credit: Yameng Lu

Point

■真核生物の細胞小器官であるミトコンドリアは、独自のDNAと遺伝子を持っているのが普通である

■寄生性プランクトンで好気性のAmeoebophyra ceratiiのミトコンドリアにはDNAがないが、エネルギーを生み出す機能を完全に有している

■ミトコンドリアが必要とする遺伝子が、完全に細胞核へと移行していることがわかる

ミトコンドリアがDNAを持たないなんて…学校で習ったのと違う!

藻類を食べる海洋性寄生生物は、非常に貪欲で、自らのミトコンドリアDNAさえも取り込んでしまったようだ。

寄生性プランクトンであるAmeoebophyra ceratiiのミトコンドリアDNAは、細胞核へと吸収されてしまっていることが判明したと、「Science Advances」に掲載された論文で発表されている。

An aerobic eukaryotic parasite with functional mitochondria that likely lacks a mitochondrial genome | Science Advances
https://advances.sciencemag.org/content/5/4/eaav1110

もともと独自のDNAを持ったミトコンドリアなのに…

酸素を利用する生物に含まれるミトコンドリアが、DNAを持たないのに完全に機能することが発見されたのは始めてだ。実は嫌気性生物では見つかっているのだが、その場合ミトコンドリアは機能していない。

真核細胞の細胞小器官であるミトコンドリアは、もともと独立した細菌であったものが細胞に取り込まれ、共存するようになったと考えられている。その際、もっていたDNA上の遺伝子は細胞核へと移動し、数少ない遺伝子はミトコンドリアDNAとして残されている。ヒトではミトコンドリアの持つ遺伝子の数は、37個にとどまっている。

必要な遺伝子は細胞核の中へ

しかし、A. ceratiiではそうではないようだ。ドイツ、ブレーマーハーフェンのアルフレッドウェケナー極地海洋研究所の発見によると、この寄生性の渦鞭毛藻は、有毒なブルームを作る藻類に寄生するが、ライフサイクルの自由生活期段階に2つのミトコンドリアを持つことが分かっている。

2つともエネルギーを生産できることが分かっているが、ミトコンドリア内にDNAは認められなかった。

ミトコンドリアが機能するために必要な遺伝子はすべて、細胞核の中に含まれていたのだ。このことから、ミトコンドリアの働きに必要な遺伝子はすべて核へと移っており、DNAをすべて失ったミトコンドリアがエネルギーを作ることを可能にしていると、研究者たちは結論している。

 

そもそもミトコンドリアに独立してDNAを転写・翻訳する機能があること自体非効率に思えるのだが、生物はそのように進化していない。そういう意味では、A. ceratiiは効率的な生物とも言えるのではないだろうか。そして、ミトコンドリアがDNAを持ち続ける理由を逆に明らかにしてくれるかもしれない。

 

reference: Science News / written by SENPAI
DNAを持たないのに完全に機能するミトコンドリアを持つ寄生生物