春は進学のシーズン。しかし、親にとっては予想以上の出費が痛い季節でもあります。小学生だったらランドセルや学用品、中高生だったら制服代や修学旅行の積立金など、一度に10万円前後の出費になることもあります。

思わぬ出費で特に困るのが、離婚した配偶者から養育費をもらって育てているシングル家庭です。弁護士ドットコムにも、元夫から養育費を受け取り、子育てしているという女性からこんな相談が寄せられました。「現在、息子は中学に進学し、部活やら修学旅行積立・教材経費の負担が増えてきていますが、これを『臨時経費』とし、養育費以外として、折半額分を請求して良いのでしょうか?」とのことです。

養育費とは別に、こうした進学にかかる費用を請求することは可能なのでしょうか。久保田 仁弁護士に聞きました。

●特別の事情があるかどうか

そもそも養育費に制服代や学用品、修学旅行積立代などは含まれているのでしょうか。

「一般的には含まれていると言えます。

養育費の金額については、裁判官らも参加している研究会で、これまでの実務上の経験を踏まえて養育費の算定基準が示され、平成15(2003)年に公表されました。その算定基準をもとにした養育費算定表があり、裁判所のHPで公表されています(http://www.courts.go.jp/tokyo-f/saiban/tetuzuki/youikuhi_santei_hyou/)。

この算定基準・算定表が発表されるまでは、養育費は個別のケースごとに裁判官が決定しており、計算が煩雑だったり、事案によって相場がまちまちであったり問題がありました。

そこに、簡便かつある程度相場が予想できる算定基準が示されたことで、その後の実務では、この算定基準および算定表に従って、双方の収入などを勘案して金額が決められるようになりました。この算定基準は標準的算定方式と呼ばれています。

そして、この算定基準には、生活費指数が考慮されており、子どもを養育する場合の教育費もそこに含まれています。ですので、教育に通常かかるであろう費用は養育費に含まれていると言えます」

すると、進学の際にかかる費用や部活動の費用を追加で請求することは難しいのでしょうか。

「先ほど説明した算定基準では、公立中学・高校の学費を基準として教育費が考慮されており、私立学校に行く場合や、特別な塾に通う、スポーツをするなどの場合は考慮されていません。大学・専門学校などの高等教育の費用も必ずしも考慮されていません。

ですので、養育費を支払う側が、将来私立学校に行くことを承諾していたような場合や、そのための塾に行くことを承諾していたような場合、スポーツをすることを承諾していた場合は、それらの費用を加算するべきということになります(もちろん全額が加算されるわけではありません。それらの事情を考慮して金額が決められるという事になります)。

また、将来大学に行かせることも承諾していた場合や、明確に承諾していなくても子どもを大学まで行かせることがその両親の間では暗黙の了解であるような場合は、大学の学費も考慮した養育費を加算するべきということになります。また、通常の場合は養育費の支払いは20歳までですが、大学を卒業するまで支払うべきという結論になる場合もあります。

そのような、特別の事情があるかどうかということになります」

●当事者が話し合って合意があれば、基準より高い金額でもOK

今回の相談事例の女性は離婚時の協議書で、「今後の臨時経費は折半」と締結したそうです。こうしたものがあれば、女性のケースでは請求可能なのでしょうか?

「裁判所が養育費を決める場合の算定基準は上で述べたとおりですが、これはあくまで裁判所が決める場合の基準です。

当事者が話し合って、養育費を支払う側が子どものために、裁判所の基準より高い金額を支払うという合意をしたのであれば、その合意は有効です。

今回のケースでは『今後の臨時経費は折半』と約束したようですが、その『臨時経費』にランドセル代や修学旅行代などが含まれているかどうかが問題になります。

もし、離婚協議書の養育費を定めた部分に、臨時経費の具体例として小学校・中学校入学時の教材費用とか修学旅行費用などが書かれていれば、請求できることになると思います。逆に、それらが含まれていると解釈できない文面の場合は、請求は難しいのではないかと思います」

●離婚時、具体的に臨時費用の負担を定めておくことが望ましい

思わぬ出費に苦しまないよう、離婚時にどのように協議しておけばよいでしょうか。

「今後、養育費を定めた協議書を作る場合には、できるだけ具体的に臨時費用を負担する場合について定めておくことが望ましいと言えます。特にこのような費用は出して欲しいと思っているものがある場合は、その費目を明記しておく方が良いでしょう。

もちろん、将来の事をすべて見越して決めておくことは難しいのですが、大学や専門学校に進学した場合の学費・生活費や、子どもが病気になった場合の費用等に関する支払い約束は明記しておいた方が良いのではないかと思います。

そして、離婚にあたり養育費についての約束をして協議書を作っていても、それを相手が払わなかった場合は、その協議書だけでは強制執行などはできません。別途、調停や審判、訴訟を起こして裁判所から判決などを出してもらわなければいけません。

そのような場合に備えて、もし相手方がかまわないというのであれば、離婚の協議書を公正証書(強制執行認諾文言を入れたもの)にしたり、あらかじめ双方で合意内容を固めたうえで、裁判所に調停を申し立てて調停を成立させ、調停調書にしておくということが望ましいと言えます。

公正証書や調停調書があれば、相手方が養育費を支払わない場合は給料や貯金を差し押さえることができます(もちろん、公正証書などではない通常の協議書でも、それを作っておけば、裁判で証拠となりますから無駄ではありません)」

(弁護士ドットコムニュース)

【取材協力弁護士】
久保田 仁(くぼた・じん)弁護士
香川県弁護士会所属。平成20年弁護士登録。香川県出身。平成25年丸亀市において丸亀みらい法律事務所開設。香川県弁護士会副会長平成29年度)、日弁連子どもの権利委員会委員(幹事)、日弁連家事法制委員会委員,香川県弁護士会刑事弁護センター運営委員会委員長平成26年平成28年)、高松家庭裁判所家事調停官(非常勤裁判官)など。
事務所名:丸亀みらい法律事務所
事務所URL:http://mirai-law-office.com/

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