こんにちは。羊齧協会主席の菊池一弘です。

 羊齧協会のような羊の啓蒙活動を行っていると、「羊肉は硬い、臭い、安い」という、昔から日本で言われている間違った認識を持つ人に出会うことも多々あります。

 これは日本だけの考え方で、世界で羊肉といえば「高級なハレのごちそう肉」の地位にいます。ではなぜ、平成が終わりを迎えた今に至っても日本でこうした誤解がまかり通っているのか。2点ほど理由があるように思います。

 1)かなり以前、羊は羊毛を刈るための家畜として扱われていたため、肉はあくまで付属品扱いであり、食肉用でないので肉質も悪かった

 2)安い質の悪い肉を大量に輸入し、安く提供していた時期がある

 どちらかというと人間側の都合でこうなってしまっているわけです。

 おかげさまで「羊肉は硬い、臭い、安い」と言われる機会も年々減ってきてはいますが、こうした誤解を打破するため、積極的な「羊啓蒙」を行っているジンギスカン店があります。それが麻布の『羊SUNRISE』です。

 こちらは店員さんのあふれる知識と羊愛、国産からフランス産までそろえた豊富で質の良い肉で勇名を馳せる、羊肉業界では知らない人がいない名店です。この『羊SUNRISE』が、東京・神楽坂に羊の鉄板焼きの店を出したということで、早速行ってきました。おそらくステーキハウス系鉄板焼きで羊専門は日本初だと思います。

落ち着いた店内
落ち着いた店内

 ジンギスカンから鉄板焼きへあえて業態を変えた理由は「羊肉の旨さを伝え、ごちそう肉で高級品であること」を啓蒙する意味があるそうです。よく考えると非常に理にかなっています。

 羊肉の美味しい食べ方の基本は「厚く切る」「焼きすぎない」ことだと、多くのシェフが口をそろえて言います。まさに、鉄板焼きは「塊のままプロが焼く」ので、羊の美味しい食べ方にピッタリなのです。

圧倒的な“羊力”の波状攻撃

 今回、出していただいたお肉は「北海道上士幌産ラムサーロイン(9ヵ月齢)」「宮城県南三陸町ラムラウンド(11ヵ月齢)」「オーストラリア産ラムのラウンドステーキ」「オーストライラ産マトンのサーロインステーキ」の4種類。産地も年齢も部位も違う羊肉を一気に味わう機会は本当に貴重なので胸が高ぶります。

 そうして食べた羊肉はというと……もはや天国です。国産羊の脂肪の旨さ、マトンの食べ応え、ラムの繊細さなど、どの肉を食べても、ベクトルが違うだけで全部旨いとしみじみ感じてしまう、怒涛のラム肉波状攻撃でした。

この焼き色。つけるスパイスも自家製でこれがまた旨い
この焼き色。つけるスパイスも自家製でこれがまた旨い

 共通して言えることは、赤身の繊細さと、脂の旨さ。そして、脂分が多い部位にもかかわらず、くどくなくすっきりとした羊特有の味わい。まさに、世界のごちそう肉としての貫禄を感じるラインナップでした。

 そして、こちらのお店の特徴は、日本全国に1万7千頭しかいない貴重な国産ラムがいつでも数種類味わえること。その希少さゆえ、様々な牧場の肉を一度に食べ比べできる店はほとんどないのです。これは嬉しい。

国産ラムのラウンド。あっさりとした中に豊かな風味が広がります
国産ラムのラウンド。あっさりとした中に豊かな風味が広がります

 そのほか、羊の脂と相性が良い茨城産のレンコンジャガイモに自家製の塩辛を合わせた一品など、羊肉以外のメニューも秀逸でした。そして〆は「羊骨100%ラーメン」。羊の骨はものすごく出汁が出ますが、その濃厚な羊の旨味を活かしたスープは驚くしかありません。

羊の骨の出汁のすごさを改めて実感
羊の骨の出汁のすごさを改めて実感

 最初から最後まで圧倒的な“羊力”。羊愛のある人はさらに羊愛が深まり、羊肉がそこまで得じゃない、という人にも新しい扉が開くお店です。業界初の業態なので、伸びしろは十分。今後にも期待です。また、店長がソムリエでもあるので、羊にぴったりのワインを提案してもらい楽しむのも楽しいです。ぜひ行ってみてください!

この脂が癖としつこさがなく非常に美味。良い羊の特徴を集めて固めたような肉
この脂が癖としつこさがなく非常に美味。良い羊の特徴を集めて固めたような肉

(撮影:廣瀬達也 菊池一弘)

●SHOP INFO

店名:TEPPANSUNRISE

住:東京都新宿区袋町2 杵屋ビル201
TEL:03-6280-8153
営:17:00~23:00(L.O.22:00)
休:月曜・第1、第3日曜・年末年始・夏季
座席数:14席
https://sheepsunrise.jp/

●プロフィール

菊池一弘

羊齧協会主席。羊肉を常食する岩手県遠野市出身の父の影響で、羊肉料理に親しんで育つ。北京留学中に現地の味に触れ、その魅力に開眼し羊好きの消費 者団体「羊齧協会」を結成。本業は、イベントの開催・運営、場作りのプロとしてのアドバイザー業務などに携わっている。最近は四川フェスの運営団体麻辣連盟の幹事長も兼務。
http://hitujikajiri.com/

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