2019年4月23日、中国は海軍創設70周年を祝う大観艦式を青島沖で開催した。

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 中国初の空母「遼寧」、最新鋭の055型大型駆逐艦、094型弾道ミサイル原潜(SSBN)など艦艇32隻、航空機39機が参加するという盛大なものである。

 中国は10年前の2009年にも海軍創設60周年記念の国際観艦式を実施しているが、当時の中国海軍がまだ空母を保有せず、その他の艦艇も西側諸国に比べて性能面で見劣りするものが多かったことを考えると、その成長ぶりにはまさに隔世の感がある。

 あいにく天候には恵まれなかったものの(濃霧で参加艦艇がほとんど見えなかった)、中国の海軍力に世界の耳目を集めたという意味で、政治的には成功と評していいのではないか。

 ところでこれと同じ4月23日ロシアウラジーミル・プーチン大統領は自身の出身地であるサンクトペテルブルグを訪問していた。

 同地に拠点を置くロシアの主要造船所の一つ、「北方造船所」でロシア海軍向け新鋭艦の起工式に立ち会うためである。

 今回、プーチン大統領が視察したのは、ロシア海軍が次世代主力戦闘艦として配備を進めているアドミラル・ゴルシコフ級フリゲートの5番艦と6番艦で、それぞれアドミラル・アメリコ、アドミラル・チチャゴフと名づけられた。

 1~4番艦に比べて巡航ミサイルなどを収容する垂直発射管の数が1.5倍に増加し、打撃力が強化されていると国防省の機関紙『赤い星』は伝えている。

 さらにプーチン大統領は、テレビ会議形式で(国土が広大なロシアではテレビ会議が多用される)、新型特殊原潜ベルゴロドの進水式と新型揚陸艦2隻の起工にも立ち会った。

 ベルゴロドは昨年3月にその存在が公表された原子力核魚雷「ポセイドン」の搭載母艦第1号であるとされ、艦尾のごく一部を除いて詳しい形状などは明らかにされていない。海軍への引き渡しは2020年とされている。

 青島での観艦式に隠れる形になったため、以上の動きは広く一般の注目を集めたとは言い難い。

 また、中国が新型空母や巡洋艦相当の大型水上戦闘艦艇を次々と建造しているのに対し、今のところロシアが起工している新型水上艦艇はフリゲートまでであるから、注目度が一段落ちるのはやむを得ないだろう。

 ただ、長期的な日本の防衛力を考えるうえで、昨今のロシア海軍の近代化は無視しがたいものがある。

 第1に、太平洋艦隊は北方艦隊と並んでロシア海軍の中でも特別の地位を占めている。

 ロシア海軍を構成する4個艦隊・1個独立小艦隊の中で、この2艦隊だけが原子力潜水艦を運用していることがそれである。

 太平洋艦隊の場合、原子力潜水艦はカムチャッカ半島のペトロパヴロフスク・カムチャツキーに集中配備されており、この中には弾道ミサイルを搭載したSSBNも含まれる。

 したがって、オホーツク海から北太平洋にかけての日本北方海域は、ロシアの核抑止力を担う戦略的エリアと位置づけられており、近年では最新鋭のボレイ級SSBN2隻が配備されたことでその価値はさらに高まっている。

 しかも、ロシア海軍は前述したベルゴロドのような原子力核魚雷搭載原潜を最終的に4隻程度整備するという観測があり、通例で言えばその半数程度は太平洋艦隊配備となる可能性が高い。

 ロシア原子力核魚雷がどれだけ実戦的な兵器であるのかは依然として議論が分かれるところではあるが、新鋭SSBNの配備と併せて、日本北方海域は今後ともロシアの戦略兵器配備地域にとどまるだろう。

 このことは、オホーツク海に向けて突き出した北方領土の戦略的意義が、今後とも低下しないであろうことを意味している。

 オホーツク海はSSBNのパトロール海域であり、北方領土はこの海域を太平洋側から隔てる列島線の最南端に位置する。

 特に国後島と択捉島には大規模なロシア軍部隊が駐留し、近年では新型地対艦ミサイル戦闘機の配備による軍事力近代化も進む。

 純軍事的に言えば、核抑止力の防衛ラインである両島を手放すことは受け入れ難いだろう。

 他方、政治の論理はこうした純軍事の論理を時に上書きする。

 2001年の米国同時多発テロ後、プーチン大統領が軍部や情報機関の反対を押し切って米軍の中央アジア展開を認めたことなどはその一例である。

 ただ、当時のロシアは現在と比べてはるかに弱体であり、発足したばかりのプーチン政権も対米関係の改善を重点目標としていた。

 現在のロシアが、米国の同盟国である日本に対してこのような態度に出てくるという見込みは期待薄であろう。

 むしろ、純軍事的に重要であるがゆえに領土の返還には軽々に応じられないとして交渉のハードルを上げてくる可能性の方が高いし、ロシア側は実際にたびたびそのような態度を示している。

 2016年に来日したプーチン大統領が記者質問に答える中で、「ウラジオストクとその北方の海軍基地」に触れたことは記憶に新しい。

 「北方」がカムチャッカ半島の原潜基地を指すことは明らかである。

 第2に、ロシア海軍は陸上に対するパワープロジェクション(兵力投射)能力を急速に向上させつつあることが指摘できる。

 2015年以降のシリア介入作戦において、ロシア海軍は水上艦艇や潜水艦から発射されるカリブル巡航ミサイルで地上目標をたびたび攻撃しているが、これは従来、米国や一部の西側諸国だけが有していた能力である。

 他方、これまでのロシア海軍は、洋上で米原潜や米空母と戦うことを念頭に置いたソ連式装備を引き継いでいたため、地上への攻撃能力は極めて限られていた。

 しかし、前述したアドミラル・ゴルシコフ級フリゲートを初めとして、最近のロシア海軍艦艇は軒並み巡航ミサイル発射能力を備えるようになっており、旧式艦も同様の能力を備えるべく順次改修を受けている。

 これは太平洋艦隊も例外ではなく、ゴルシコフ級も何隻かは極東に回航されることになろう。

 極東正面において日米の海軍力が圧倒的な優勢にあることを考えれば、これら新型艦艇の太平洋艦隊配備は直ちに極東の軍事バランスが崩すような性質のものではない。

 しかし、防衛力整備構想は、変化しやすい「意図」よりも、変化しにくい「能力」を基礎として構想されるのが常である。

 北方の脅威は大幅に低下したという従来の前提は今後、一定の修正を余儀なくされよう。

 冷戦期の極東において、日米に深刻な脅威を及ぼしうる海軍力はソ連太平洋艦隊にほぼ限られていたと言ってよい。

 他方、ソ連崩壊後のロシア太平洋艦隊は質量の両面で脅威度を大きく低下させ、この間に中国海軍が急成長を遂げた。

 ここでロシア太平洋艦隊が一定の戦力回復を遂げると、(2正面とは言わないまでも)1.5正面程度を想定した戦略を構想しておかざるを得なくなる。

 例えば、南西方面で中国海軍主力と交戦しつつ、北方においてはロシアの海空軍に対して抑止力を維持し続けるようなシナリオである。

 今後、防衛予算の大幅な増加が望み難い状況下で、いかにして「1.5正面」戦略を現実のものとするのかは真剣に検討されてしかるべき課題であろう。

 この意味で、中露の軍事的接近がどこまで進むのかは、我が国にとって死活的な関心である。

 地政学的な関心エリアが大きく異なる両国が同盟を組むことは考えづらく、一方が日米との武力紛争に陥った場合に他方が軍事的支援を行うようなレベルに達しないであろうことは確かである。

 他方、この種の相互防衛に至らないレベルにおいては、両国の軍事協力関係は大方の予想を超えるレベルに進展しつつある。

 特に2018年の東部軍管区大演習「ヴォストーク2018」に中国人民解放軍が少数ながら参加したことは、非常に象徴的である。

 「ヴォストーク」演習は対中戦争が想定の柱であると見られてきたためだ。

(ただし「ヴォストーク2018」でも中国を意識したと思われる訓練は依然として観察され、中露が軍事的に一体化を遂げたというにはやはり程遠い)

 ちなみに本稿冒頭で触れた青島での観艦式には、ロシア海軍北方艦隊に所属するゴルシコフ級フリゲートの1番艦アドミラル・ゴルシコフが参加した。昨年就役したばかりの新鋭艦である。

 海上自衛隊もやはり新鋭護衛艦「すずつき」を派遣しており、ちょうど本稿で見てきた日中露の海軍力がそれぞれ顔を揃えた形となる。

 願わくば今後も一緒に観艦式をやれるぐらいの関係でありたいが、そのためにはいかにして現状のパワーバランスを維持するのか。真剣な検討が求められよう。

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