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Point

統合失調症の症状を改善する救世主として、ブロッコリースプラウトに含まれる「スルフォラファン」と呼ばれる成分が注目されている

■スルフォラファンには、脳内でグルタミン酸が構成する「グルタチオン」と呼ばれるペプチドの生成を助ける働きがある

■スルフォラファンによる安全なサプリができあがれば、これまでの投薬とは異なり副作用の少ない統合失調症の治療が可能となる

メンタル・ヘルスケアに革命か?

米国ジョンズ・ホプキンス大学の一連の研究により、ブロッコリースプラウトの驚くべき効能が明らかにされた。なんと、ブロッコリースプラウトから抽出される成分が、統合失調症をはじめとした精神疾患救世主となるかもしれないのだ。

Assessing Brain Metabolism With 7-T Proton Magnetic Resonance Spectroscopy in Patients With First-Episode Psychosis
https://jamanetwork.com/journals/jamapsychiatry/article-abstract/2719702

The glutathione cycle shapes synaptic glutamate activity
https://www.pnas.org/content/116/7/2701.long

Sulforaphane Augments Glutathione and Influences Brain Metabolites in Human Subjects: A Clinical Pilot Study
https://www.karger.com/Article/FullText/487639

「スルフォラファン」がメンタルを救う

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幻覚症状などを伴う統合失調症には、投薬治療がおこなわれる場合がある。しかしそれは心臓血管病のリスクを高めたり「震え」の原因となったりと、様々な副作用をもたらす。

「JAMA Psychiatry」に掲載された研究の中で、研究者らは統合失調症の人と健全な脳のコントロールを保っている人の「脳の代謝」の違いについて調査した。対象となったのは、統合失調症傾向を持つ81人と、91人の健常な脳を持つ人々であり、平均年齢は22歳、そのうちの58%が男性であった。

その結果、精神病を患う人の脳の前帯状皮質と呼ばれるエリアにおいて確認されたグルタミン酸は、健常者の脳と比べて平均4%も低いレベルであったことが分かった。

グルタミン酸は脳細胞間のメッセージのやり取りに不可欠な物質として知られており、うつや統合失調症と関連があるとされてきたものだ。

さらに研究者らは、前帯状皮質において3%、視床において8%のグルタチオンの減少も発見した。グルタチオンは3つの小さな分子によって構成されているペプチドであり、そのうちの1つがグルタミン酸なのだ。

統合失調症患者は「燃料タンク」が小さい

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「PNAS」に掲載された別の研究では、研究チームはラットにL-Buthionine sulfoximineと呼ばれる薬を与え、脳細胞がグルタミン酸をグルタチオンへと変化させる酵素をブロックして、グルタミン酸の保存がきかないようにした。

すると脳細胞は活性化し、細胞間でより多くのメッセージをやり取りしていることが確認された。研究者いわく、こうしたバランスのシフトは統合失調症を患う人の脳内でみられるパターンと似ているとのことだ。

次に研究者たちは、このバランスのシフトを逆にすることで、グルタミン酸をグルタチオンとして保存ができないかを考えた。ここで登場するのが、先に紹介していたブロッコリースプラウトに含まれるスルフォラファンだ。

スルフォラファンは、グルタチオンを作り出すためにグルタミン酸を他の分子と結合させる酵素を生み出す遺伝子を「オン」にすることで知られているのだ。

研究をおこなったトーマス・セドラック氏は、「私たちはグルタチオンを、燃料タンクに貯蔵されたグルタミン酸であると考えています。燃料タンクが大きいほど、より遠くまでドライブすることができますが、タンクから燃料を抜いてしまえばすぐに走れなくなります。統合失調症の人々については、『小さな燃料タンク』の持ち主であると考えることができるのです」と語っている。

精神疾患が予防できる未来

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スルフォラファンがラットの脳におけるグルタミン酸のアンバランスな状況に変化を与え、脳細胞間の情報のやり取りに影響を与えていることは分かっていたため、研究者らは、これが人間の脳でも作用して精神疾患に悩む人への処方箋となりうるのかを探るための研究をおこなった。

「Molecular Neuropsychiatry」に掲載されたこの研究では、9人の健康なボランティア(女4名、男5名)に、ブロッコリースプラウトから抽出されたスルフォラファンをカプセル状にしたものを7日間摂取してもらった。

ボランティアのうち少数が、空腹時にカプセルを飲むことでおならが出やすくなったり、胃に不快感が出ることを訴えたが、全体的に大きな問題となるほどではなかった。

研究者は、被験者らのスルフォラファン摂取の前後で、脳の3つのエリアにおけるグルタチオンのレベルを観察。そして実験開始から7日後、彼らの脳内では平均して30%のグルタチオンの増加が確認されたとのことだ。

ただしスルフォラファンの安全性を確認するためにはさらなる研究が必要で、それによって適切な摂取量や、効果が出るまでにかかる時間を見極めなければならないのだ。

将来的にはブロッコリースプラウトから抽出された高いレベルの「スルフォラファン」を含むサプリメントが開発され、これが統合失調症などに処方される抗精神病薬の代わりとなり、より副作用の少ない治療が可能になることが期待される。

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reference: medicalxpress / written by なかしー
ブロッコリースプラウトが「精神疾患」の救世主になるという研究