Point
■NASAとジュネーヴ大学の研究により、宇宙の暗黒時代にも高い輝度を持つ巨大な天体があったことが示唆される
■この天体が宇宙に光をもたらした「再イオン化時代」の原因となっているかもしれない
■「再イオン化」は水素原子が陽子と電子に再び分離した時代で、この分離こそ光の高エネルギー源である
光あれ。
宇宙の暗黒時代に終焉をもたらした「巨大恒星」の存在を示す驚きの新発見だ。
スイス・ジュネーヴ大学およびNASAの共同研究によって、宇宙最初期の銀河にはこれまで予想されていたよりもはるかに明るい天体があったことが示唆された。
今回の発見は、宇宙が明るくなり始めた「再イオン化時代」に新たな見解を与え、宇宙の始まりの謎を解決する鍵にもなるようだ。
宇宙の「再イオン化時代」って何?
ビッグバン直後はきわめて高温・高圧の状態で、宇宙空間にも陽子と電子、および中性子しか存在していなかった。しかし宇宙が膨張するにつれて圧力が下がり、宇宙空間は徐々に冷えていくことになる。
そこで陽子と電子がくっついて水素原子が誕生するのだが、まだこの時点では天体は存在せず、光のない「暗黒時代」が続く。
ところが暗黒時代は、宇宙最初期に誕生したと思われる謎の天体によって突如終わりを迎えることになる。
どうやら天体の中に、強烈なエネルギーを持つ「イオン化光」を発するものがあったというのだ。イオン化光は水素原子を陽子と電子に再び分離する力を持っており、この分離プロセスを「イオン化」と呼ぶ。
つまり、宇宙空間に漂う大量の水素原子が再び陽子と電子に分離した時代という意味で「宇宙の再イオン化時代」と呼ぶわけだ。これが宇宙誕生からおよそ10億年後のことだといわれている。
イオン化された天体は言うまでもなく自ら強烈なエネルギーを発するようになる。今日のようなキラキラ光る夜空の星が見られるのは再イオン化のおかげなのだ。
再イオン化よ、なぜ起きた?
宇宙の再イオン化のおかげで暗黒時代は終わることになるのだが、研究者たちには解決しなければならない問題があった。
主任研究員のステファン・ド・バロ氏は「再イオン化が起こったのは事実だが、その前に何がキッカケとなったのかが分かっていない」と話す。
電離(イオン化)を起こすには、それ相応の高エネルギーを放つことのできる天体がなければならない。果たして暗黒時代にそのような光り輝く天体があったのか?
この謎を解明するため、研究チームはNASAの「スピッツァー宇宙望遠鏡」を用いて、天体観測を試みた。スピッツァーは2003年に宇宙空間に打ち上げられた赤外線望遠鏡であり、地球を追いかけるようにして太陽軌道を周っている。
チームはスピッツァーを用いて、ビッグバンから約10億年後に誕生した最初期の天体、つまり「宇宙の再イオン化」が終わる直前に存在した天体に焦点を当てた。
チームは、計135の銀河を200時間以上にわたって観測。その結果、それらはすべて2種類の特殊な赤外線の波長で輝いていることがわかった。
それら赤外線は、イオン化光が初期銀河内に漂っていた水素および酸素ガスと相互作用することで生じていた光だったのだ。
これは初期銀河に水素とヘリウムから構成された巨大な若い星々が存在していたことを示唆する証拠だ。しかもこの星たちは少量ながら、比較的重い元素である炭素や酸素、窒素を含んでいることも分かっている。
しかし宇宙で最初に星が誕生した時は、まだ重い元素がこの世に存在しなかった。そのため、水素とヘリウムという軽い元素しか含むことができない。要するにこの巨大星は、宇宙最初の星ではないということだ。
もしかしたら今回の星が、宇宙の夜明けを告げた光り輝く星なのかもしれない。
研究者たちはこの巨大星が、宇宙発達のミッシングリンクを埋めてくれることを期待している。
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