ANAが超巨大機A380ハワイ線に就航させますが、この機材の導入を過去に断念し、ANAの支援を受け経営再建を果たしたのがスカイマーク。そこから業績を伸ばし再上場を狙う同社は、A380就航を遠目に、どのような将来を描くのでしょうか。

A380導入で思い出される「スカイマーク争奪戦」

ANA(全日空)が2019年5月24日(金)、東京(成田)~ハワイホノルル)線にエアバスA380を導入します。ファーストクラスが新設されるほか、エコノミー・プレミアムエコノミークラスの1便あたり座席数は従来の2倍以上になる超大型機の登場で、JAL日本航空)が優位に立つハワイ路線の競争激化が予想されています。

A380を日本の航空会社で発注したのは、ANAが初めてではありません。実はこの機体は、「スカイマーク争奪戦の残滓」ともいえるものです。

スカイマークエアバスA380を6機発注していましたが、経営の悪化にともないキャンセル。2015年1月に民事再生法の適用を申請しました。再建計画を巡ってANAとデルタ航空がせめぎ合い、最終的に同年8月、エアバスなど大口債権者も出席した債権者集会でANAが支援する債権計画案が可決され、当初から過半数シェアの出資をコミットしていた投資ファンドのインテグラル(50.1%)、ANA(16.5%)、日本政策投資銀行など(合計で33.4%)が経営陣を派遣して再建がスタートしたことは、記憶に新しいところです。

ANA自身は否定していますが、同社のA380導入は、債権者集会でエアバスの同意を取り付けるためにスカイマークの発注機材の一部肩代わりを余儀なくされた、というのが日本の航空業界の通説になっています。

新生スカイマークは大型機材A330を全機(リース会社に)返却して、機材をボーイング737に再び統一し、わずか1年2か月で民事再生を終結させることができました。しかし、その過程においてスカイマーク経営陣、特にインテグラルから就任した佐山展生会長とANAとのあいだには、ギクシャクした関係が続いているようにも見えます。

その根源には「スカイマークは大手2社から完全に独立した『第三極』として再生する」という佐山氏の強い意思があり、ANAの国内線旅客システムである「able-D」にシステムを変更することは、実質的に経営の生殺与奪権を握られるとして、当初からANAが経営支援の前提としたコードシェアの実施を拒み続けています。

なぜ行われない? ANA×スカイマークのコードシェア

システムをANAに依存することが即、経営支配につながるというのは感覚的にはわからないこともないですが、ANAが「able-D」を改修して他社システムとの接続を可能にすれば、スカイマークの元システムのままでコードシェアは行えます(ANA側に10億円以上の改修費が発生するものの、スカイマーク側は大した額ではない)。それすら行われないのは、佐山会長がどんな形であれコードシェアを行うこと自体に拒否感を持っているからなのではないかと感じられるのです。

コードシェア自体は決して「支配」につながるものではなく、双方がビジネスライクに行えるものであることは、国内外の十分な実例が物語っています。たとえばスターフライヤーは、ANAが筆頭株主になる前から同社とコードシェアを行っています。少なくとも当時それが、「青(ANA)色になる」「恩義を受ける」との意識はスターフライヤー側にはありませんでしたし(この会社はあくまでも「黒い色」)、もしANAと決定的な対立が起き「コードシェア相手を他社に変更するとどうなるか」といった「打たれ強く生きるための頭の体操」も行っていました。

このような状況を鑑みると、再建開始時のスカイマークは出資金以外にもオペレーション、特に整備・運航面でANAの支援を受けておきながら、出資側のANAが持ちかけたコードシェアを(ANAのシステムを導入しない形でさえも)拒むというのは、筆者(武藤康史:航空ビジネスアドバイザー)には佐山氏が少し「第三極」という理念を厳格化しすぎており、ともに再建を行ってきたパートナーへのリスペクトが不十分であるように感じられるのです。経営が順調で、あえてコードシェアで収入の下支えがなくてもやっていけるという感覚はある程度理解できますが、「コードシェアの席がない」という説明には疑問符がつきます(スカイマークの2018年度の搭乗率は83.3%)。

スカイマーク「再上場」目前 企業価値をどう高める?

スカイマークには2020年までに目指している「再上場」という大きな課題があり、出資元のインテグラル自身としても、資金の出し手である投資家にリターンを返す責務を負っているため、企業価値を高めなければならない現実もあります。単にコードシェアが「ANAの色がつく」ことになり、再上場時の買い手の意欲を削ぎ企業価値を減ずることになってしまうのか、確実に数字が取れるコードシェア収入を少しでも上乗せすることで(上乗せされる売り上げはそのまま「利益」の増になる)、より大きな再上場時の企業価値向上につながるのか、将来の航空業界における環境変化への事業耐性としてコードシェアが機能しないのかなど、もう少し議論の余地があるのではないでしょうか。

一方、スカイマークの再上場については、好調な業績からみて、2020年を目途とする当初計画を遅滞させることなく実施できると思われますが、それに際してひとつの複雑な要素があります。

スカイマークの再上場時には「インテグラルの(一部)イグジット(株を売却して投資を回収すること)」と、「新たな第三者割当増資」が行われると見るのが自然です。最大の眼目は、これらが行われてもどうやって「インテグラルの持株比率を過半数に維持するか」「そもそもイグジット後もインテグラルは過半数維持を目指すのか、それが必要なのか」という問題です。

ANAと金融機関側の持株数が変わらないとすれば、インテグラルがスカイマークの経営を支配しつつイグジットする選択肢は極めて限られてきます。「厳格に第三極を貫く」という経営方針に同調し、インテグラルと合わせて50.1%を維持することに同意する投資家にのみ株式を売却することがまず考えられますが、株式公開直後はロックアップ(株価下落を防ぐため現株主が株式を売却できない期間)がかかるため、先に行われる第三者割当増資を誰にどう実行するかが重要になります。

再建時のインテグラル、ANA、金融機関のあいだの投資契約がどうなっているかは、外部からはわかりませんが、いきなり競合会社や外資が投資家として参入するようなことは考えにくく、増資後の株主シェアの変化がどうなるのか注目されるところです。

国際線計画「サイパン重視」への懸念

インテグラルの立場(投資家を含む)からすれば、会社の価値を市場価格より上に持っていくには「過半数の株式で持ち会社を支配できる」「筆頭株主になって経営をリードできる」などの付加価値をつけ「塊」として高値で売却することが、一般論としてはベストな判断でしょう。しかし、そこに佐山氏の航空会社経営への思い入れがどれだけ入る余地があるのか(スカイマーク会長としての立場を維持したいのか)、投資会社としての価値判断が問われることになります。

それとともに、スカイマークとして世の投資家の共感と期待を得られる経営計画、路線計画をどのように打ち出すのかも、再上場の成否の大きな要素となります。現在はデルタ航空が撤退したサイパンをはじめとする国際線への進出をその基軸にしたい考えといわれますが、インバウンド(訪日観光客)需要が全く期待できないほぼ日本人のみのマーケットであり、旅行先としてずっとグアムや沖縄との競合、消耗戦が続くサイパン路線への進出は、かえって将来リスクを抱えることになるのでは、との見方も絶えません。

筆者としては、国際線ならばインバウンドの成長がまだまだ眠っている中国本土への展開、それ以前に、国内線で36もの羽田発着枠を抱えるスカイマークの優位性を最大化するには、かつて破綻の原因となったA330を国内幹線にモノクラス(もしくは2列程度のプレミアムエコノミー席もあり)で再導入することが最適解ではないかと以前から考えていますが、スカイマーク経営陣はどのような「プランB」を用意しているのでしょうか。

【写真】超大型機A380のコックピット

スカイマークが発注をキャンセルしたA380初号機。2014年には初飛行していた(画像:Airbus)。