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使い終わったマスカラは、ゴミ箱にポイッという人がほとんどではないだろうか?でも実は、意外な活用法がある。それは野生動物の治療や身体検査だ。

マスカラブラシが緊急治療室の必需品?

気持ちよさそう / Credit: Jennifer Burgin

米ノースカロライナ州にある野生動物保護センター”The Appalachian Wildlife Refuge”には、毎年大量の使用済みマスカラが世界中の人々から寄付される。それらは決して、動物たちのまつげをフサフサにするためのものではない。

アパラチア地方では、リス・ウサギ・鳥などの小動物が、しばしば人間の活動の犠牲になっている。人間は、彼らの寝床である樹木を切り倒したり、彼らを車で轢いてしまう。野生動物保護の目的は、こうした動物たちの治療を行い、できるだけ早く野生に帰すことだ。

保護センターは、野生動物の保護やリハビリを行うための免許を持つ地元ボランティアのネットワークを運営している。彼らで組織されたケア施設は、この一帯で怪我をしたり、親を失ったりした野生動物の緊急治療室として機能している。

一般的な緊急治療室に欠かせないものといえば、メス・白衣・血圧計などを思い浮かべるだろうが、アパラチアの緊急治療室は一味違う。マスカラブラシが欠かせない道具の一つなのだ。

絶妙な毛の間隔と柔らかさが「たまらんな〜」

カメですらマスカラの虜なのだ / Credit: Appalachian Wild

緊急治療室に運び込まれた動物は、まず最初に身体を綺麗にし、怪我がないかを丹念に調べられる。こびりついた汚れを取り除くことで、感染を防ぐ必要があるのだ。その際、シラミやノミ用の長いブラシよりも、使いやすくて効果的なのがマスカラなのだ。これにより、かなりの時短になるのだそう。

ボランティアの一人であるジャニスバールソンさんによると、動物の体毛に埋もれた昆虫の卵・幼虫・ダニなどを一度で取り除くのに、マスカラブラシの毛の間隔がぴったりなのだとか。しかも、ブラシには動物の皮膚を傷つけないほどの柔らかさがあり、言うことなしだ。

うっとり… / Credit: Appalachian Wild

中にはマスカラブラシで撫でられることをこよなく愛する動物もいるほどで、両腕を無防備に広げて仰向けになり、「マスカラのナデナデ、たまらんな〜」といった感じで、うっとりするのだそう。かわいすぎる。

小動物のケアにマスカラを用いることを最初に思いついたのは、およそ30年間ボランティアを続けてきたジェニファー・バージンさんだ。ペットショップに犬猫用のグッズはたくさんあるのに、野生の小動物のためのグッズが少ないことから、身の回りにある家庭用品で代用していたという。

バージンさんはある日、動物の赤ちゃんの身体を掃除するのに使用済みのマスカラブラシを使うことを思いつき、試してみたところこれが功を奏した。

実際、ブラシで動物の身体を撫でることは、動物の身体検査に役立つ。

特にリスの場合には、親子の絆づくりにもブラシでのグルーミングが一役買っている。センターに運び込まれたばかりのリスの多くは、怪我を負っていたり、見知らぬ場所に連れてこられたことで、怒りっぽく敵対心を抱いている。リスの興奮を落ち着けるため、まるで母親がするように、身体を優しく撫でることが大切なのだ。

後を絶たない寄付とリクエスト

Credit: Appalachian Wild

2年前、使用済みのマスカラブラシの寄付を募るポストをFaceBookに投稿したことをきっかけに、保護センターが”Wands for Wildlife“(野生動物のためのマスカラブラシ)というプログラムを創設したところ、これまでに5万本を越えるブラシが集まった。寄付者は残ったマスカラ液を洗い落とした後でブラシを送ることになっており、送られてきたマスカラはスタッフがさらに洗浄した上で使用する。

また、保護センターはすでに化粧品メーカーなどとも提携し、不良品や販売中止となった新品のマスカラブラシの寄付も受けている。人間が使うことはできなくても、小動物のケアには活用できる。

はじめは寄付を呼びかけるところから始まったが、今では大量に集まったマスカラブラシを他の州や海外(ジンバブエまで!)に送るまでなった。世界中から「ブラシを送ってほしい」というリクエストが後を絶たないという。

2019年に保護センターで保護される野生動物は2,000匹ほどに上る見込みだ。1本のブラシは2〜3回使うと廃棄されるが、保護センターの地下倉庫にはまだ使われていないブラシが大量に眠っている。

医療品として使用された後は、施設で壁画として飾られる / Credit: Appalachian Wild

そこで”Wands for Wildlife”では、マスカラの色とりどりの持ち手や容器を利用して、地元の若者が動物の絵画を作成するアートプロジェクトを開始。完成した絵画は、将来保護される野生動物のための資金集めを目的としたオークションに出す検討をしているところだ。

保護センターの創設者の一人であるキンバリー・ブルースターさんは、マスカラを塗ることが困難だと語る。なぜなら、保護センターに届くマスカラブラシの多くには、環境を守るために役立てることを喜ぶ人々のメッセージが添えられていて、涙なしに読むことができないからだ。

数千のネット民が傷心なチワワのために一致団結、奇跡が起こる

reference: popsci / written by まりえってぃ
化粧品「マスカラ」が野生動物の救世主になっている話