米中貿易戦争は長期化の様相を見せ始めている。米中両政府は2018年12月の首脳会談で貿易戦争の「休戦」で合意し、米中で交互に閣僚協議を続けてきた。

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 ドナルド・トランプ大統領2019年4月上旬の閣僚協議の際、米中が合意できるか「今後4週間で分かる」と発言した。

 もし閣僚間でまとまれば合意文書の詳細を詰めたうえで、5月中にも首脳会談を開いて署名する可能性があると報じられている(『日経新聞電子版』2019年4月24日)。

 しかし、米国が課した追加関税の扱いなどをめぐり対立点は残っており、米中首脳会談までに溝が埋められるかは微妙な状況にある。

 米中貿易戦争の根底には、米中間の覇権争い、特に軍事、民生両面の今後の発展を左右する、最先端通信電子分野をめぐる対立がある。

ZTE制裁に対する中国側の深刻な危機感

 2018年8月に陳芳、菫瑞豊編著『中国チップ産業の分析―中国チップ産業の競争と攻囲突破―(陈芳,董瑞丰编著『”芯”想事成: 中国芯片产业的博奕与突围(Deciphering China’s Chips Industry)』北京、人民邮电出版社,2018年8月)という本が出版されている。

 この本が出された背景には、米国が突然仕かけた対中経済・技術戦争に対する中国側の深刻な危機感がある。

 同書の「前言」では、2018年4月16日に米国商務省が、中興通訊(Zhongxing tongxun: ZTE株式会社(股份))に対して、突然制裁命令を宣告したことを冒頭に挙げ、これほど、中国の「チップ(芯)」産業が生死をかけた速度を競う場となり、緊迫した時はないと危機感を表明している。

 また、米国の狙いは、世界第4位の通信設備製造企業を狙い撃ちして、一撃で打倒しようとすることにあると、非難している。

 さらに、ZTEの事件は孤立したものではなく、このような事件は今後も起こるとし、その背景には、中国のチップ(芯)が戦略的な競争の場において唯一最大の重圧がかかっている点だからだと指摘している。

 そのような観点から、「我々は、幅広くグローバルな視野と歴史の大きなトレンドに立脚して、観察しなければならない」と、本書の目的を明確にしている。

 特に、チップ技術は現代の工業化と情報化の社会における基礎をなすものであり、この「首根っこ」となる技術を押さえられるわけにはいかず、自主開発が不可欠であると強調している。

 また、以下のような警告も発せられている。

 「日進月歩の技術進歩がなされ、膨大な工業システムに直面している現在では、一人の『技術英雄』が出ても優位に立つことはできない。過去数十年間で企業の生産条件も組織も深刻な破壊を受けてきた」

 「産業の発展は科学の法則に背き、そのうえ国際的な技術の封鎖と移転禁止もある。我が国のチップ産業の基盤は分散的であり、手工業的な生産態勢であり、国際的なレベルとの格差を縮めるのは容易ではなく、その格差は正に拡大する趨勢にある」

 「技術進歩はたちまち覆り、ひとたび後れをとると、たちまち大きく引き離されることになる」

 このように中国の現状認識はきびしく、まだまだ基盤は脆弱で、生産態勢も遅れており、ここで後れをとると、また大きく引き離されるのではないかとの危機感が高まっていると言えよう。

日本の轍を踏むまいと警戒心強める中国

 中国は、日本の轍を踏むまいと、その教訓を学ぼうとしている。特に、30年前の日本の立場と現在の中国の立場は類似しているとみている。

 日本は当時、米国に対する最大の自動車輸出国であった。このために米国の自動車産業では1980年代初めに6万人の失業者が生まれ、五大湖周辺地区は「ラスト・ベルト(錆びついた地帯)」になった。

 日本のチップ産業も急速に台頭し、インテルの製品価格は下落し財務状況が悪化した。1986年には世界の半導体企業の売上高上位3社は、NEC、日立、東芝の日本の3社が占めた。

 このような状況に対し、米国は日本を「経済的脅威」ととらえ、保護貿易主義の傾向を強め、対日貿易制裁などの手段をとるようになった。

 1980年代に入り日米貿易摩擦は激化し、米国は日本に対し、24回にわたり「通商法301条違反」による制裁手段をとるなど、日本製品に対する圧力を強めた。

 「東芝事件」も起こり、東芝は対共産圏輸出規制委員会による禁令違反に問われ、150億ドルに上る罰金通知と5年間の対米製品輸出禁止などの懲罰が東芝に課せられた。

 日本は、軍事外交面で米国に依存し、輸出先としても米国が重要であったことから、日本政府は「対米輸出の自主規制」と日本の国内市場の開放を選択した。

 その結果、日本の産業の発展は停滞した。

 日本は東芝事件から米国の怒りに触れることを学んで以降、半導体の対米輸出を自主的に制限し、「米国の半導体の日本市場における占有率を20%以上にする」との取り決めを行い、研究開発と投資は抑制され、日本の半導体産業は衰退の道を辿った。

 チップ産業について言えば、世界の半導体企業の上位10社のうち、日本企業が1986年には6社が入っていたが、2005年には3社に、2016年には東芝1社のみとなった。

 このような日米貿易摩擦の教訓から、中国は本書で以下のような結論を導いている。

 「米国の問題解決の枠組みは、個人と企業を攻撃して各個に撃破し、その全般的な解決を速めるというものである」

 「その成功体験に基づき、米国の政府と企業は中国に対して今回も、中国の半導体と通信領域での進歩を抑制するとの戦術を採用した」

 「米中間で現在進展していることは、未来に向けての覇権の争奪である。米国は、今回の摩擦により輸入超過を縮めることを望んでいるのではなく、中国の半導体と通信分野での競争力を萌芽のうちに摘んでしまおうとしているのである」

 中国は、米国の「保守」化傾向から見て、チップを代表とする情報安全保障の支配権争奪は激化しており、その背景にはネットワークの安全保障と未来の経済の主導権をめぐる争いがあるとみている。

 また競争激化の要因として、世界がグローバルなデジタル化時代に入っており、米、独など各国が製造業の振興と人工知能などの発展戦略計画を次々に表明し、経済発展と産業力の向上と言う、共通の目標を追求していることがある。

 それに対抗し中国も「中国製2025」を制定したが、強制的なものではなく、投資と技術の新たな方向性を示すものであるとしている。

 また国家安全保障上の要求も重視している。

 ウィキリークスの事件やイランの原子炉施設がサイバー攻撃を受けた事件が示しているように、革新技術が人に制せられ、情報が他者により監視統制されるようになれば、国家安全保障の「首根っこ」を完全に他人に牛耳られることになるとの、警戒感を露わにしている。

 特にトランプ政権の、今回のZTE制裁などの伝統的な保護貿易思想への転換は、経済、産業および国家安全保障面での保護主義に基づいてなされているとみている。

 製造業の競争力の中核に対する絶え間のない圧力が、今後中国が常に直面する重要問題となる、ZTEの事件も米中貿易摩擦もすべて、その先ぶれに過ぎないとみている。

 今回の制裁により、2018年上半期の中国の対米投資額は前年度同期比で90%下落し18億ドルにとどまった。

 世界の多くの経済学者政治家は、貿易戦争の発動は一時的なものとみているが、米中貿易戦争については、本書は、先行きを予測しがたいとみている。

 エスカレートしても交渉を通じて徐々に緩和に向かうとの楽観論もある。

 しかし、米中の経済的な実力の盛衰は経済と貿易の競争を激化させ、貿易摩擦も厳しさを加え、いずれ金融、経済、資源面などでの戦いとなり、米国は貿易、金融、為替、軍事など全方面で中国の台頭を抑制しようとするであろうとの悲観的な見方もあるとしている。

 本書の内容からみて、中国の本音は悲観論にあり、米国からの最先端情報通信技術と製造業に対する圧力が今後も長期にわたり続くとの、強い警戒感を表明していると言えよう。

 中国はかつての日米貿易摩擦の教訓を分析し、米国の手法とその戦略的な狙いを分析している。中国は日本と異なり、安全保障を米国に依存していないため、より強硬な対応をとる余地がある。

 半面、経済、技術面における成熟度に乏しく、自力による研究開発力、市場開拓力に制約があり、その対抗戦略が実効性を持ちうるかは不透明である。

中国のチップ産業育成政策と
米中貿易戦争への対応に関する有識者の見解

 中国にとり最先端の通信情報産業の育成は何よりも国防上の要求に基づいている。

 例えば、スーパーコンピューターについて、「国防の安全保障、流体力学上の計算、核兵器の研究などの領域に決定的な影響を与えるものであり、しばしば国家の科学技術力のシンボルの一つとみなされる。演算速度が向上すれば、スーパーコンピューターの応用の効果はさらに拡大し、すでに現在の世界の大国間の争奪の戦略的制高点の一つになっている」と述べている。

 枢要な情報基盤設備の自主的で安全な創新に備わるべき要因として、以下の「核心的な3要素」を挙げている。

CPUの研究・製造部門が安全保障上の秘密保持の要求に合っているか
CPUコマンドシステムが持続的な自主的発展を可能にするか
CPUソースコードを自ら編纂できるか

 龍芯CPUを開発した胡偉武龍芯社総裁は、「我々はいかにして自主的なプロセッサーの研究開発を進めるか」について、海外からの技術導入と外資導入は経済発展にとり重要だが、自主開発による科学技術の学習の緊要な意義にはとって替われないとし、自主的な研究開発・製造・投資の必要性を強調している。

 また華為創設者の任正非は、「創新なしには、高度科学技術の業界の中で生き残ることはほとんど不可能だ。この領域では、息をついている暇はない。少しでも後れをとれば、そのことはやがて死に至ることを意味している」と述べ、絶えざる投資と技術革新の必要を強調している。

 2016年には華為は15カ国に研究開発センターを設立し、グローバルな技術的資源の利用を容易にするとともに、これらの研究所を通じて、世界中からトップクラスの人材を吸収している。

 華為の2017年の売上高は6036億元、研究開発投資額は897億元であり、研究開発費にはその14.9%が投じられている。

 しかし華為は創新のための創新には反対している。

 任正非は「技術を使用するかどうか、いつ使用するかを決めるには、顧客の声を聴かねばならない。半歩先を切れば先頭に立てるが、三歩先んずれば革命烈士になれる」と述べている。

 またリスクをとることの重要性も指摘している。「小さな馬が大きな車を引く」ことは、車馬ともに覆りパソコン市場から退場させられるリスクを犯すことになるが、華為はそのような冒険を犯して巨大な報酬を得た。

 華為には自ら製造できるチップがあったため、研究開発と製造のコストはさらに下がり、価格交渉でも強い立場に立て、資金供給力も上がった。

 華為発展の秘訣は、華為の「海思」チップでも自主創新の部分がかなり高度になっていたことと、「導入、吸収、消化、創新」というモデルが国際的な技術進歩の流れに適合していたことにあったとしている。

 華為の手法は、「まず一銃を撃ち、次いで一砲を撃ち、しかる後に膨大な弾量の砲弾を集中的に撃ち込む」というものである。

 まず、科学的な研究開発により「一銃を撃つ」。それにより、将来の不確定な技術の進展に探りを入れる。

 探ってみて失敗がなければ、次に「一砲を撃ち込む」道を求めて、小集団による研究討論を行う。それで、「突破口」が見つかれば、そこに「膨大な弾量の砲弾」を集中的に撃ち込む必要がある。

 このように、華為の成功例に基づき、研究開発を通じて可能性を探り、次いで討議を重ねて実用化への突破口を求め、それが見つかれば突破口に資源を集中投入するという、研究開発・実用化手法を奨励している。

 また中国には、対共産圏輸出統制委員会の規制という問題もあった。そのため、例えば1980年代末から90年代には、米英日などからの技術移転や製品輸出は止められていた。

 当時、「中国企業は、極めて高価な数少ない末端の製品を導入し、透明な仕事場に据え付け、仕事場の鍵は米国からのプロジェクト管理者の統制の下に置かれることを余儀なくされた。このように、他人の監視統制の下で高性能のコンピューターを使わざるを得なかった」としている。

 この対中輸出規制も中国に国産化を急がせた要因になっている。

 中国は1990年には毎秒の計算速度1000万回のコンピューターしかなく、米国から大きく遅れていた。1992年に研究開発組織がつくられ、200万元を投入し、「曙光1号」の自力開発・製造方針を決定した。

 そのためにまず日本に行き、当時の「第五世代コンピューター」を学習しようとしたが、調査研究の結果、その方針はとらないことになった。「第五世代機」がその後とん挫したことから見て、その判断は正しかったと評価している。

 中国の当時の困難は、一つの部品や些細なソフトウエアの不備から、研究開発全般が半月から数カ月も遅れることにあった。

 研究開発を加速するため、研究開発組織に、6人の科学技術者から成る小分隊をつくり、米国のシリコンバレーに送った。

 彼らを研究開発に没頭させて、高速演算可能な高性能コンピューターの開発を急がせるため、留学生の宿泊する部屋に機械設備を据え、応接室をそのまま作業室にし、寝室にはベッドもなく床で寝起きさせた。

 その結果、1年後には「曙光1号」は同類の数年前に導入した外国製コンピューターの5倍の性能を達成した。

 このように、懸命の自主開発努力が続けられた。

 巨額投資の趨勢は近年ますます顕著になっている。2018年紫光国芯集団は紫光国微集団に社名を変更し、18.7億元と9.07億元を投じて展訊通信と鋭迪科微電子を買収し3大パソコンチップ企業の一つになった。

 また25億元を投じて新華の3グループを買収し、世界第2位のネットワークの製品とサービスの会社となった。

 「自主創新+グローバルな協力」こそ、紫光集団が世界的なチップ企業に急成長した原動力であるとしている。

 また人材の発掘と育成にも力を入れている。AIチップを開発している陳雲霽、陳天石兄弟は、外国から「神童」と呼ばれる天才である。

 兄の陳雲霽は14歳で大学に入学し、29歳で博士課程の指導教官になり、中国科学技術大学の少年班卒業後は外国人から「神童」とみられていた。

 弟の陳天石も同様の天才であり、2人は2016年に武紀科技を設立し、AI用チップの核心技術の研究開発に取り組んでいる。会社の市場価値は2018年には10億ドルに達している。

 外国人には天才に見えるが、陳雲霽自身は科学技術大学の少年班でも成績は良くなかったし自分は天才ではない、ただ兄弟2人で同じことを共に学びあい、夢の実現を追求できたことが幸運だっただけだと述べている。

 以上の、通信情報産業の発展に貢献してきた有識者の見解に基づき、米中貿易戦争に対していかに対応すべきかについて、以下のようにまとめている。

 今直面している問題点として、以下の3点が挙げられている。

①中国と強国との間には数世代の格差がまだある、強国から「我々が提供するから中国自ら開発・製造する必要はない」と言われても、中国の企業は自から研究開発、製造、設備更新をしないわけにいかないこと

②奨励と激励の制度に対し、科学技術者の関心が薄いこと

③AIの細密化、大容量化に対応する基礎理論の問題に対する力が不足していること

 人材の獲得という点について、当初は改革開放により米国の中国系学者などの下に派遣されていた若い中国人留学生を呼び戻し、研究組織の指導者にしたことが挙げられている。

 その代表者として、コンピューターチップの研究開発のため「曙光」会社を設立し経営者となった李国杰が挙げられている。李国杰等は帰国後も米国の研究者と交流を維持して最新技術の導入に努め、初期の研究開発の中心となった。

 李国杰は以下の点を強調している。

 「国家が責任を負い、果敢にリスクをとるという創新精神を継承することが重要である。高度科学技術自主開発の旗印となった863プロジェクトでは、国産高性能コンピューター「曙光1号」の開発に200万元を投入することが決定され、その開発成功をもたらした」

 また次のように警告している。

 「最先端技術の研究開発に従事する者は、小さな成功に甘んじてはならない。特に情報産業分野ではコンピューター産業の規模はますます拡大し、従事する人員も増加している。技術的な細かな改良に甘んじて、広大な市場を判断し未来を洞察する力に欠けるようなことがあってはならない」

 「科学技術の評価制度ではややもすると数字化による評価が強調され、『木を見て森を見ない』科学技術者を生むことになりがちだ」

 中国のチップとそのコントロールシステムの草分けとなった、中国工程院院士の倪光南は、中国のチップ産業が越えねばならない2つの「大山(大きな課題)」を挙げている。

 「一つは、チップの製造面での資金が極めて不足していることである。現在は、10年間継続して資金投入をして10年後からようやく利益が得られるという状況になっている。資金不足が続けば、中国のチップ製造業が向上することはなく、レベルは低いままにとどまるだろう」と警告している。

 もう一つはソフト面での「大山」で、「チップとそのOSの基礎を構成しているのは大量のソフトウエア・システムであり、そのための大量のアプリケーションソフトが必要とされる。典型的な例は、アップルiOSシステムグーグルアンドロイドである。

 このようなネットワーク環境面の問題点は、一度形成されると変えるのが極めて困難になるという点にある。強いものはますます強くなり、独占的な地位が固められる。

 仮にチップが使用されるようになっても、ネットワーク環境のシステムの変更が伴わなければ、長期的な発展は望めない」と述べ、独自のネットワーク環境、特に独自のOS開発の必要性を訴えている。

 龍芯中国科技の創設者である胡偉武も、情報産業は自らのネットワーク環境を創り出さねばならず、そのためには自らがコントロールできるシステムの創造に着手する必要があるとしている。

 胡偉武は、龍芯が過去10年間に歩んできた次の3本の道を挙げている。

①市場化の道を学究派を創る道としてはならない。龍芯は企業主体の方針を堅持し、学究派を別に創らず、百名の基幹技術者は内部の辞職者から募った。

②自主研究開発は技術導入によりとって替われない。龍芯は、核心技術は自らの掌中に収め、導入に頼らないとの方針を堅持してきた。困難なことは長期にわたり核心技術を堅持し続けることである。特に複雑なシステムでは、産業化実現の過程において、絶えず核心技術を発展させ変化させねばならなかった。

ネットワーク環境の整備は製品を創ることにより取って替われない。龍芯は常に、自主的なソフトウエアによるネットワーク環境を創るとの方針を堅持してきた。

 また胡偉武は龍芯はいま3つの問題に直面していると指摘している。

①中国には汎用CPUを研究開発し製造する必要があるのか。これまでは高性能プロセッサーの開発に力を入れてこなかった。これからはやらねばならない。

②中国には汎用CPUを研究開発する能力があるのか。高性能プロセッサーは最も枢要なものであり、かつ設計の困難なチップである。2005年に米国は報告の中で、「中国はすでに世界一流のプロセッサーを設計することができる。龍芯2号の設計は、中国が世界の他のどのプロセッサーの能力よりも優れたものを生産する準備ができていることを語っている」と評価している。

③龍芯のCPUは売れるのか。龍芯の会社の業績はますます上がっており、2年連続で50%以上増加した。2015年の売上高は1億元を超えた。龍芯のCPUは計画経済内の体制内企業から私企業など体制外の企業にますます多く買われるようになっている。

 このように龍芯が直面している問題はいずれも克服可能と、強気の見通しを胡偉武は示している。

中国コンンピューター学会の提言

 中国コンピューター学会は、ZTE事件の本質を踏まえ、中国のチップと基礎的なソフトウエアと産業のネットワーク環境の仕組みが採るべき措置について討論し、以下の結論を提示している。

①グローバルな環境下での、中国の集積回路とソフトウエア産業に対する構想を明確にする必要がある。

 グローバル化時代では、我々は国際市場のルールを遵守し、積極的にルールづくりに参加する必要がある。国際競争の過程において、発言権と制度を覆す能力を得るために参加することは、グローバル化時代において、サプライチェーンの安全を保護するための根本的な解決策である。

②政府と企業はともに、サプライチェーンの安全意識を確立しなければならない。

 ZTEの事件は、孤立した事件ではなく、その他の業界と分野にも類似した危機がありうることを示している。このような危機が現実になる前に、我々は速やかにサプライチェーンの安全保障管理の仕組みを打ち建てねばならない。

 企業には自らのサプライチェーンにある弱点を検査する専門部門を創らねばならない。単一の供給源に依存している物については、企業に速やかに自主的な研究開発をさせねばならない。

 同時に政府は、システム全般構想の設計を行い、産業のサプライチェーンの安全保障についての整合された措置リストを創り、弱点に対して資金を投入し、合理的指導を行わねばならない。その際に企業に自力開発・製造に努力させ主体性を発揮させねばならない。

③中国は後発の新興国家である。その優勢を高めるためには工夫する必要がある。

 後発国家として先発国家の技術の独占を打破しなければならないが、それは極めて困難である。チップと基本的なソフトウエアの分野では、インテルなどの米国本土の企業が揺るがしがたい独占的地位を築いている。

 中国は自らの優位性を十分に発揮し、新興産業と垂直領域において、チッププラットホームの技術でのブレークスルーを成し遂げねばならない。

 例えば、AIのチップなどの新領域で、まだ独占的地位の大企業が形成されていない時に、国外企業が同じ路線上で展開している競争で打ち勝つ必要がある。寒武紀などのAIチップ企業はその例である。

 中国自身がすでに備えている垂直的な領域における優勢、すなわち中国自身の産業の規模と市場規模の優勢を十分に利用して、弱点を補完しなければならない。アリババシャオミはその例である。

 新興領域と優勢な領域とで国際的な大企業の技術独占を打破できれば、制度を覆す能力ができ、グローバル環境下で中国の高度技術産業のサプライチェーンの安全保障のための重要な解決策が得られるであろう。政府はこのような発展の趨勢を鼓舞し、指導し支持するべきである。

 以上の認識に基づき、問題を根本的に解決するための、健全な事業環境の構築の必要性を、以下のように訴えている。

①国家は、的確な政策による誘導と合理的な全般システムの設計をしなければならない。

 かつて中国は、チップソフトウエアの領域での、長期の全般的な戦略的計画が欠け、産業政策も短期的な行動に注意が向けられていた。これは、功を求めるのに急で目先の利益を追うという、業界の浮薄な風潮の表れでもあった。

 創新科学技術項目についても、協調と統制管理の仕組みが欠け、指導権が分散し監督が重複していた。

 知識産業の保護が重視されず、基礎研究と革新技術の研究開発の基礎に注意が向けられないようでは、未来主義とは名ばかりで、実際上は科学者と企業家の創新への熱情を抑制することになる。

 この問題の解決には、持続的で穏当な長期的視野に立った産業発展政策が不可欠である。

②基礎研究と人材の育成のための良好な土壌を創らねばならない。

 中国のチップと基本的なソフトウエアの分野に投入された資金は遅くかつ少なかった。資金は、理想的な効果を上げるのには程遠く、基礎研究と人材育成にとっては、はなはだ不足していた。チップと基本ソフトは外国の拠点に主に依存し、技術と人材の流出は避けられなかった。

 学術上の評価基準についても一律ではない評価標準と体系を創らねばならない。もしも人材に対して公正な評価を与えられなければ、優秀な人材を引き留めておくことができない。人材が無ければ、競争力のある集団を創ることも、創新も、核心技術もできない。発言権も産業の安全保障も意味がない。

③工業界と学術界は緊密に連携しなければならない。

 チップと基本的なソフトウエアの科学技術における自らのルールを創新し、その中の重要なルールとして、創新の成果に釣り合う工業の基礎の拠点を創ることが必要である。

 工業の基盤となる拠点がなければ、創新の成果も市場での競争力にはならない。いつまでも単発の技術突破を望み、関連産業全般にわたる各分野の要点における技術進歩の調和を軽視すれば、創新の土壌は失われてしまい、健全な業界の事業環境について論じても意味がなくなる。

 工業界と学会が緊密に連携し、政策の誘導、人材の評価、資金の投入などの面でも、チップと基本ソフトの業界の、科学技術創新における独自のルール作りを、強力に提唱していかねばならない。

共同体全体としての財源開発活動をさらに重視しなければならない。

 OSなどの基本ソフトプラットホームの分野では、ソフトウエアの収入増と業界全体としての財源開発が重要なテーマである。

 中国の業界の習慣では、業界全体としての財源開発の必要性に対する認識度は低い。企業は業界全体の財源開発に関心はなく、自社の核心技術が競争相手に利用されることだけを心配している。

 他方では、開発されたソフトウエアを使用する際に開発者の承認を得ようとせず、他社には自社の核心技術について話そうとしない。

 これらの態度はともに誤りであり、業界全体としての財源開発は、産業の事業環境にとり重要な構成分野であり、財源開発とソフトウエア製品の開発への貢献は、創新活動の一部である。

 専門家は、企業に財源開発を呼び掛け、科学技術項目の財源開発を推進し、財源開発の地位を向上させ、企業と学会は、業界としての財源開発を主導することを通じて、グローバルな創新の資源を開発することを自らの仕事としなければならない。

 以上の認識に基づいて、中国コンピューター学会は、同学会公共政策委員会の名前で、以下の4つの提言を行っている。

チッププラットホームの中長期の発展計画を制定し、総合的、戦略的かつ先見性のある業界の発展戦略を制定すること。計画の制定は、科学に従いこの二つの核心技術を推進し、産業の事業環境の安全を保障し、「首根っこをつかまれる」状態を打破するものであること、これが計画実施の最も基本的な目標となる。

②科学、技術、産業と人材育成にとり健全な全般環境を創るが、その中でも、人材を育成しそれを組織化して人材集団を創ることを最重視すること。学会と工業界の連携を推進すること。投資項目は、多数の管理権が重複することを避け、各項目の責任者を明確にし、責任を負う制度を実行すること。

③サプライチェーンの安全保障について議事日程に載せ、政府は産業全般の角度からサブライチェーンの安全保障について対策を考え、企業が自らのサプライチェーンの安全性についての評価制度を打ち建てるのを指導すること。

④科学的な管理革命の「目に見える手」を使い、政府の調達や減税を利用して、ハイテク産業に対し実のある支援をしなければならない。それと同時に、「見える手」を用いて、垂直的分野の優勢な業種と劣勢な業種の調和をとり、優勢な業種を通じて劣勢な技術の発展を推進し、弱点を補完すること。

 以上が中国全国コンピューター組合の提言である。

 最後に、全般を通して、以下のように、自主技術開発の必要不可欠なことを再度強調している。

 「貿易摩擦、ZTE事件、華為に対する封止など、2018年は歴史的な進展の中でも特別な意義を持つ転換点だった。これらの動きの本質について3カ月間、(上に述べた)様々の識者の見解を聞き検討した」

 「その結果言えることは、この米中貿易戦争の本質は、技術と市場をめぐる競争にあり、米国は矛であり、攻める側であり、中国は盾であり、守る側であることにある」

 「ただし、最終的な技術は市場に提供されて初めて高額の利潤を獲得でき、継続的な技術の発展が可能になる。市場から去れば、技術は必ずや衰退する。市場は、技術を養い、技術を発展させ、技術を転換させ、技術を創造する」

 「もしも技術を他者に一端依存すれば、必ずや『供給を絶たれる』と言う痛みを被り、『首根っこをつかまれる』苦境に陥ることになる。「チップ(芯)がなく精神力が足らなければ」、一撃に耐えられない」

 「経済のグローバル化の下では、核心技術は「孫悟空の如意棒」のようなものだが、「手を伸ばせばすぐに手に入る」ものではない」

まとめ

 以上の中国側文献に基づく、中国のチップ産業に関する分析によれば、中国はZTE事件に象徴される米中貿易戦争の背景には、将来の軍事力、経済力、科学技術力など、総合国力の核心となる通信情報分野における、米中間の覇権争いがその本質にあるとみて、深刻な脅威感、対米警戒感を抱いていることは間違いない。

 またすでに制裁措置により深刻な打撃を受けており、今後さらに長期化し拡大するものとみており、その対策を国を挙げて検討し、これから取り組もうとしている。

 その際の最大の教訓とすべき歴史は、30年前の日米貿易摩擦であり、日本の轍を踏んではならないとみている。

 特に半導体の自主開発に徹することなく、米側の要求を呑んで、対米輸出の自主規制踏み切り、今日の衰退を招いた。その背景には、日本の安全保障面での対米依存があったとみている。

 中国は、米国に安全保障を依存してはいない。むしろ対米貿易戦争は最終的には軍事的覇権をめぐる戦いに至るおそれもあり、中国の対米警戒心は今後も強まるとみられる。

 米国も、ペンス演説でも表明されているように、中国は、米国の価値観や体制に挑戦し、米国から最先端技術を盗み、安い労働力を使って加工して米国に輸出し、対米貿易黒字から得た利益を軍事力拡大に転用し、安全保障面でも最大の脅威になっているととらえている。

 中国は、この苦境を打破するための方策として、

①政府による長期構想とイノベーションの重点の指示、基礎研究基盤の育成
②人材の育成・抜擢と人材集団の組織化③当初の技術導入とその吸収・消化、なるべく早期の創新、自主研究開発・製造への転換
リスクをとる果敢な経営・研究開発姿勢の維持と長期継続的な集中大規模投資
⑤軍民学を挙げた重点項目に対する自主研究開発努力の継続と相互協力
⑥政府による、全般長期戦略計画に基づく継続的指導、特に業界全般の財源開発とリスクマネーの提供、企業の弱点補償
⑦政府によるサプライチェーンの安全保障と調達・税制面での企業支援、科学技術者への奨励策の実施
⑧企業の自力更生と主体性の発揮
⑨産業界と学会の連携

 などの要因が挙げられている。

 毛沢東は、「我々はパンツをはかなくても原爆を開発する」と唱え、中国は自力で原爆や水爆、弾道ミサイルを開発した。

 本書『中国チップ産業の分析』でも、原爆や水爆の自力開発の歴史を引用し、今の苦境も自力開発努力により乗り切れると鼓舞している。

 有識者や中国コンピューター学会の挙げている対策は、いずれも現況を踏まえた合理的なものではあるが、それを実行できるかどうかは、不透明である。

 その成否は、人材の育成とその結集、科学技術と産業の基盤、資金力、政府の指導力と支援体制、軍官民の協力態勢、企業の自主経営努力など、種々の要因により左右されるとみられる。

 しかし、その根本は、次代の国力の盛衰を決める核心技術分野で他国、特に米国には決して制せられてはならない、何としても自力開発・製造を成し遂げるとの気概にある。

 かつて日本にも同様の気概があふれていた時代があった。中国が採ろうとしている政策の多くは、かつて日本も実践していた政策である。

 中国は、自力更生の気概をもって、核心技術のイノベーションを成し遂げ、対米覇権競争に臨もうとしている。

 しかしいまの日本は、すでにそのような気概を失ってしまい、自力更生の意思すら失っているのかもしれない。そうとすれば、新たな令和の時代になっても、日本の衰退は避けられず、米中との格差はさらに開くことになるであろう。

 日本にはかつての実績もあり、いまも基礎科学技術力や産業基盤は残っている。再生の潜在力は十分にある。

 通信情報産業においても、その他の分野においても、他者依存の精神から脱却し、自力自主、独立自存の気概を回復すれば、復興の道は拓けるに違いない。

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