uchida_2_190509.jpg
千葉県脳神経外科 内田賢一先生

脳卒中は、高血圧動脈硬化などの生活習慣病と関連が深いため、生活習慣の改善は、脳卒中の予防につながります。そうは言っても、具体的にどのようなことに気を付けて毎日を過ごせば良いのでしょうか?千葉県脳神経外科病院の内田賢一先生におうかがいする「脳卒中最前線」、連載2回目の今回は、脳卒中の予防のために気にしておくべき健康診断結果の数値や、予防につながる生活習慣について、詳しく教えていただきました。

――健康診断結果で気にしておくべき項目と、数値について教えてください

近頃の健康診断では、採血や心電図などの基本的な検査項目に加え、がん検査や脳ドック(頭部MRI, PET等)など、さまざまなオプション検査を選ぶことができます。ここでは、ほとんどの方が行う「採血」の結果のうち、脳卒中と関係の深いものについて、お話ししたいと思います。

脳卒中に関連して、特に気にしていただきたい血液検査結果の数値は、ズバリ、「脂質」と「血糖」に関する数値です。ご存知の方も多いと思いますが、これらは生活習慣病である「脂質異常症」と「糖尿病」に深く関連する数値で、異常の一歩手前くらいのところで改善できれば、生活習慣病や、脳卒中の予防にもつながります。

まずは脂質について。脂質異常症は、以前は高脂血症と呼ばれていたように、血中の脂質に関する数値が高い病気です。脂質=コレステロールで、その本体は「油」です。油なので、そのままの形では水(血液)に溶けません。そのため、脂質は、水とよく馴染むタンパク質に囲まれ、「リポタンパク質」という形態で、血液中に存在しています。リポタンパク質にはいくつか種類がありますが、注目すべきは「低密度リポタンパク質(LDL)」と「高密度リポタンパク質(HDL)」です。

LDLは、いわゆる「悪玉コレステロール」で、動脈硬化を進行させ、全身の血管に関する病気の原因となります。逆に、HDLは、いわゆる「善玉コレステロール」で、動脈硬化の進行を防ぐ働きをします。日本動脈硬化学会作成の動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版によると、「高LDLコレステロール血症」と「低HDLコレステロール血症」の診断基準値は、それぞれ空腹時採血で「LDLコレステロール140mg/dL以上、HDLコレステロールが40mg/dL未満」とされています。毎年の健康診断で、これらの数値に近づいていないかどうか、チェックしておくとよいでしょう。

コレステロール値と循環器病(脳卒中を含めた心臓や血管の病気)の関係性については、世界各国で多くの研究が行われています。例えば、「CTTコラボレーション」という、英国とオーストラリアが中心となって設立した循環器病の研究組織が2015年に発表した論文によると、高LDLコレステロール血症の人が、コレステロールを下げる薬をきちんと飲んで低い状態を保てば、飲んでいない人に比べ、循環器病や、それに関連した死亡のリスクが、明らかに低くなることがわかりました。これは、27の臨床試験に参加した17万4,000人のデータを統合的に解析して得られた結果です。このように、コレステロール値と脳卒中の関連性は、医学的に証明されており、コントロールの重要性が実感できます。

次に、血糖について。糖尿病も現代人における脳卒中のリスクとなることが、医学的に証明されています。血糖値の状態を確認するために、血液検査では、「HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)」の数値を参照してください。血糖値は1日の中で、食事のタイミングなどに応じて変化するのに対し、HbA1cは、過去1~2か月の血糖値の状態がわかる値です。糖尿病治療ガイドライン2007では、HbA1cの値が5.8未満は「優」、5.8-6.5未満は「良」とされています。ぜひ、6.0以下を目指してください。糖尿病は、脳卒中のリスクになるだけではなく、別名「サイレントキラー」と呼ばれるほど、無自覚のうちに病気が進み、身体を蝕む恐ろしい病気です。日本透析学会報告(2015年)によると、人工透析が必要となる慢性腎不全の原因は「糖尿病性腎症」が最も多く、その割合は43.7%にもなります。このように、生活の質や命を脅かす糖尿病を未然に防ぐために、一人ひとりが普段から健康的な食習慣や運動習慣を身につけるよう、ぜひ心がけて欲しいと願っています。

――飲食で特に気を付けるべきことは何でしょうか?

まず、当然のことですが「暴飲暴食」は、脂質異常症糖尿病のどちらにもつながるのでやめましょう。

また、「高血圧」も脳卒中の大きなリスク要因です。そして高血圧に強く関連する食事は「塩分」です。では、なぜ塩分を取りすぎると血圧が高くなるのでしょうか。塩からいものを食べると、喉が渇いて水を飲まないといられなくなりますね。これは、体が取り過ぎた塩分を薄めようとしているのだと考えて下さい。つまり、塩分をたくさん取ると、常に身体の水分(=血液)が増えて多い状態になり、たくさんの血液を循環させるためにポンプ(=心臓)が頑張るため、高い圧力(=高血圧)が必要となります。これが、塩分の取り過ぎで高血圧になる仕組みです。

日本人は、醤油や味噌といった調味料を好みます。平成28年の国民健康・栄養調査によると、日本人の塩分摂取量は平均10gです。世界保健機関WHO)が推奨する摂取量(成人の減塩目標)は5gなので、2倍も塩分を取っているわけです。この基準からすれば、日本人は全員高血圧になっていてもおかしくありませんが、実際は、高血圧になる人とそうでない人がいます。その理由のひとつとして、遺伝的な体質の違いが挙げられています。高血圧の3~4割の方は食塩の取りすぎで血圧が上昇しており、減塩で血圧が低下する「食塩感受性高血圧」ですが、残りの6~7割は食塩を減らしても血圧変化の少ない「食塩非感受性高血圧」とされています。

食塩感受性高血圧の方は夜間高血圧や心臓肥大、腎臓障害が起きやすく、心臓や血管系の病気の発生率が食塩非感受性高血圧の2倍と、医学論文で報告されています。自分が食塩感受性高血圧か否かの目安は、(1)減塩で血圧が低下した、または塩分を多く取った時に血圧が上昇した(2)夜間高血圧がある(3)蛋白尿がある(4)利尿剤が血圧の低下にとても効果的だった(5)高齢、糖尿病、肥満、腎機能障害にあてはまる、などです。心当たりのある方は、ぜひ、普段から積極的に塩分控えめを、心がけるようにしてください。

――食事以外に、普段の生活で気を付けるべきことを教えてください

冬季のお風呂トイレは脳卒中が起こりやすい場所です。2016年消費者庁の報告でも、冬季にこのような場所での脳卒中が多いことが示されています。これは、脳卒中を起こしやすい高齢者が住む日本式の建物のお風呂トイレに、暖房が完備されている場合が少ないことが原因です。さらに、お風呂トイレでは、衣服を脱いで体が外気に触れると、体を緊張させる自律神経の「交感神経」が優位となり、血圧が上がります。このように、急激な温度変化で血圧が大きく変化する健康被害を「ヒートショック」と呼び、65歳以上の高齢者に多いことが知られています。ただし、ヒートショックは防ぐことが可能です。ぜひ、寒い季節にお風呂トイレを暖かくし、高齢者が一番風呂に入るのを避けるなどの注意をしていただけたらと思います。

最後にもうひとつ。「喫煙」が健康に与える有害性は、疑う余地がありません。喫煙は、健康被害をもたらすだけでなく、ご本人が自覚しているよりも多くの費用がかかっています。例えば、たばこを1日1箱(500円)吸っている人を仮定してみましょう。20~80歳までのたばこ代は、実に1095万円にものぼります。逆に、この期間にたばこを吸わなければ、同じだけの金額を節約できたことになります。仮に、この人が50歳から禁煙を始めたとしても、548万円の節約になるわけです。

今回は、食事やお風呂たばこなど、脳卒中に関連した生活習慣についていろいろお話しましたが、脳卒中に限らず、自身の健康を守るために、始められることからひとつずつ、生活改善をしていっていただければと思います。

今日から始められそうな生活改善の方法がたくさんありましたね。次回は、脳卒中の治療について、お話をうかがいます。(QLife編集部)

【内田賢一先生プロフィール

千葉脳神経外科病院勤務。脳神経外科専門医、脳神経血管内治療学会専門医、脳卒中の外科学会技術認定医、神経内視鏡技術認定医、臨床研修指導医。2002年に福井医科大学を卒業後、福井赤十字病院、東京警察病院を経て、2013年より中東遠総合医療センター脳神経外科部長。2018年12月より現職。内田先生の個人ブログこちら。