2019年7月20(土)~8月12日(月)、本多劇場にてM&Oplaysと岩松了定期的に行っているプロデュース公演の最新作『二度目の夏』が上演される。岩松の書き下ろし新作となる今作で主演を務めるのは、昨年の主演舞台『豊饒の海』で高い評価を受け、これが自身3回目の舞台出演となる東出昌大。岩松との顔合わせはこれが初となる。

そして、東出とは映画「桐島、部活やめるってよ」(2012)以来7年ぶりの共演となる太賀の出演も決定。「桐島…」以降、それぞれに活躍し役者としての幅を広げてきた二人が、舞台上でどのような共演を見せるのか、期待が高まる。そんな注目の舞台に向けて、作・演出の岩松了と主演の東出昌大は今どのような思いを抱いているのか、話を聞いてみた。

■舞台上で「0」になる

――東出さんは2015年が初舞台、昨年11月に三島由紀夫の小説を舞台化した『豊饒の海』で3年ぶり2回目の舞台出演をされてから、1年経たずにまた舞台へのご出演となります。

東出 初舞台では小川絵梨子さんという素敵な演出家とご一緒させていただきました。次の『豊饒の海』では僕自身、思い入れの強い三島作品を演じさせていただきました。そして今回は、岩松さんの作品で、しかも本多劇場。舞台出演も3度目になりますので、しっかり地に足の着いたお芝居をしたい、と思っています。役者を一生の仕事にしたからには、目標は高く、見た人が全身の震えが止まらなくなるぐらいの、いつかそれぐらいの高みに近づきたいと思っていますので、相応の気合を入れて臨みたいです。

――東出さんにとって、舞台というお仕事はご自身の中でどういった位置づけですか。

東出 やはり「やりたい」と思える仕事です。ただ、『豊饒の海』のときも毎公演始まる前に手の汗がすごくて、毎日「行きたくないな」と思っていました(笑)。だから今回の舞台が決まった時、「うわあ、俺、また夏に舞台やるのか」って『豊饒の海』の公演中に思いました。ちょっとは楽になっていればいいけど、なってないのかな、と思いますし、でも続けていきたいし、せっかくやるからにはもっといいものにしたいという思いは強く持っています。

――岩松さんは東出さんをどのような俳優だと思っていらっしゃいますか。

岩松 僕が東出さんを最初に知ったのは、太賀くんも出演していた映画「桐島…」で、ちょっと表情からはうかがい知れない、何を考えているんだろう?と思わせる雰囲気があって、それがとても印象に残りました。その後も様々な作品で見るたびに、簡単に方向づけしない芝居をする人だな、と思いました。そこが非常に、彼のスケールの大きさを感じさせますね。彼の中に何があるのか判断しきれないものが、表情や姿に出ているので、今回彼と一緒にやることは、僕の方がトライするような気持ちにもなっています。

――東出さんは岩松さんのお芝居にどのような印象をお持ちですか。

東出 先日お会いしたときに岩松さんが、舞台上で「1」表現しようとすると「1」にしかならないけど、「0」になる、要するに「こう見て欲しい」というのを排して「0」でその場に存在すると、観客は100も200も想像できる、と話してくださいました。別の映像の演出家で「怒っているからって、怒っている顔をしないでください」と言う方もいました。その場に存在するということに間違いはないんだけど、「表現する」ってなっちゃうと、人はちょっと丁寧すぎてしまうのかな、と。映像ではなく、舞台で「0」になったらどうなるのか、自分自身とても楽しみです。

■単純ではない「嫉妬」の形を示す

――今作は「嫉妬」がテーマということですが、どのような内容になるのでしょうか。

岩松 このテーマで東出さん主演でやることになって、いろいろ考えました。嫉妬というと、一般的には愛憎の「憎」の方の印象が強いですが、もっと愛情に近いんじゃないか、とか。だから嫉妬ということを東出さんにあてはめたときに、ただ単に嫉妬ということには多分ならないだろうな、と。嫉妬という言葉を利用しながら、もうちょっと違うことを示せるような、そうやって彼のキャラクターを生かせるんじゃないかと思っています。黙って立っていると何を考えているのかわからない、そんな彼のたたずまいは、役者訓練でそうしているわけじゃなくて、先天的にあるというか、最初から余計な芝居は恥ずかしいと思ってる人なんじゃないかな。

――東出さんは今作の内容について、どう感じていらっしゃいますか。

東出 僕自身、元々ねじ曲がった人間性なので、早くこの役の稽古を始めるのが楽しみですね。岩松さんがお好きなものと、僕の好きなものが、もしかしたら近しいのかな、と感じています。だから、そこをもっと近づけていく作業をすれば、岩松さんの舞台に立てるようになるんだと思います。「嫉妬」がテーマということですが、往々にして人を愛すとか、友情とか、見栄とかって、結局自己愛という言葉に帰結する部分が大きいと思っているのですが、「結果的に自己愛でした」で終わる壮大なストーリーがある一方で、自己愛の中にも、実は気が狂った先に本当に人を愛していた、ということもあると思うんです。

岩松 東出さんが三島好きだというのは聞いてたんですけど、この間、彼が出演したNHK Eテレの「落語ディーパー!」というトーク番組を見て、興味の幅が広いな、と驚きました。僕も三島はある程度知ってるし、落語もある程度知ってるんだけど、僕はおしなべて、みたいな感じなんです。彼はひとつのことに割と深く入っていく人なのかなと思いました。そういうこだわりの強さみたいなものが役者の質に関係しているのかな。落語が好きな彼と、三島が好きな彼は、別人なんじゃないかな、と思ったりして、そういう別の人が彼の中に二人いる、というようなことが、さっき話した「表情ではよくわからない」ということと連動しているんだと思うんです。

■「戦友」との7年ぶりの共演

――東出さんと太賀さんは「桐島…」以来7年ぶりの共演となりますが、これまで交流はありましたか。

東出 太賀とは年1回飲むか飲まないかぐらいで、でも会えば近況報告をしあう間柄。彼の出演しているものは舞台も映画もドラマも結構見ていて、やっぱり素敵な役者さんだな、と思っています。基本的に彼は熱い人間だし、僕のデビュー時からの気心が知れた仲なので、今回も腹を割って話し合いながら全力で作っていける。そういう戦友と共演できることにワクワクしています。

――太賀さんは岩松作品にも出演経験があり、岩松作品に関しては先輩になるのかな、と思いますが、そのあたりはいかがですか。

東出 『シダの群れ 純情巡礼編』(2012年)に彼の出演が決まったときに「岩松さんの舞台に出られるんだ。だから見に来てくれ」と言われて観劇しました。そのとき、出演者の中で彼が最年少だったと思うんですけど、本当にいい芝居をしていて「ああ、太賀輝いてるな、いい仕事しているな」と思いながら舞台を見ていたのをよく覚えています。

――東出さんと太賀さんの役どころが、親友同士の役だそうですね。その関係性にも嫉妬が絡んでくるんでしょうか。

岩松 親友というか、太賀の方が後輩で、かわいがっている弟分みたいな感じです。これ嫉妬なの?すごい大きい愛情なの?といった感じの話になるんじゃないかな、と思っています。あとは、夏の避暑地の話、とかそういう雰囲気を大切にしたいなと思ったりしています。池があって、ボートに乗って、みたいな、なんかそういう雰囲気もいいな、と。ちょっと情感に訴えるような季節感、っていうのかな。

■一緒にいる必然性がない「夫婦」という関係の面白さ

――今回の物語では東出さん演じる「夫」を中心に夫婦の姿も描かれるとのことですが、岩松さんが感じる、夫婦を描くことの面白さというのはどういうところにありますか。

岩松 夫婦は、やっぱりいろんなことが表立たないところに面白みがあるんじゃないでしょうか。必要最低限しか会話しないのに、十年後にいきなり殺し合いするとか、そういうふうに表立たないうちにいろんなものが蓄積していくという面白さがあるんですよね。だいたい、一緒にいる必然性のない二人がいるわけですから。「夫婦だから一緒にいる」と本人たちが決めてるだけだから。そういう面白さはありますね。

――では最後に、公演に向けて一言ずつ意気込みをお願いします。

岩松 テーマは「嫉妬」って言ってますけど、まあ「嫉妬やりますから見に来てください」って感じでお客さんを呼び込んで(笑)。とにかく面白い舞台になりますから見に来てください。

東出 見終わって「よかったね」という気持ちで帰れる作品にはならないと思うんです。怖気とか震えを感じるものにしたいですね。公演期間がちょうど真夏なので、涼みがてら怖いものを見に来てもらえれば、いい夏の夜をお過ごしいただけるんじゃないでしょうか。そうなれるように、がんばります。

愛情、友情、そしてそこに生まれる嫉妬とは何なのか。役を演じるたびにその演技に深みがどんどん加わっていく東出が、岩松の描く一筋縄ではいかない世界でどのような存在を見せるのか。舞台上で「0」になった彼を、岩松がどのように演出して見せるのか。今夏の上演が待ち遠しい一作だ。

取材・文=久田絢子
写真撮影=荒川潤

(左から)東出昌大、岩松了