1995~96年に放送され社会現象にもなった、庵野秀明監督によるテレビアニメ新世紀エヴァンゲリオン」。その全世界独占配信が6月21日からNetflixスタートする(劇場版EVANGELION:DEATH (TRUE)²」「新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に」を含む)。このトピックを、同作のオープニング主題歌「残酷な天使のテーゼ」を歌い、「エヴァ」とともに24年間を歩んできた歌手・高橋洋子はどう見ているのだろうか。およそ四半世紀におよぶ高橋と「エヴァ」の軌跡を振り返ってもらいながら、5月22日リリースされるミニアルバムEVANGELION EXTREMEエヴァンゲリオン エクストリーム)」と、同アルバムに収録される新曲「赤き月」収録の舞台裏も尋ねた。

――テレビアニメ新世紀エヴァンゲリオン」の放送から約24年が経過しました。高橋さんにとって、この四半世紀はどのようなものでしたか。

高橋:「残酷な天使のテーゼ」をレコーディングした当時は、絵もストーリーもわからない状態でした。その時点でも、まことしやかに「すごいアニメらしい」という噂は漏れ聞こえてきたのですが、実際には想像をはるかに超える勢いで全世界に広がっていきました。そのことは、きっと私がいちばんビックリしているのではないかと思っています。そんな魅力をもった作品に参加させていただいたことが、とても光栄です。私自身にも「エヴァ」に対する考えがありますが、受け取る方次第でさまざまな解釈ができる作品ですから、みなさんと(作品に対して)お話しながら歩んでこれた歳月かなと思っています。

――「残酷な天使のテーゼ」の第一印象はどのようなものでしたか。

高橋:曲も詞も、とても難しい楽曲だなと思いました。デモテープで仮のメロディを聴いたときには「どこで息継ぎすればいいんだろう」と途方に暮れましたね。しかも“残酷な”“天使の”“テーゼ”ですよ? 天使なのに残酷ってどういうことだろうとビックリしましたが、ここが作詞家の及川眠子さんのすごいところで、曲と詞が本当にピッタリなんです。「これはヒットするだろうな」という感触がありました。

――「残酷な天使のテーゼ」を歌い続けるなかで、歌い方を変えたことはあるのでしょうか。

高橋:最初に「残酷な天使のテーゼ」を歌ったとき、私は20代だったのですが、その時から「出だしは10代の声で」と要求されていました(笑)。驚きはしましたが、スタジオミュージシャンはさまざまな声を出すことも仕事のうちですから、がんばって収録しましたね。この曲に限らず、アニソンファンのみなさんの多くは、何年、何十年たっても、当時聴いた“あの歌”をもう一度聴きたいと思ってライブにいらっしゃるので、その気持ちを裏切らないよう、「今できる私の年齢と規模で、当時に近づけて歌う」ということを心がけています。

――高橋さんにとって「残酷な天使のテーゼ」とはどんな存在なのでしょうか。

高橋:テレビシリーズの放送後には社会現象になるくらいの「エヴァブームが巻きおこり、私がコメントを求められることもありました。「私は作家ではないし、一体何を言えばいいのだろう」と戸惑うことも多かったのですが、そうしているうちに、とても責任ある立場を任されていることに気づいたんです。
 今、私はワールドツアーの最中なのですが、どの国に行ってもファンのみなさんが日本語で「残酷な天使のテーゼ」を大合唱してくれます。「残酷な天使のテーゼ」は、「アニソンは国境を超える、最強のパスポートだ」ということを私に教えてくれました。長きにわたって、たくさんの人に共感していただいている楽曲ですから、どんな時にも人の心や世界の情勢にリンクする部分があるのだと思います。それに、みなさんが知っていてくださるかどうかわからなかった昔と、テレビサイズではなくフルサイズで歌ってくれる現在とでは私の心境も全然違いますね。私自身が、日々進化しながら歌っている楽曲です。

――6月21日からは、「新世紀エヴァンゲリオン」のNetflixでの全世界配信がスタートします。

高橋:単純にうれしいです。アニメーションや漫画は、日本が誇る文化だと思っていますから。私は何度も「エヴァ」を見返していますが、今見てもまったく古さを感じず、何回見返しても、そのたびに印象が変わる作品です。この感覚を共有できると思うと、今回の全世界配信は、まさに革命的な事件ですね。日本のアニメ日本語を学んだとおっしゃる海外の方はとても多いんです。私が中国に行ったとき、みんなが流ちょうな日本語で話していたので「日本に留学したの?」と聞くと、「行ったこともないです」って。でも「あのアニメに出てくるお弁当食べてみたい」なんてことも言っている。つまり、彼らはアニメを通じて、日本の日常生活(文化)を理解してくれているんです。これはすごいことですよ。「エヴァ」のストーリーは多分に哲学的で、主人公少年少女たちも、それぞれに日本の文化に根ざした背景をもっていると思いますが、それらについて、国境や人種の垣根を超えて一緒に語れる日がくるのではないかと期待しています。

――長い間、支持され続けている「エヴァ」の魅力とは、どんなものだと思いますか。

高橋:哲学的な内容がありつつも、日常的な作品であることだと思います。登場するキャラクターはみんなヒーローではなく、ごく普通の人たちです。そんな普通の少年少女たちの、本来なら表には出さない一面を、あえて見せていく勇気をもった作品だと思います。誰しも少年少女だった頃はありますから、みんなそこに共感できる。「逃げちゃダメだ」と苦悩しつつも戦い続けるシンジのことを「弱い」と言い切ってしまう人もいますが、私が実際に同じ環境におかれたとしたら、きっと逃げてしまうでしょうね……。
 ネーミングモチーフストーリーにいたるまで、さまざまな作品からのエッセンスが盛り込まれていることも魅力です。“使徒”の謎まで、もう、ひとつの神話を紡ぐようなストーリーになっていますから。そして、今もまだ終わっていない、現在進行系の物語であることもあげられると思います。私だって、「シン・エヴァンゲリオン劇場版」がどんな作品になるのか、楽しみで仕方ありません。
 「エヴァ」の魅力は人それぞれで、その人が生きてきた人生の経験と照らし合わせて、おもしろいポイントが変わってくると思います。私自身、年齢や経験を重ねてきたことで、どんどん見方が変わってきました。ひとことで説明できるものではないんですよね。あえて言うなら、そんな奥深さこそが「エヴァ」のいちばんの魅力ではないでしょうか。

――「エヴァ」の中で好きなシーンと、キャラクターを教えてください。

高橋:私にとっての「エヴァ」はバイブルなので、TPOに合わせて引用元が変わってきます。有名な大学の哲学科の先生が、私との対談を希望してくださるくらい、とても奥深い作品なので、特筆して「このシーンが」とか「このキャラクターが」ということはありません。ただ、私の年齢や立場としてはミサトさんが近いので、共有できる感覚が多いかなと思っています。