女の子の瞳、髪形、表情が万華鏡のように目まぐるしく変化し、何体ものキャラクターが生まれていく――AI(人工知能)ベンチャーのPreferred Networks(PFN、東京都千代田区)が、アニメゲームの制作会社向けにそんな技術の提供を始めた。深層学習ディープラーニング)を活用してアニメキャラクターを自動生成するサービス「Crypko」(クリプコ)だ。

【画像】誕生したキャラクターの例

 このサービスは、複数のキャラクター画像の特徴を組み合わせ、“遺伝”させるように新しいキャラクターを作り出せる。ブロックチェーン技術も応用して、生成されたキャラクターの情報とユーザーをひも付けて管理し、一つ一つのオリジナリティーを確保する。同社によれば、生成できるキャラクターバリエーションは「無限」だというから驚きだ。

 もともとCrypkoは昨年5月~8月ごろ、美少女キャラクターを生成・収集するゲームとして、一般向けにβ版が公開されていた。登録ユーザー数は約1万人、生み出されたキャラクターは約80万体に上ったが、大反響の中で公開を終了した経緯がある。そんなサービスが今年4月、法人向けサービスで復活した。

 このサービスを開発したのは、金陽華さんと朱華春さん。中国の大学に在学中、β版を制作。卒業後、PFNに新卒入社した若きエンジニアだ。日本のオタクカルチャーに親しみ、「自分の想像通りのキャラクターを形にできるサービスを作りたい」と意気込む2人に開発の舞台裏を聞いた。

●開発メンバーは「美少女ジェネレーター」の生みの親

 β版のCrypko開発がスタートしたのは昨年1月のこと。上海の復旦大学に在籍していた金さんと朱さん、大学の友人の3人で開発・運営を始めた。金さんは自身が大学で研究していた深層学習、朱さんはブロックチェーン技術の開発を主に担当した。

 Crypkoの「アニメキャラを生成する」コンセプトは、日本のアニメカルチャーへの関心から生まれた。開発メンバーは、京都大学への交換留学を経験した仲間だという。 金さんと朱さんは中学生の頃から日本のアニメに親しみ、大学のサークルオタク趣味をきっかけに意気投合したそうだ。

 中心メンバー金さんは、Crypko以前にもアニメキャラクターを生成するサービスを手掛け、注目を集めたことがある。京都大学に留学中の2017年パーツや表情を組み合わせ、好みの美少女キャラクターを生成するサービスMakeGirlsMoe」を個人で開発した。同年、コミックマーケット92(以下コミケ)で公開したところ「萌えキャラがポンポン作れる」と日本のオタク界に衝撃が走った。

 MakeGirlsMoeに対する想像以上の反響に「もっといいものを作りたい」と思ったという金さん。留学を終えて中国に帰国後、その情熱から生み出したのがCrypkoだった。

●自分だけのキャラクターを所有することに憧れ

 β版のCrypkoは、法人向けのサービスではなく、美少女キャラクターイラストをトレーディンカードのように収集する一般向けのゲームとしてリリースした。AIが自動生成したキャラクターゲーム内の「オークション」に出品し、仮想通貨のイーサリアム(ETH)で売買(β版では有料の取引は行われず、テストネット用のETHを使用していた)。手持ちのキャラクターと、他のユーザーから購入したキャラクターを掛け合わせ、新しいキャラクターを生み出していく――という内容だった。

 これは当時人気を集めていたブロックチェーンゲーム「CryptoKitties」から着想を得たという。CryptoKittiesは、猫のイラストを生成し、仮想通貨で売買するゲームだ。生成された猫のデータは、1つ1つがブロックチェーン上に記録され、ユーザーの所有権とキャラクターの独自性が保証される(※)。

(※)猫のイラストは、それぞれがイーサリアブロックチェーン上で唯一無二のトークンとして、ETH建てで売買される。代替不可能トークンを作れる規格(ERC-721)を活用し、個々のイラストの独自性を確保している

 Crypkoも同様の技術を採用している。ブロックチェーン上にキャラクターの生成履歴や取引データを記録し、改ざんが極めて難しい形でキャラクターの価値が保証される。このような技術を組み合わせることで、Crypkoは世界に1つのキャラクターを無限に生成できるのだ。朱さんは「ゲームで自分だけのキャラクターを所有することに憧れがあった」と語る。

 多くのソーシャルゲームは運営会社がキャラクターのレアリティー(価値)を設定し、ユーザーは気に入ったキャラクターを所有しようと躍起になる。しかし、結局手に入るキャラクターはあくまで1パターンデータにすぎず、決して「自分だけのもの」にはならない――そんな歯がゆさを原動力に、Crypkoのアイデアが次第に固まっていったそうだ。

 優れたキャラクターを無限に生成できるということは、乱用すれば希少性がなくなる可能性がある。Crypkoはブロックチェーン技術を活用することで「市場で価格が決まる」「希少性を保証できる」というメリットを生み出した。朱さんはブロックチェーン技術を一から勉強し、試行錯誤しながら実装を進めていったという。

●1万人が80万体の美少女を生成……なのに突然のサービス終了

 こうして誕生したβ版Crypkoは大反響を呼んだ。約3カ月間で1万人以上のユーザーが利用し、80万体を超えるキャラクターが生成された。個人が開発したサービスということで、宣伝力が限られている上、仮想通貨ウォレットの拡張機能をWebブラウザインストールする必要があるなど、ゲームを始めるのに少なからず手間がかかることを考えると、すさまじい反響だ。

 金さん、朱さんが特に驚いたのは、ヘビーユーザーの多さだという。ユーザー1人当たりのキャラクター所有数は平均100体を超え、中には1000体以上所有するユーザーも数名いた。ネット上では、当時のCrypkoプレーヤーから「レベルの高さに感動」「ゲームとして面白い」など熱い感想の声も上がっている。Crypkoで生成されたキャラクターを題材にイラストが描かれることもあり、金さんもこうした二次創作作品にハマったという。朱さんは「いろいろな制限がある中で、理想のかわいい女の子を作れることに熱中した方もいるのではないでしょうか」と分析する。

 こうした反響にもかかわらず、Crypkoはリリースから数カ月間で公開を終了した。その理由は「開発メンバーの大学卒業・就職」と「ブロックチェーンの利用に限界を感じたこと」の2点だった。

 β版のCrypkoをリリースした当時、金さんと朱さんは大学卒業を控えていた。昨秋にはPFN入社が決まっており(金さんは9月、朱さんは11月入社)、同社のアニメ関係の事業に携わる予定だったという。

 それでも当初は「正式版Crypko」をリリースする予定だったが、β版の反響を見て「これで終わりたくない」とサービスの新たな方向性を模索し始めていた。背景には、仮想通貨の価値が乱高下するというリスクや、イーサリアムを利用する際にかかる手数料(Gas)の高騰もあり、ユーザーの参入障壁の高さが最大のネックだったという。

 サービスを広く展開することを考えると、ユーザーゲームに参加するために仮想通貨を購入するというのはハードルが高い――金さん、朱さんらはそう考えた。

 CrypkoはPFNの事業になったこともあり、法人向けのサービスに転換。ブロックチェーン技術の活用は、キャラクターの独自性を保証する働きにとどめることにした。その代わり深層学習の精度向上に注力し、より高品質なキャラクター生成が可能に。画像の解像度を向上させた他、男性キャラクターの生成やパーツの指定にも対応した。

●開発体制は「爆速」に 趣味が入社後の仕事になった

 金さんと朱さんは4月現在、入社したPFNでCrypkoの開発を続けている。企業に所属したことで、開発環境は学生時代からどう変わったのか――。聞いてみると、特に変化が大きいのは、リソースが潤沢にあることだという。

 深層学習の研究に不可欠なのは、コンピュータの計算リソースと、機械学習に必要な豊富なデータセットだ。アニメ風の画像は写真と比べて自由に使えるデータセットが少ない。β版の開発時も、アニメキャラクターデータセットを確保するのに苦労したという。

 改良したCrypkoは男性キャラクターにも対応しているが、これはPFNのノウハウを参考に、限られたデータセットキャラクターを生成できるよう実現したそうだ。β版と比べると、AIの学習に使えるGPUも多く調達でき、学習速度は「爆速になった」と朱さん。PFNに入社し、日本で働くことで感じる恩恵もあるそうだ。「アニメといえば日本。日本にはクリエイター文化があるからこそできるビジネスもあると思う」(朱さん)

 金さんがAIの道を志したきっかけは、PFNの社員だという。同社のリサーチャーである松元叡一氏が2015年に発表した、アニメ画像を自動生成するAIの記事を読み、憧れて研究を始めたそうだ。4年間の時を経て、憧れの技術者と肩を並べて研究開発に打ち込む毎日だ。

●「絵が描けなくてもクリエイターに」

 オタクカルチャーを愛する中国人留学生が生んだ「美少女ジェネレーター」が、世界から注目を集めるユニコーン企業(企業評価額が10億ドル超の非上場企業)の事業になった――まるでドラマのような話だ。

 金さんと朱さんは、今後も深層学習のブラッシュアップを続けていくそうだ。金さんは「顔だけでなくキャラクターの全身、人間以外のキャラクターの生成にも挑戦したい」と意欲を見せる。朱さんは「自分のアイデア深層学習を使って、そのまま実現できるようにしたい。キャラクターを(脳内で)想像した通りの姿に近づけられるようにするのが夢」という。

 現段階ではCrypkoは、アニメゲームを制作する企業向けに提供しているが、個人向けに提供することも検討する。「絵が描けなくてもクリエイターになれるようにしたいし、プロのイラストレーターでもキャラクタープロトタイプを作るときに使えるのではないか」(朱さん)

キャラクターの合成例。AIのアルゴリズムである「敵対的生成ネットワーク」(GAN:Generative Adversarial Network)を用いた。GANは、画像を生成するAIとその画像を評価する別のAIを「敵対」させ、生成されるイラストの精度を向上させていく。そうすることで、より高品質で幅広いジャンルのキャラクターが生成できるという