4月30日文在寅大統領が、大統領就任丸2年にして初めて、サムスン電子の工場を視察した。文大統領は、ソウルから約50km南に下った京畿道華城(ファソン)にある半導体の事業場で、「非メモリー半導体ビジョン宣言式」に参加。合わせて、10月に完工する極端紫外線(EUV)棟の建設現場を視察した。

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 文大統領サムスン総帥の李在鎔(イ・ジェヨン)副会長は、互いにぎこちない作り笑いを浮かべながら、がっちり握手を交わしたのだった。

「庶民の敵」としていた財閥に頭を下げるはめに

 私はこのニュースを、YTN(韓国の24時間ケーブルテレビニュース)で見ていて、小学校に入りたての頃、先生に習ったことを、ふと思い出した。曰く、
「人間というのは弱い存在です。だから一人では生きられず、誰かを頼る。そうして二人の人間が互いに支え合う姿を描いたのが、『人』という漢字なのです」

 映像を見ると、文大統領が右側から右手を出して会釈。李副会長は左側から右手を出し、左手を右手に添えて、文大統領よりもやや深く頭を下げた。その姿は、漢字の「人」そのものだった。

 そもそも、2018年の韓国のGDP1782兆2690億ウォンで、サムスン電子の売り上げは、243兆7700億ウォン。つまりサムスン電子は、1社で売り上げがGDPの13.7%も占めている韓国経済最大の牽引役だ。それにもかかわらず、韓国の大統領がこれまで一度も挨拶(視察)に行っていなかったということは、日本人からすれば奇異に思える。

 だが、文在寅大統領は、「財閥を解体してその富を国民に分配する」と宣言して2003年大統領になった廬武鉉の「無二の同志」である。「財閥を解体する」とまでは言わなかったが、「財閥を始めとする企業主から多額の賃金アップをもぎ取る」と公約して、2年前の5月に大統領に就いた。大統領就任演説では「素手で『青瓦台』(韓国大統領府)に入って、(5年後に)素手で出ていく」と宣言し、財閥からの献金や裏金などは一切拒否する姿勢をアピールした。そして大統領就任以降は、財閥を「庶民の敵」に見立てて、叩きまくっていたのだ。

 ところが就任から丸2年が経ち、文大統領は2つの意味で、財閥に頭を下げねばならなくなってしまった。

GDP成長率、リーマンショック以来の悲惨な数字に

 1つは、韓国経済の急降下である。大統領就任当初は、韓国経済の悪化を、暗に憎き朴槿恵大統領のせいにしてきた。朴前大統領が、韓国の最大の貿易相手国である中国の意に反して、「THAAD(終末高高度防衛ミサイル)」の韓国配備を決めてしまったから、中国に意地悪されて、韓国経済が一時的に悪化したのだというわけだ。

 ところが、「アメリカ経済がよいと韓国経済もよい」というジンクスが長年あるにもかかわらず、好景気に沸くトランプ政権下のアメリカを尻目に、この2年間、韓国経済は低迷を続けた。

 4月25日に韓国銀行(中央銀行)が発表した今年第1四半期(1月~3月)のGDPの伸びは、マイナス0.3%! 何とリーマン・ショック2008年以来、11年ぶりの無残な統計が出てしまったのだ。

 韓国ではすでに、「IMFショックの再来となるのでは」との懸念まで出始めた。1997年末に国家経済が破綻し、IMF(国際通貨基金)の管理下に置かれてしまった記憶が甦ってきているのだ。こうした中、遅ればせながらGDPの13%」を占める最大最強の財閥に、頭を下げに行ったというわけだ。

 もう1つの理由は、北朝鮮との絡みである。「文在寅大統領金正恩の首席スポークスマン!」と3月に断罪したのは、野党・自由韓国党の羅卿瑗(ナ・ギョンウォン)院内総務だが、韓国国内のみならず、多くの日本人もそのように思っているだろう。

 ところが、文大統領にとっての「大事な北朝鮮」に、経済援助や経済協力するには、「財閥の力」が不可欠なのである。かつて金大中元大統領は、現代グループの力を借りて南北協力を成し遂げたものだ。そのような当たり前のことに、文大統領が気づいたのである。

財閥幹部が漏らした「怒り」

 文在寅大統領は、昨年9月に平壌を訪問した際、李在鎔副会長を始め、主要財閥のトップに同行を命じた。その時、韓国のある財閥の中堅幹部は、私に怒りをぶちまけたものだ。

「普段あれだけわれわれを敵視していながら、よくも『同行せよ』などと言えたものだ。しかも、国連が強力な経済制裁を科しているのだから、北朝鮮への経済援助や協力などできるわけないではないか」

 実際、昨年4月と9月の南北共同宣言で決めたことは、ほとんど宙ぶらりん状態だ。先週、4月27日に行われた板門店での南北首脳会談1周年の記念式典は、文政権に呆れ返っている北朝鮮がボイコット。韓国だけで行うという情けないことになってしまった。韓国の諺で言うように、「片手で音は鳴らない」のだ。

 さて、サムスンの総帥、李在鎔副会長の側にも、文在寅大統領に擦り寄らなければならない理由が、2つあった。

 1つは、サムスン電子が、このままではヤバイのである。わざわざ4月30日を選んで文大統領を招いたのは、この日に第1四半期の決算発表を予定していて、そこで見るも無残な数値を発表せねばならなかったからと思われる。

 この日発表した第1四半期の営業利益は、6兆2000ウォンで、60%マイナス! 売上高は52兆4000億ウォンで13.5%のマイナス。中核の半導体事業の営業利益は4兆1000ウォンで64%のマイナス。頼みのモバイル事業(スマートフォン)の営業利益は2兆3000億ウォンで40%のマイナスディスプレー事業に至っては、5600億ウォンの損失を計上してしまった。

数日で壊れた折り畳みスマホ

 スマートフォンに関しては、2月に、ライバルファーウェイ華為技術)より3日早く折り畳みスマホGalaxy Fold』の発表会を開き、「4月中に世界で初めて発売する」と豪語していた。ところが4月22日になって突然、「発売延期」を発表したのである。すでに有力メディアの記者たちに「宣伝用」として配っていたが、米ブルームバーグの記者には、「使って2日間でブッ壊れた」と記事を書かれる始末である。

 こうした中、ファーウェイを中国政府が陰に陽にバックアップしているように、サムスンも韓国政府にバックアップしてもらわないと、国際競争に勝てないと判断したのである。

 李副会長が文大統領に擦り寄るもう1つの理由は、自身の身体のことだ。

 2年前に朴槿恵大統領が弾劾を受けて失脚した直接の原因は、いわゆる「崔順実ルート」である。これに絡んで、李副会長2017年2月に逮捕され、文在寅政権に入った同年8月に、懲役5年の一審判決を受けた。翌2018年2月の控訴審判決は、懲役2年6カ月、執行猶予4年に減刑され、1年ぶりに釈放された。

 この大型裁判の大法院宣告(最高裁判決)が、5月に予定されているのである。そのため李副会長としては、何としても文在寅大統領の「後ろ盾」と「赦し」が欲しかったのだ。

 かくして大統領と「財界大統領」は、2年越しの「手打ち」となった。

 冒頭の私の小学校の先生は、高学年になって、こうも教えてくれた。
「いくら『人』が寄り添っても、二人とも潰れてしまうことがあります。だからこそ心を合わせるという意味で、『仁』の漢字ができたのです」

「仁の国」韓国は、果たして大丈夫だろうか?

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