小室圭さんは昨夏から、米フォーダム大学ロースクールに留学しています。4月初旬、年間約6万ドル(約660万円)が免除される「特別奨学金」を得る奨学生に選ばれたと報道されました。奨学金の中でも、返済不要のものは超難関、ニューヨーク州弁護士資格取得よりも難しいと言われています。さらに、人物的にも優秀であることも重要です。高額とされている米ロースクール授業料を免除してもらう方法は現実的なのでしょうか。

 今回は、ニューヨーク州弁護士の徳永怜一さんに、奨学金について伺います。徳永さんは日本の大学を卒業後、単身渡米し、ルイジアナ州ニューオリンズのTulane University Law School(LLM)に留学。ニューヨークに拠点を移して法律事務所で7年間勤務し、米国の現地企業や日系企業に対する法的助言や契約書などの作成を担当しました。現在は外資系IT企業に勤務しています。

高額な米国の大学の授業料

 ロースクールを含めて、米国の大学の授業料は高額です。特に私立大学では、ランキングの上位になるほど高額になる傾向があり、毎年値上がりしていて、その高騰に歯止めがかからない状況になっていると、徳永さんは解説します。

「アメリカは、日本以上に学歴社会とも言われています。質の良い教育には高いコストがかかるというのが常識。ランキング上位校は高い授業料でも学生が集まるのです。『U.S.News』によると、2019年ロースクール・ランキングでは、1位がイェール大学(年間学費約719万円)、2位がスタンフォード大学(約698万円)、5位がコロンビア大学(約782万円)、6位がニューヨーク大学(約743万円)です」(徳永さん)

「フォーダム大学は39位(約676万円)です。この中で、ニューヨーク市にあるのは、コロンビア大学、ニューヨーク大学、そして、フォーダム大学。予想がつくと思いますが、ニューヨークの学校は学費がほかの地域よりも割高になっています」

 さらに、大学の教授にも米国の大学はお金をかけています。より良い教授を獲得するために、大学は魅力的な給与を支払う必要があると、徳永さんは指摘します。

「私が通っていたロースクールも全米では有名な私立大学です。アメリカ中から優秀な教授が集められていました。ロースクールの教授はとても恵まれている印象です。快適な個室のオフィスが与えられ、授業を受け持ちながら論文執筆などをしていました」

 さらに、学生ローンで苦しむアメリカの学生の実態があると、徳永さんは警鐘を鳴らします。

「全員が高額な大学の授業料を一括で支払えるわけではありませんし、返済不要の奨学金をもらえるわけではありません。多くの学生がローンを組んでいます。返済期間は15年、長い人では20年という場合も。実はこの学生ローンは、アメリカでクレジットカード負債とともに大きな問題です」

「アメリカ人の友人で、ロースクールの授業の合間にレストランでアルバイトをしながら通学している人もいました。学生ローンのことまでは聞きませんでしたが、授業料はアルバイトでまかなえる額ではありません。その友人はとても優秀で、授業では積極的に発言していたのをよく覚えています。このように、アメリカ人の勉学に対する向き合い方に、とても熱いものを感じました」

LLMと奨学金の実態とは

「アメリカのロースクールには、大きく分けて2つの課程があります。アメリカ人学生が99%の3年間の課程であるJD、留学生が大多数の1年間の課程であるLLM。アメリカで弁護士になるには、基本的にJD課程を修了することが必要です。日本で法学部を卒業している、もしくは弁護士資格を持っているという場合、JDに行かなくてもLLMだけで弁護士になる方法があります」

「LLMの特性から、入学審査はJDとは異なります。成績の付け方や必要単位もJDとは同じではありません。LLMは、既にアメリカ国外で弁護士経験がある人がより深い法律を勉強するものであり、JDと異なり卒業生全員が司法試験を受験するわけではありません。私はLLMを卒業し、ニューヨーク州司法試験を受けて弁護士になりました。同級生の大多数は卒業後に帰国しました。司法試験を受けたのはどちらかというと少数派でした」

 次に、返済不要奨学金の種類について伺います。

「アメリカの授業料全額返済不要の奨学金は大きく2つに分けられます。一つがメリット奨学金。これは学業成績、秀でたリーダーシップや特技、課外活動などを考慮して与えられます。小室さんはこのメリット奨学金です。もう一つはニード奨学金。経済的に授業料を支払うことが困難な場合に与えられます」

「メリット奨学金は、高額な授業料を免除してまで優秀な学生を確保したいという大学側の意向があるため、狭き門となります。その学生に大きな価値を見いだすことが必須です。数百人いるロースクール生の中で、全額返済不要の奨学金を獲得できるのはごくわずか。そう考えると、司法試験に合格して弁護士になるよりも難関だと言えるでしょう」

人物的にも優秀であることの意味は

 授業料全額返済不要となる奨学金を獲得するために必要なのが、類まれな並外れた行動特性(コンピテンシー)。具体的には、過去にロースクールの学長が持ち合わせていたような行動特性を示すことが必要です。

「さすがに、学長レベルの素養を入学前に持っていることはめったにありませんが、それほど高いハードルが設定されているということです。最終判断は学校側になるため、主観的要素もあるでしょう。ただ、大きな収益源である授業料を免除してでも獲得したい学生であることを証明する材料を、どれだけそろえられるかが鍵になります。一般的に、エッセイ(作文)、推薦状、成績表、その他実績を証明する資料などを提出します」

 奨学金をもらう人物評価(日本語でいう属人性)とは、どのようなものでしょうか。

「アメリカの大学は一斉試験だけで合否を判断しません。入学願書の一部として作文を提出するほど、学生の特性を見ています。例えば、高校生のときに行ったボランティア活動などの課外活動は高く評価されます。人と同じ、テストで高得点を取るというだけでは、大学として奨学金を与える魅力はないのです」

 正解は一つではなく、一人一人の特性を個別に評価し、尊重する。それが米国の奨学金の特徴と言えるのかも知れません。

コラムニスト、明治大学サービス創新研究所研究員 尾藤克之

授業料免除はどれくらい難しい?