「真面目に働いていたはずなのに、悲惨な老後が待っていた」。これが今の日本の現実なのだ。普通の勤め人として中流以上の生活を送ってきたのに、彼らはなぜ生活苦に陥ったのか?



◆万引老人…貧困にあえぐ「社会的弱者」



 貧困に耐えかねた絶望老人による万引事件があとを絶たない。東京都青少年・治安対策本部によれば、生活保護受給者の割合や借金の状況を踏まえると、都内の老人の万引被疑者の経済状況は客観的には生活苦といえず、むしろ主観的に「自分の生活は苦しい」と感じている者が半数だという(「高齢者による万引に関する報告書」東京都2017年)。とはいえ、明確な貧困を理由に万引をする高齢者は多数いるのだ。



「彼らは犯罪者というよりも、『社会的弱者』という印象です」



 こう語るのは、万引Gメンであり、『万引き老人』の著者でもある伊東ゆう氏(ジーワンセキュリティサービス)だ。



 伊東氏は今年2月、関東近郊のスーパーで万引をした76歳の男性を捕まえた。かつてトラックの運転手をしていたが、現在は年金生活者。盗んだ品はお菓子、野菜、惣菜、日用品と多岐にわたった。所持金は全財産の3000円のみで、万引品の買い取りは拒否。「タバコ代がなくなっちゃう……」と思わず本音を漏らしたという。



「結局、店側は手続きの煩雑さから被害届を出しませんでした。最近はこうした老人を万引防止の顔認証システムに登録する店も増えています。なかには、刑務所に入りたくて万引をする『志願兵』もいます」(伊東氏)



 伊東氏がかつて都内の繁華街のスーパーで捕まえた77歳の男性は、10日ほど前に拘置所を出たばかりだった。更生保護施設の生活に嫌気が差して脱走し、「食事もなく寝る場所もないから、刑務所に戻りたい」という。この老人は当時、執行猶予中だったため望みどおり逮捕されたが、嬉々としてパトカーに乗り込んでいく姿に、伊東氏の心中は複雑だった。



刑務所では話し相手もいるし、刑務作業でわずかでもお金をためられます。彼らにとって、自由はなくとも刑務所や留置場のほうがマシかもしれません」



 しかし、警察がこうした志願兵を相手にしたがらない場合も多くあるという。罪を犯してもなお行き場がなく、彷徨っている貧困老人もいるのだ。



万引きGメン・伊東ゆう氏】

万引対策専門家。1999年より5000人以上の万引犯を捕捉してきた。現役保安員として現場で活動する傍ら、著述や講演を通じて「万引をさせない環境づくり」も目指している。



<取材・文/週刊SPA!編集部>

― [貧困老人]絶望の現実 ―