2019年5月12日東京都昭島市「モリパークアウトドアヴィレッジ スピードクライミング ウォール」においてスピードクライミング世界一を決める大会「au SPEED STARS 2019」(以下「スピードスターズ」 )が開催され、緒方良行神奈川大学)が6.373のタイムを叩き出し日本新記録を更新。また16歳の新星、竹田創(私立仙台城南高等学校)が3連続自己ベスト更新の6.459を決勝でマーク、優勝のルドヴィコ・フォッサリ(ITA)に敗れたものの、2位と健闘した。

記録を更新した緒方良行 photo by tabasa

2位の竹田創(写真左)と優勝したルドヴィコ・フォッサリ(写真右)

竹田は「好成績を残すことができて嬉しい。しかし緒方君が6.373を出したので悔しい気持ちも残っている」とコメント。地元にスピードを練習する環境が充分になく、スピードを意識したトレーニングを積み、すべての記録会に出場することで今回の大会に備えたという。逆境をはねのけて結果を残した16歳は「世界のトップ選手と戦うことでいい経験になった」と笑顔で話した。

それまで藤井快(TEAM au)が持っていた6.620という記録を大幅に更新した緒方は「練習の時から、コンディション次第で記録は出せると思っていた。限られたチャンスを皆の前でつかむことができて嬉しい。スピードとボルダリングをもっと磨いてコンバインジャパンカップ、世界選手権で優勝したい」とオリンピック出場への意欲を見せた。

女子では怪我から復帰した野中生萌(XFLAG)が日本人トップの5位に食い込んだ。野中は「中国呉江大会後、痛みもあり疲労を取ることを優先した。強くなっている実感があるだけにとても悔しい。しかし昨年よりも増して世界との差は縮まっているように感じている」と悔しい気持ちをこらえながらも、前向きに自身の状態を分析して見せた。女子はアンナ・ブロジェク(POL)が優勝している。

大会を通して欧州勢のスピードクライミングにおける強さが際立った大会であったが、日本勢も竹田や緒方をはじめ記録を更新しており、オリンピックへ向けてスピードクライミングにおいて各選手の成長が感じられた大会となった。

野中生萌 photo by tabasa

予選

スピードスターズ」には国内外のスピードランキング上位の有力選手が集結。日本からは男子は楢崎智亜(TEAM au)や日本記録保持者の藤井快(TEAM au)、「第1回 スピードジャパンカップ」優勝の池田雄大(私立順天堂大学)が出場。女子は野口啓代(TEAM au)や8.904で日本記録保持者の野中生萌XFLAG)らが出場した。海外からは男子では世界ランク3位のドミトリー・チモフェーエフ(RUS)や世界ランク5位アレクサンダー・シロフ(RUS)が招聘。女子ではアンナ・ブロジェク(POL)らが出場した。

男子ではチモフェーエフが1本目から5.861という驚異的なタイムを叩き出し会場を沸かせ1位通過。日本勢では緒方が6.744の好タイムで5位、決勝トーナメントへ進出したほか、楢崎智亜、藤井、池田も6秒台で順当に勝ち上がる。
女子では野中が8.813の好タイムで5位通過。野口、伊藤ふたば(TEAM au)も決勝トーナメントに進む。倉菜々子(私立安城学園高等学校)、森秋彩(私立つくば開成高等学校)は惜しくも予選での敗退となった。

倉菜々子 photo by tabasa

決勝トーナメント

決勝トーナメントでは原田、池田、藤井、楢崎智亜といった面々がまさかの1回戦敗退。各選手スタートや展開的にはいいタイムが期待できるランを見せたが途中で足を滑らせるなど、世界の強豪にとの違いを見せつけられた。そんな中で存在感を示したのは緒方と竹田の2人だ。緒方は2回戦、スタニスラフ・ココリン(RUS)に敗れたもののタイムは6.373で日本記録を更新。オリンピックへ向けての成長が感じられる一幕となった。一方、伏兵・竹田は1回戦で日本記録更新の期待がかかる池田に勝利すると2回戦では優勝候補のドミトリー・チモフェーエフ(RUS)を自己ベストの6.745で撃破すると続くセミファイナルでも強敵ココリンをさらなる自己ベスト6.622で破った。決勝ではルドヴィコ・フォッサリ(ITA)と対戦。ここでも竹田は自己ベストを大きく6.459と更新、フォッサリのタイム6.058に敗れたものの、今後の大きな可能性を感じられる展開であった。池田が「惜しいポイントはそれでもたくさんあった。効果的なトレーニングを積んでいけば5秒台も夢じゃないのでは」と期待をかける竹田。今後の活躍に大きな期待が寄せられている。

ルドヴィコ・フォッサリ photo by tabasa

女子では決勝トーナメント1回戦、野中とヴィクトワール・アンドリエ(FRA)の対戦。野中は新記録ペースかと思われる良いスタートを切ったが手前で失速、ヴィクトワールに軍配が上がり、野中は敗退となる。ヴィクトワールは順調に勝ち進み、決勝ではアンナ・ブロジェク(POL)と対戦。ブロジェクが勝利し優勝となった。

アンナ・ブロジェク photo by tabasa

日本人選手コメント

楢崎智亜

楢崎智亜 photo by tabasa

最近はスピードは調子が良くなく、ボルダーの自分の弱点を補うような練習を中心に取り組んできました。6秒台も練習では最近は出ていませんでいたが、今日は出せて良かったです。周りの成長が早いので、遅れをとりたくないという焦りもあります。競技としての経験値が絶対的に必要だと感じた大会でした。

藤井

藤井快 photo by tabasa

直前の練習では7秒を切れず、いいタイムは出せていませんでしたが、隣の選手がちょうどいいタイムで、そこについていくことでいいタイムが出せました。やっと練習した成果が出てきたという感じがあります。ミスせず悉皆タイムを上げていく事が今後の課題です。

緒方良行

緒方良行 photo by tabasa

記録自体は練習の段階から更新できると思っていました。あとはコンディション次第だと考えていたので、自分の気持ちをポジティブに保つことを意識していました。限られたチャンスをみんなの前でつかむ事ができたので嬉しいです。トップ選手の中に自分も数えられていることを自覚して、今後もスピードとボルダーで成績を挙げていきたいです。

竹田

竹田創 photo by tabasa

2位になることができてかなり嬉しいです。観客の方もたくさんいて、後押ししてくれたのでこの成績が出せました。ありがとうございました。地元にはスピードを練習する施設が十分でないので、記録会は全て出て、スピードを意識したトレーニングを積んできました。世界のトップ選手と戦って5秒台のランを間近で体験する事ができたので、今後の大会にも生かしていきたいと思っています。

野口啓代

野口啓代 photo by tabasa

練習では9秒台がコンスタントに出せているので、今後自己ベストを更新していく自信はあります。もっと練習して下を見ず登れるくらいまで身体をスピードになじませていきたいと思っています。SJC以後からは池田雄大君にもコーチについてもらって練習しているので、毎回フレッシュな身体の状態を維持することで自己ベスト更新を狙っていきたいと思います。

野中生萌

野中生萌 photo by tabasa

中国呉江大会の後から肩に痛みがあり、調子はよくありませんでした。スピードスターズの大会に向けては疲労をとることを優先しました。強くなってきている実感があっただけに絵ちゃくちゃ悔しいです。練習自体はあまりできずに臨んだ今大会ですが、昨日の練習では8秒台がコンスタントに出て驚きました。今日最後のランではミスがなければ8秒台前半が出ていたと思うので悔しいです。昨年とは出場選手は違いますが世界との差は確実に縮められていると感じた大会でした。

森秋彩

森秋彩 photo by tabasa

予選では負けてしまいましたが、自己ベストに近い12台が出せたので結果は悪くなかったと思います。野中選手や野口選手との差が縮まらず、伸び悩んでいるところはあったのですが、筋力や下半身の強化が課題だと思います。オリンピックへ向けて、コンバインドでは得意のリードで1位をとって、競技運びをリードできるような試合運びができるように、リード5:ボルダー3:スピード2の割合で引き続き強化していきたいと考えています。

au SPEED STARS 2019結果

表彰式 photo by tabasa

優勝のルドヴィコ・フォッサリ(写真左)とアンナ・ブロジェク(写真右)

男子

優勝:ルドヴィコ・フォッサリ(ITA)
準優勝:竹田創(私立仙台城南高等学校)
3位:アレクサンダー・シロフ(RUS)
4位:スタニスラフ・ココリン(RUS)
5位:緒方良行(神奈川大学

女子

優勝:アンナ・ブロジェク(POL)
準優勝:ヴィクトワール・アンドリエ(FRA)
3位:エレナ・レミゾワ(RUS)
4位:エレナ・チモフェーエヴァ(RUS)
5位:野中生萌(XFLAG

THE MOMENTS of au SPEED STARS 2019

楢崎智亜 photo by tabasa

野口啓代 photo by tabasa

池田雄大 photo by tabasa

伊藤ふたば photo by tabasa

緒方良行 photo by tabasa

森秋彩 photo by tabasa

原田海 photo by tabasa

倉菜々子 photo by tabasa

photo by tabasa

photo by tabasa

au SPEED STARS 2019

photo by tabasa

スピードスターズ」は今回で2回目の開催となるクライミング・スピード競技の世界大会。海外の実力者が招かれ、スピード世界一を争って競技が行われる。予選は各選手2本トライできタイムの良い方を採用、男子は上位16名、女子は上位8名が決勝に進出できるタイムレース方式で行われ、決勝はトーナメント方式での競技となる。

開催概要

大会名:MORIPARK OutdoorVillage「au SPEED STARS 2019」 SPEED CLIMBING CUP
主催:昭和飛行機工業株式会社
主管:公益社団法人 東京都山岳連盟
公認:IFSC 国際スポーツクライミング協会
JMSCA 公益社団法人 日本山岳・スポーツクライミング協会 援:昭島市/昭島市教育委員会
企画運営:昭和飛行機工業株式会社
協 賛:KDDI 株式会社/サッポロビール株式会社/三井住建道路株式会社/ネッツトヨタ多摩株式会社/昭島ガス株式会社/立川バス株式会社/東商アソシエート株式会社
期 日:2019年5月12日(日)
会 場:モリパークアウトドアヴィレッジ スピードクライミングウォール (東京都昭島市田中町 610-4 MORIPARK Outdoor Village)
アクセス:JR 青梅線昭島駅」北口より徒歩 3 分

文・金子修平