早稲田大学総長 田中愛治 1951年東京都生まれ。1975年早稲田大学政治経済学部卒業。1985年、オハイオ州立大学大学院政治学研究科博士課程修了、政治学博士(Ph.D.)。東洋英和女学院大学助教授青山学院大学助教授・教授等を経て、1998年早稲田大学政治経済学部教授に就任する。その後、教務部長、理事、グローバルエデュケーションセンター所長を歴任。2014年からの2年間は、世界政治学会(IPSA)の会長としても活躍した。2018年11月、総長に就任。

世の中に貢献できる人材が育つ、教育環境を整備

早稲田大学の前身である東京専門学校1882年、大隈重信によって創設されました。その歴史は「学問の独立」を中心とする3大教旨や「進取の精神」「在野精神」「東西文明の調和」といった理念により支えられています。こうした伝統を基盤に2012年に策定された「Waseda Vison 150」のもと、「世界で輝くWASEDA」を目指し、前進を続けています。国際色豊かやキャンパスでは、年間約7900人の外国人学生が学び、約4600人の早大生が海外留学しており、その数は日本1位です。また、返済不要の早稲田大学独自の奨学金はおよそ150種類と日本トップクラスの充実度を誇ります。

近年、早稲田大学では実社会に貢献できる人材を育成する教育環境の整備に力を注いできました。そのための取り組みのひとつが、世界で通用するグローバルリーダーを育成する教育機関「グローバルエデュケーションセンター」の設置です。2013年オープン教育センター等を改組し開設して以来、全学部の学生に向けて多面的な教育プログラムを提供。なかでも、あらゆる学問の基礎となるアカデミックリテラシーとして、「アカデミック・ライティング(学術的文章を書くスキル)」「英語」「数学」「データ科学」「情報」を身につけることを推奨しています。

また教養教育も、実社会に貢献できる人材の育成に欠かせない要素のひとつです。幅広い視点から物事の本質を見抜く洞察力を養うために、所属学部での主専攻の学問以外に、同時に他の学問分野を体系的に学べる「学術的副専攻」を導入。そのテーマには、例えば、政治学や経済学、人権と法などがあります。また、映画・映像や演劇・舞台芸術、健康・医療などを学際的に学ぶ「学際的副専攻」も用意しています。

そのほか、人間的力量を伸ばす教育も重要と考える当大学では、学外とも積極的に連携。プロフェッショナルズ(各業界の最前線で活躍する社会人)と学生がともに企業等が実際に抱える課題の解決を目指す「プロフェッショナルズ・ワークショップ」は、その一例です。ボランティアに関するプログラムも充実。社会とのつながりを通して、人間力を高めていくことができます。

全学的な教育として、語学教育にも注力。中国語フランス語スペイン語ドイツ語などの28言語を学べる環境を構築しています。また、例えば法学部であれば契約法を英語で教えるなど、各学部で専門と言語を統合した教育を行っています。

こういった取り組みの数々は、当大学の創立者・大隈重信による3つの建学の理念「学問の独立」「学問の活用」「模範国民の造就」にもしっかり通じていると言えるでしょう。

「世界で輝くWASEDA」を目指し、世界トップクラスの大学へ

私は、2018年11月に第17代総長に就任しました。総長として、現状に決して満足することなく、今後もさらなる改革を推し進めていくつもりです。目指しているのは、「世界で輝くWASEDA」。つまり、早稲田大学を世界トップクラスの大学へと進化させていくことが、私のミッションであると考えているのです。

こうした改革のヒントは、アメリカにあります。1930年代アメリカの大学はヨーロッパの大学に大きな後れを取っていました。そこで、ヨーロッパに追いつこうと覚悟を決め、任期付の若手研究者を、経験を積ませ審査した後に終身雇用する「テニュアトラック制度」や、講義などの内容や進め方をまとめた「シラバス」の導入をはじめ、さまざまな改革を実施。その結果、40年後の1970年代ヨーロッパの大学と肩を並べることができたのです。私は、この改革期を含めた10年半をアメリカの大学で過ごしました。当時の私が通っていたオハイオ州立大は、80年代末には世界ランキング上位の大学へと大きく躍進を果たしました。「世界で輝くWASEDA」を目指していくうえで、その経験は大きな強みになると思っています。

大学のグランドデザインを描くうえでのテーマは、「研究」「教育」「貢献」の3つ。「研究」のレベルや「教育」の質を高めていくためには、より優れた人材の登用や優秀な若手研究者を育成する環境の整備、学生が効果的に学べる体系の構築などが重要であると考えています。また当大学では、年間約1万人の学生がボランティア活動を経験。この「貢献」の文化を、学内により広めていくことも目標のひとつです。

「研究」「教育」「貢献」をキーワードにした改革と合わせて大切なのは、国内外へのPR。今後は、SNSWebなどオンラインを積極的に活用し、当大学の取り組みを国内外に広く発信していきたいと考えています。こういった地道な活動を続けていくことで、自然と「世界で輝くWASEDA」へと近づいていくことができるはず。その結果、世界トップクラスの大学のひとつになっていけると信じています。

社会が必要としているのは、「たくましい知性」と「しなやかな感性」

実社会に貢献できる人材育成や「世界で輝くWASEDA」に向けた取り組みは、学生たちを社会から必要とされる人間へと導いていくためのもの。社会が求める人材とは、「たくましい知性」と「しなやかな感性」を兼ね備えた人物であると考えています。

「たくましい知性」とは、答えのない問題に挑む力のことです。答えのない問題に、自分なりのソリューションを仮説として立て、説得力のある根拠を示し、検証していく。その結果、間違いが見つかったらもう一度やり直し、自分の頭でとことん考え抜いて、自分なりの答えを出せるような人材こそが重要視されるでしょう。なぜなら受験での試験問題と違って、社会で起きる問題には正解があるとは限らないから、答えのない問題に挑戦する力が必要なのです。

「しなやかな感性」とは、性別・国籍・言語・宗教・信条・価値観等が異なる人々に敬意を持って接し、相手を理解する感性のこと。自分とは異なる人を受け入れるという感性は、世の中の多様化やダイバーシティが加速する時代を生き抜くうえで必要不可欠ではないでしょうか。

当大学では、入試改革も進めています。2021年度入試(2021年4月入学者向け入試)から、政治経済学部・国際教養学部・スポーツ科学部の3学部で、センター試験に代わって実施される大学入学共通テストを導入することにしました。さらに、政治経済学部の入試では数学Ⅰ・Aを必須科目とすることを決めたのです。大学入学共通テストを利用することで、地方の国立大志願者がより受験しやすくなると考えています。さまざまな地域から異なる特性を持つ人材が集まれば、「たくましい知性」と「しなやかな感性」を育むのに適した環境が整います。

早大生の進路は、それぞれが「なりたいものになる」選択をするところが大きな特徴です。文系学部からIT業界に進んだり、理系学部から金融業界を目指したりなど、その選択肢は多様で無限。そのため、低学年からのキャリア形成支援プログラムで、学生の主体性を重視して自立を促すとともに、多様性に応じたさまざまな機会や情報を提供します。また、教員志望者に対する手厚いバックアップのほか、各種資格の取得や難関試験合格に向けたサポートも充実。学部卒業生の就職率は97.1%に上ります。

また卒業生は、ビジネスや政治・経済、司法等の分野だけでなく、スポーツや芸能・文化ボランティアといったさまざまなフィールドでめざましい成果をあげています。つまり、ロールモデルとなる先輩が世の中に多数存在している。「たくましい知性」と「しなやかな感性」を育める当大学は、社会に出てから理想の自分に近づける最高のステージだと言えるでしょう。

提供:早稲田大学