「新天皇が会見する最初の外国元首」を強調
米国のドナルド・トランプ大統領が25日から4泊5日の予定で訪日する。
米メディアはトランプ大統領が、新天皇が即位後、会見する最初の外国元首であることをことさらアピールしている。
(https://www.cnn.com/2019/02/20/asia/japan-trump-abe-visit-intl/index.html)
日本政府も「令和の時代における初の国賓としてトランプ大統領をお迎えすることは日米同盟の揺るぎない絆を象徴するもの」(菅義偉官房長官)と、これまた強調している。
大統領は、6月下旬に大阪で開かれる20か国・地域(G20)首脳会議に出席するため再訪日する。
(この際に同じく訪日する中国の習近平国家主席との首脳会談が行われる)
トランプ大統領の訪日は2017年11月以来2回目。その時は国賓ではなかったが、当時天皇だった上皇と会見している。
(新天皇は5月9日、9年間駐日大使を務め離日することになった中国の程永華(チョン・ヨンホア)氏と会われた。ワシントンには新天皇が最初会われた外国の賓客が中国大使であることを注視する向きもある。日中関係改善の兆しとして外交的意味合いがあると見るわけだ)
(https://www.excite.co.jp/news/article/Recordchina_20190511018/)
トランプ大統領の訪日が公式発表されて以降、具体的なスケジュールが五月雨式に流れている。
安倍晋三首相と千葉県でゴルフ、大相撲観戦と優勝力士への大統領杯贈呈式、安倍首相とともに海上自衛隊駆逐艦「かが」と米空母「ドナルド・レーガン」視察などなど。
日程がこれほど事前に漏れるのは異例
本来ならば、大統領の警備体制という点から大統領の外遊先などの公表は最小限にとどめる。
「特に誰でも入れる両国国技館での観戦を事前発表するとは。警護は大変なのではないのか」(米国務省筋)といった声も聞かれる。
シークレット・サービス(大統領護衛)は3月頃から訪日の際の大統領警護態勢の準備をしているという。
なぜ、そこまで今回のトランプ訪日計画が大々的に宣伝されるのか。流しているのは総理官邸筋(外務省ではない)であり、それをホワイトハウス(国務省ではない)が是認しているのはなぜか。
長年日米関係に関わり合いを持ってきた米国務省OBはこう指摘する。
「トランプ大統領の外交はまさにリアリティショーそのもの。事務レベルで事前に詰めたうえで首脳外交に臨むという外交の定番を完全に無視。メディア、特にテレビを通じて国民にアピールする外交ショーを最優先してきた」
「大統領に就任早々、習近平国家主席や安倍首相をはじめ外国首脳をフロリダの別荘マー・ア・ラゴに招いたのも同じ理由からだ。その外交的成果があっただろうか」
フランス大統領杯とトランプ大統領杯との違い
外国元首で大相撲を観戦し、それを機に2000年、日本相撲協会に大統領杯を贈呈したのはフランスのジャック・シラク大統領だった。
(その後シラク氏の政敵、二コラ・サルコジ氏が大統領になった後は「日仏友好杯」と改名)
シラク氏は日本の文化そのものに造詣の深い親日家だった。大統領になる前から大の相撲ファンだが、トランプ氏はというと、お世辞にも日本文化に詳しいとは言えない。これまで相撲など見たこともないのではないのか。
ただ相撲も古式豊かな伝統とか宗教的意味合いを除けばれっきとした近代格闘技だ。
ということであれば、トランプ氏は1988年、マイク・タイソンとマイケル・スピンクスとの世界ヘビー級タイトルマッチや88、89年の米プロレスのビッグイベント「レスルマニア」の興行主を買って出たりしていて、格闘技とは無縁ではない。
安倍首相から「日本に来るなら大相撲を一緒に観ないか」と誘われれば、「それなら、俺がリング(土俵)に上がって米大統領杯を贈呈するのはどうだろう」と乗り気になったとしてもおかしくはない。
トランプ大統領の相撲観戦について、2~3人の米市民に感想を聞いてみた。
ロスアンゼルス近郊のアルハンブラ市に住む主婦ホーリーさん(45)。
「米国でも格闘技ファンは男性が主体。テレビでも格闘技専門チャンネルが中継しているだけで一般市民に浸透しているわけではありません」
「聞くところによると、大相撲は子供からお年寄りまでファンは多いそうですね。国営放送が中継していると聞いています」
「その相撲の表彰式にトランプ大統領が出るとなれば、日本人は大騒ぎするんじゃないかしら。誰でも自分の好きなことを外国の大統領が楽しんでくれるのを観て喜ばない人はいないでしょう」
日米交換英語教師(JETプログラム)で日本に住んだことのある白人男子大学院生のロバート君(24)。
「大相撲は米国の格闘技とは異なる。相撲部屋はまさに前近代的な制度で、厳しい上下関係の中で力士を育てている」
「何百年も続いているのはその社会で培った品格と伝統だと思う。そうした規律と鍛錬の相撲とは全く正反対の人生を送ってきたトランプ氏がのこのこ出かけていくこと自体喜劇だ」
「力士は土俵に上がると塩をまいて身の清めるが、日本相撲協会はトランプ氏を清めるために何トンもの塩が必要なんじゃないのか」
「オバマは広島訪問」「トランプは護衛艦視察」
「トランプ氏が大統領としてやっていることは、オバマ大統領のやってきたこととはすべてにおいて反対だ。日本に対してもオバマ氏とは違うことをやりたいと思っている」
「オバマ氏は米国内の一部の反対(当時トランプ氏は原爆投下について謝罪しなければという条件つきで黙認した)を押し切ってでも広島を訪問して核兵器廃絶の祈りをした。安倍首相と一緒にパールハーバーにも足を運んだ」
「オバマ氏は、真珠湾攻撃と原爆投下という戦後の日米関係の原点に終止符を打とうとした最初の大統領だった」
「トランプ氏は絶対広島や長崎には行かない。その代わりに国技館に行く。日本の軍艦に乗り込む、といった具合だ」
「オバマ氏は天皇(現在の上皇)が玄関に出迎えた時、深々と頭を下げた。これが米国内ではやりすぎといった批判を浴びた」
「トランプ氏は深々とは頭は下げないだろう。だから米国の一部では天皇と会見する時に粗相がないように気遣う人がいるくらいだ」
新天皇との会見、宮中晩餐会にしろ、大相撲観戦にしろ、エキゾチックな日本は米メディアにとっては絵になる。
CNNはじめテレビ各局は競って映像を流すだろう。これをテレビで見るトランプ支持派は大喜びするに違いない。
南部、中西部に住む日本にはあまり関心のないハートランドの人たちにとっては対日認識を深める絶好のチャンスだ。
大統領の訪日に毀誉褒貶の米メディア
ロシアゲート疑惑、「司法妨害」疑惑を激しく追及してきている主要メディアも大統領の訪日を報道するだろう。
米下院はロバート・モラー特別検察官報告書を巡るウィリアム・バー司法長官の言動が「米国憲法上問題がある」として追及を強めている。
だとすれば、トランプ大統領に同行するホワイトハウス詰め記者団の頭から「トランプ疑惑」は離れない。
「ホワイトハウス詰め同行記者は常にそのことを頭に入れていないと本社デスクから叱責されるからだ」(米主要紙ホワイトハウス詰め記者)。
同行記者団を側面支援するのは東京に常駐する米国特派員たちだ。しかしその数は10年前に比べると激減。
訪日を機会に真正面から日米関係の現状をとらえ、激動する東アジアの大枠の中で分析できるベテラン知日派ジャーナリストは少なくなっている。
そうした中でワシントン・ポスト紙のアナ・ファイフィールド*1東京支局長あたりがトランプ訪日を軸に東アジアにおける日米関係の現状をどう報道するか、興味深いところだ。
*1=ファイフィールド氏はニュージーランド国籍。元北京支局長。
「トランプだろうとなかろうと日米同盟関係は最強」
日本の米国大使館に勤務したのち主要シンクタンクの上級研究員になった元外交官はこう指摘している。
「安倍首相はトランプ大統領ともケミストリー(相性)が合う稀有な政治家の一人だ。まさにサーカスの猛獣使いのようなものだ(笑)」
「ただその背景にはトランプ氏が大統領だろうとなかろうと、日米関係は史上最も良好で安定した関係がある。日本も政治大国となり米国も日本を頼りにしている」
「安倍首相にしても日本にしても、朝鮮半島情勢をはじめ日中、日ロ関係を考えれば、日米関係を強化・深化させていく以外に選択肢はないはずだ」
「安倍首相の今のトランプ大統領への接し方は適切だと思うし、論理的だと思う。だが、トランプ政権が未来永劫続くわけでもない」
「今や欧州諸国をはじめ世界中の国々が、一方的に相手方にプレッシャーをかけたり、条約や協定を一方的に破棄するトランプ大統領の型破りな外交に二の句が継げずにいる」
「英国もドイツ、フランスも苦虫を噛み潰したように見える。いつまでもこうしたトランプ外交を黙認するわけにはいかない」
「各国首脳はその算段を密かに考えているのだろう。日本とて例外ではないはずだ」
「今回の訪日はお祭り騒ぎになる気配がする。日米関係の歴史に残るイベントになるだろう。ただトランプ大統領が目論む外交ショーだけに目を奪われてはならない」
5月、6月はトランプ大統領にとっては外遊ラッシュが続く。
6月3日から6日には英国とフランスを訪問する。英国には3日から5日間、国賓として訪れ、エリザベス女王と面会する。
(英国では一部主要紙が「品格のない、嘘つきのトランプ大統領」を国賓待遇することに疑義を唱える新聞もある)
6月5日には第2次大戦の転換点となったノルマンディー上陸作戦から75年となるのを記念して南部ポーツマスで開催される記念式典に臨む。
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