2019年4月1日。日本中が新元号「令和」に沸いたその日、まだ「平成」に取り残されている2人がいた。

その2人とはお笑いコンビ「ななまがり」。『水曜日のダウンタウン』(TBS系列5月8日放送)の「新元号を当てるまで脱出できない生活」でのことだ。2人は3月31日の夜に連れ去られ、新元号を当てるまで帰れないと告げられる。

目の前には半紙と筆と墨と額縁。部屋は一切の情報が遮断され、辞書すらもない。そんな状況で「令和」を当てるなんて無理では……という不安をひっくり返したのは、番組が用意した絶妙なシステムと、ななまがりの聡明さだった。

「丁寧すぎる拉致」で笑いにする
新元号予想生活の前に、2人が連れ去られたシーンに触れておきたい。とにかく丁寧だったのだ。

ななまがりが呼び出されたのは、新宿の吉本興業本社。中庭沿いの廊下を歩く2人に、目出し帽の男たちが立ちふさがる。ワイプの中の浜田雅功「これ敷地内やからええねんな」と笑う。

笑うのには理由がある。ダメだった場所があるのだ。過去に番組でコロコロチキチキペッパーズナダルを路上で拉致したとき、本物の拉致と疑われて110番通報され、警察が動いたことがある。2018年5月、まさに“ちょうど1年前に”あった出来事だ。

今回、目出し帽の男たちは手荒な真似はしない。怖がる2人に「マスクを着けていただいてもよろしいですか」とアイマスクを差し出し、合意を得たうえで、ななまがりたちに自分でマスクを着けてもらう。「足元お気を付け下さい」と誘導した先には、別の目出し帽の男がワゴン車の前で「ただいま『撮影中』ご迷惑をお掛けします」という紙を通行人に見せている。

「襲うのとかコンプライアンス的に良くないんで」とハッキリ言う目出し帽の男。プレゼンターの麒麟・川島も「拉致」とは言わず「俗世から隔離」と表現していた。過去の事件を伏線に、何から何まで丁寧にして逆に笑いにしてしまう。転んでもただでは起きない。

「5分に1回の解答権」の意味
「新元号を当てるまで脱出できない生活」は、4月1日の新元号発表と共に行われた。場所は6畳2間の一軒家。正解が出るまで外に出ることはできない。

新元号(の予想)は、半紙に墨で書き、額縁に入れ、カメラの前で発表する。これを繰り返すのだが、ここに「5分に1回 解答権が与えられる」というルールがある。机の端にタイマーがあり、5分を常にカウントダウンしているのだ。カウントゼロと共に新元号を発表しなければならない。

もしこのルールがなかったらどうなるか。何もヒントがない状態で新元号を当てるとなれば、手当たり次第に漢字を書くことになるだろう。とにかく数を打とうと、新元号を書く人・額縁で掲げる人を分担するかもしれない。そこでもし新元号が偶然出たとしたら、流れ作業の最中に突然「当たりました」と終わってしまう。これでは「元号を発表する」という雰囲気が全くない。

「5分に1回 解答権を与える」ことにより、次の一手を考える時間を強制的に作り出し、「新元号は○○です」と発表するタイミングを与える。「新元号を当てる」だけが目的ではない。「新元号を当てて発表する」までちゃんと撮るためのルールだ。

暮らしと脱出、どっちを優先するか
ノーヒントでのスタートのため、最初はただただ元号っぽい漢字を書いていくななまがりの2人。「大正(T)昭和(S)平成(H)とイニシャルがかぶらないのでは」などと予想するが、不正解音は「ブー」しかなく、惜しいかどうかもわからない。ボケの森下は「笑国(えこく)」「現希(げんき)」「歯姫(はひめ)」など独特な元号を連発する。

そんな消耗戦を放っておくスタッフではない。開始から24時間経過後、「ポイント獲得チャンス」がやってくる。毎日午前0時に2000円が支給され、クイズに正解すれば上乗せが可能。同時に「物品表」が配られ、生活必需品や嗜好品のほかに、「ヒント3000円」「ヒント5000円」「ヒント10000円」の文字もある。

ヒントだ!と色めき立つ2人。最初こそタバコ2本(1本50円)とライター300円)を買って一服したものの、着実に所持金を貯めて「ヒント梅」を購入。「ヒント梅」は新元号の印象を尋ねる街頭インタビュー映像。「綺麗」「覚えやすい」「明るい音で終わる」「1文字目がんばったな」という証言を、必死でメモするツッコミの初瀬。これまで発表した元号も、全て付箋に書いて窓に貼ってある。

その後、お風呂セット1000円)もエアコンのリモコン3000円)もスルーし、2人はポイントを貯め続ける。いったん寝ようと提案したり、もう一回タバコを買って2人で吸ったり、ケンカをすることなく協力しあう姿が印象的だ。

ヒント竹」はスルーして、5日目の午前0時に「ヒント10000円」を遂に購入。2人の元に届いたのは、謎のランプ。いくら元号を発表しても何も起きなかったのに、「世京(よきょう)」のときに小さく灯った。……なんだ?

「蓮和(れんわ)」という分岐点
番組終盤は、このランプとの攻防に費やされた。実はランプの点灯には法則があり、「総画数(13画)が一致」で小さく灯り、「頭文字がR」で中くらい、「一文字(令or和)が一致」で大きく光る。「世京」は「令和」と同じ13画だったのだ。

ただ、この法則をななまがりは知らない。「世京」がなぜ光ったかもわからないし、段階があることすら知らない。再び全くランプが反応しない時間が続く。やがて「聡和(そうわ)」でランプが大きく光った!

「めちゃくちゃ光った!」とメモをとる初瀬。「聡なのか和か……」と森下。和が合っているのでは?と「冠和(かんわ)」を出し、またもランプが大点灯。「楊和(ようわ)」「華和(かわ)」と出して和を確信。スタジオ松本人志は「一回『和』を外して『和』であることを確認せいや!」と裏を取ることを勧めるが、その声はVTRに届かない。

続いて出したのは「蓮和(れんわ)」頭文字がRなので、ランプが中と大の2回光り、さらに驚く2人。「より惜しいということ?」「『れん』があってる?」と、「隣和(れんわ)」「連和(れんわ)」「練和(れんわ)」で2回点灯を確認。さらに「『れ』だけ合ってる可能性ない?」という森下が「『れいわ』とかにしてみて……」と、出した元号は「零和(れいわ)」! 着実に近づいてる……!

それにしても、ななまがりが「れ」にたどり着いたのは幸運としか言えない。「頭文字がR」で点灯してしまうので、例えば「論和(ろんわ)」「乱和(らんわ)」でも同じように2回光るのだ。「『ろ』だけ合ってる可能性ない?」と「ろ」を決め打ちにしていたら、果たして「れ」に戻って来れたかどうか。「蓮和(れんわ)」がこの企画の行先を決める、大きな分岐点だったと言える。

仮説と検証を繰り返した果てに
他の『れい』にしてみようと出した「霊和(れいわ)」に、「そんなわけあるか!」「ゴーストやん!」とスタジオからの総ツッコミを経て、続いたのは「礼和(れいわ)」。総画数が13画。ランプが3回光った。画数に気がつかないななまがりは「わからんへん!」とパニックに。

ここでようやく松本人志の声が届いたのか、「和をなくしてみる?」と「礼非(れいぴ)」を出す。あえてありえない「非」を入れて様子をうかがったが、これもたまたま総画数13画。ランプが小・中と2回光ってしまう。混乱する初瀬。メモを見返しながら「ちょっと待って……画数……!?」と気づき、トイレにいる森下に「わかった!!」と大声で報告(初瀬は「2014年よこすか大声大会」で優勝するほどの大声の持ち主)

「和は合ってる」「れいの音も合ってる」「画数が一緒ってこと?」。そうなれば残る狙いは「5画の『れい』」

ペンを走らせる初瀬。「来た!これ5画」「あっあっ!これや」。墨をする森下。「っぽい!」「これや!」「1文字目がんばったな、も分かるやん」「これで来い!」。額縁を持つ。タイマーがカウントする。3、2、1、ゼロ。

「新元号は、『令和』です!」

総回答数921回、挑戦時間98時間40分。ななまがりは平成を脱出した。


ランプの点灯を3段階に使い分け、絶妙にひねったヒントを用意した番組側。偶然「和」と「れん」にたどり着いた幸運。そしてなにより、極限状態のなか協力し合い、辞書無しで漢字を書き続け、仮説と検証を繰り返して、見事「令和」を導いたななまがり。

全てが奇跡的にかみ合った1時間だった。正解が出た瞬間、スタジオは歓声に包まれ、見ているこちらも鳥肌が立った。4月1日の新元号発表よりも声が出た。生前退位じゃなかったら、こんなに興奮する企画はできなかっただろう。

ちなみに藤井健太郎氏のTwitterによれば、「ヒント竹」は「過去の元号一覧」だったとのこと。「令」は元号で初めて使われた漢字だし、「和」は昭和で使われたばかり。過去の元号一覧を見ていたら、正解は遠のいていたかもしれない。「ヒント竹」をスルーしたのもまた、ななまがりの幸運なのだった。

(井上マサキ

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