疑惑」が大々的に報道されるようになった。議会の上下両院でも民主党議員たちが同様にロシア疑惑を広め、トランプ大統領を糾弾したというのが事のいきさつである。

ロシア疑惑は民主党側の謀略だった?

ロシア疑惑」のこうした展開は今や逆回転を始めた。虚構の疑惑がなぜ生まれたのか、根源を突きとめる調査活動が立ち上がったのである。

 バー司法長官は、モラー報告がまとまった後の4月10日の上院公聴会でロシア疑惑について証言し、民主党陣営の「疑惑」を提示した。バー司法長官によると、2016年大統領選挙中に、オバマ政権下の連邦捜査局(FBI)捜査員が正規の許可を得ずにトランプ陣営の盗聴など「スパイ活動を仕掛けていた」。スティール文書の背景と合わせて、今後の司法省当局の捜査の対象にするという。

 こうした動きによって、ロシア疑惑が実は民主党側の謀略で始まり、広がったという可能性が浮上してきた。トランプ政権がその解明をどこまで進めようとするのかが注視される。

 一方、トランプ政権下のバー司法長官が中心となる捜査に対して、議会の民主党勢力は正面から反対する構えをみせている。ロシア疑惑がめぐる党派の争いがどう展開していくか、予断を許さない。

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