
開成高校17名の学生から成るK-Diffusionorsは、難民問題を同世代に「伝える・拡散する=Diffusion」ことで、難民問題への意識改革を促そうと発足した団体です。2019年1月にはメンバー5名がウガンダ・ビディビディ難民居住区を実際に訪問。帰国後、その現状と各々感じたことを発信するイベント「KD Tokyo 2019 ー難⺠問題は、 じぶんごと?ー」を開催し、ワークショップを通して多くの中高生と思いを共有しました。
「もし難民キャンプの場に立ったら、どんな景色が見えるか?」という強い思い
K-Diffusionors創立メンバーの村川くん(写真右)と中原くん(写真左)に、発足のきっかけやビジョンについて伺いました。
―― 難民問題について考えるようになったきっかけは?
村川:世界の子どもを支援する国際協力団体であるワールド・ビジョンさんの「未来ドラフト」というアイデアコンテストを見つけたことがきっかけです。これは“難民の子どもたちの笑顔ある未来”を実現するためのアイデアをプレゼンするもので、「アイデアを出したら終わり」というコンペが多いなか、「アイデアを考えて届ける」というもう1ステップ向こうまであることに面白さを感じて応募を決めました。日本でどんなに良いアイデアを出しても、あくまでも偽善というか……机上の理論でしかない。本当に必要とされるアイデアなのか、実際に届けることに意味を感じ、「もしその現場に自分が立ったら、どんな景色が見えるだろう?」と強く焦がれてコンペに参加しました。
中原:村川はもともと国際問題や難民問題について興味があったようですが、正直僕はニュースで見聞きする程度でした。彼とは同じバトミントン部で、夏合宿中に「一緒に未来ドラフトに応募しよう」と誘われ、残りの夏休みを使って難民問題についてリサーチをしました。コンテストは9月上旬だったので、非常に短い期間で集中して調べたという感じでしたね。
―― メンバーを集める際に、工夫したことはありますか?
村川:未来ドラフトが終わり、「もっと難民問題について知りたい、調べたい、実際に見てみたい」という気持ちが僕たちの間で強くなりました。そしてもっとメンバーを増やそうということになり、メンバー探しが始まりました。
まずサッカー部の部長で人脈が広く、海外への興味もある平沼に声をかけました。そのつてで国際問題などに関心がある人物を1人1人誘い、少しずつメンバーを増やしました。
中原:開成高校は海外の大学進学を目指している人も多いので、海外に視野を広げている人も少なくありませんが、難民問題に興味があるかというと、その数は多くありませんでした。しかし難民問題の深刻さやストーリーに触れ、次第にのめり込んでいきメンバーも増えました。調べるにつれメンバーたちが「もっと知りたい」「これは取り組むべき問題だ」と意識が変わっていくのが分かりました。
暗いイメージだった難民キャンプでは、子どもたちの歌で迎えられた

―― 実際にビディビディ難民居住区を訪れて、イメージしていたものと違った部分はありましたか?
中原:日本で調べているときは、「生活が大変」「食料が足りない」といった情報が多かったのですが、実際に行ってみると負の面だけではないことに気づきました。例えばワールド・ビジョンさんが運営している学童保育のような施設“Child Friendly Space(CFS)”に僕たちが入って行くと、たくさんの子どもたちがわーっと集まってきて、歌を歌って歓迎してくれて、子どもたちは非常に明るいんです。どんよりと暗い雰囲気を想像していた僕たちからすると、とても意外でした。
―― 現地訪問やイベント開催のための資金調達や情報収集はどのように行いましたか?
村川:渡航支援やこのイベント運営に関しては、ワールド・ビジョンさんに共催という形でお願いをしました。また資金面ではさまざまな企業に連絡を取り、協力を仰ぎました。最初は企業ホームページの問い合わせフォームから連絡をしていたのですが、断られることが多かったので、学校の先生や先輩に企業の方々を紹介してもらいました。実際にアポイントを取り、自分たちの思いを伝え、資金協力をお願いする営業活動を行って資金調達をしました。
―― イベント開催にあたり、一番苦労したことはなんですか?
中原:イベント実施までのスケジュールの組み立てや、事務作業が大変でした。例えば今回はオリジナルのクリアファイルを作ったのですが、そのデザインを締め切りまでに納品したり……そういうことに慣れていないのでギリギリになりました。また企業の担当者の方とのやりとりなども初めてで、メール独特の言葉遣いなどにも戸惑うことが多かったです。
「高校生だから何もできずに終わる」のは我慢できないと奮起

―― 頭で考えていても行動に起こすことは難しいですよね。その原動力はどこからきているのでしょうか?
村川:未来ドラフトでのコンペの結果が、1位ではなく特別賞だったことが本当に悔しかったんです。調べただけで何もできずに終わるのは悔しい、高校生だから何もできずに終わるというのが我慢できませんでした。原動力は、「高校生でもやればできるところを見せたい」「何かを成し遂げたい」という思いの強さだと思います。
僕が最初に誘った中原は、静かに見えて僕よりもエネルギー量の高い人物で、一度やると決めたら絶対に最後まで諦めない人。だからこそ声をかけました。また他のメンバーとも得手不得手を補い合って協力し合いながら進んでいるので、仲間に恵まれたのも大きいと思います。
―― K-Diffusionorsの活動をきっかけに、ご自身や周りの環境で変化したことはありますか?
中原:僕はもともと部活や勉強をやっていれば十分、というタイプでした。しかし仲間に恵まれ、いろいろと教えてもらい、視野が広がって外を向くようになりました。この活動がなかったら、こんな風にアクティブに動けるようにはならなかったと思います。
この活動は部活などとは違い、活動時間が決まっていません。授業や部活のすき間時間を見つけて企業訪問などをしていたので、時間のやりくりや使い方がうまくなったような気がします。
両親も特に何も言わず、応援してくれることもありがたいです。時々「学生の本分は勉強だぞ」と釘は刺されますが……(笑)。
―― お2人の「信念」を教えてください。
中原:この団体の名前の由来である“Diffuse”は「伝える」「拡散する」という意味です。僕たちはこの活動を通じて知ったこと・学んだことを「伝えたい」、難民が置かれている現状を「伝えたい」、そして“高校生でもできるんだ”ということも「伝えたい」。これが僕らの信念です。
―― 今後の目標を教えてください。
中原:現在メンバー17名は全て開成高校で、活動も東京で行っています。しかし東京だけではインパクトが小さいので、日本全国に拠点を広げていきたいです。たまたま福岡の高校生が興味を持ってくれたので、今後は福岡にも拠点を広げ、全国の人たちに難民問題について「伝える」活動をしていきたいと思います。
村川:僕はこの活動を経て、興味の対象が国際関係論に広がり、曖昧だった大学の進路も決まりました。先日倫理の授業で勧められた本を読んでみたら、哲学的な視点からも難民問題が語れることに気づきました。今後は自分が興味のあるもっと尖った部分について深めていきたいと思っています。
「難民キャンプではモノがないこと以上に、祖国を奪われた悲しさが強い。モノでは測れない“幸せ”を考えさせられた」とイベント内で発言していた村川さん。1位をとれなかった悔しさをバネに中原さんとK-Diffusionorsを創立し、難民キャンプに赴くまでの行動力と実行力の裏には、2人の深い優しさが垣間見えました。後輩たちに引き継がれたK-Diffusionorsの活動は、今後どんな広がりを見せてくれるのか楽しみです。
今後は開成高校以外のメンバーも募集していくそうなので、興味を持った人はホームページを覗いてみてはいかがでしょうか。
【profile】K-Diffusionors
開成高等学校 村川智哉(3年)、中原正隆(3年)
https://kaiseidiffusionors.wixsite.com/forabettersociety

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