存在するのか、しないのか…それが問題だ。
暗黒物質は、天体物理学における最大の謎の一つだ。宇宙に存在する物質の9割を占めると考えられているというのに、その存在は間接的にしか証明されておらず、最近ではその存在そのものを疑問視する声さえ上がっている。2016年には、理論物理学者のエリック・ヴァーリンデ氏が暗黒物質の存在を否定する論文を発表し、注目を集めた。
しかし伊・先端研究国際大学院大学(SISSA)が、暗黒物質の存在に対する疑問を払拭し、さまざまな代替理論を裏付ける経験的関係(理論的には定かではないが、実測を元にした関係)を反証することに成功したそうだ。論文は3月11日付けで「Astrophysical Journal」に掲載されている。
https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4357/aaffd6/meta
力学の法則を変更すればすべては説明可能?
宇宙の現象のほとんどは、私たちの目に見える普通の物質「バリオン物質」だけでは説明することができない。
目に見える重力の作用も、物質が生む引力だけで説明することは不可能だ。このことから科学者たちは、宇宙には探知することのできない暗黒物質が存在するという理論を導き出した。
数年前、この暗黒物質の存在に疑いを抱いたのが、米・ケース・ウェスタン・リザーブ大学の研究チームだ。153の銀河(主に標準的な螺旋形の回転を行うもの)の回転曲線を分析し、銀河に存在する天体の重力加速度の合計と、ニュートン理論で言うところの通常物質として観察できる成分の経験的関係を示した。
これにより、暗黒物質の存在を仮定することなく、力学の法則を変更することで、銀河回転の問題を説明可能なことが証明した。
標準的な回転をしない銀河を調べたら違う結果に!
この説の真偽を確めるため、SISSAの研究チームは今回、標準的な回転の仕方をする銀河以外の銀河の回転曲線を分析することにした。72の低表面輝度銀河(地球から見た時の表面輝度が夜空の環境よりも少なくとも1等級以上低い希薄な銀河)と、34の矮小円盤銀河(ディスク構造を持つ、数十億個以下の恒星からなる小さな銀河)が対象となった。
その結果、銀河に存在する天体の重力加速度の合計とその中の通常物質の関係に加えて、銀河の半径と形の関係が明らかになり、ケース・ウェスタン・リザーブ大学の研究チームが過去に示した結果よりも実態はさらに複雑なことが分かった。
研究チームの一員であるパウロ・サルッチ氏は、「これは、以前示された経験的関係が間違っていたことを示すとだけでなく、銀河に暗黒物質が存在することに対する疑いを拭い去る研究結果です」と、研究価値を語っている。
さらに、今回新たな関係が見つかったことで、暗黒物質の性質を理解するための重要なヒントが得られる可能性もある。
暗黒物資が漆黒のベールを脱ぎ捨て、その正体を露にする日はまだまだ先かもしれない。
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